閉店間際、本を売りに来た女(1)
「ふわぁ~…!」
―しかし、誰も来ねえな…。
読みかけの商品の本を片手に大あくびを かます古本屋の店員 -岬 杁夜はこの店唯一の店主以外の店員だ。アルバイトだが、一人しかいないので時給は他のバイトより高い。なんでも、この古本屋は貴重な本が豊富な為学者やマニアに 高値で本が売れるらしい。
―全然内容分からんけどな…。
「岬くん、そろそろ 店閉めようか~。もうこんな時間だし」 店主の田辺 恭助さんが奥から出てきた。80近くのご高齢で、今まで一人でこの店を切り盛りしてきたと言う。とても優しい方で本が大好きならしい。
時計を見るともう午後11時を過ぎていた。「そうですね。でも、なんでこんな遅くまでこの店開けとくんですか…?」
普通の本屋より閉店時間がとても長い。
するとニッコリと笑って田辺さんは言った。「あぁ、それはね。こういう時がときたまあるからさ。」
「こういう時…?」 田辺さんは店の外を 見ながら言う。
「ほら、…お客様だよ。」
「えっ…」
驚いて外を見ると月夜に照らされた黒髪の美女が立っていた。
形のよい艶めいた唇が開く…
「今晩は。こんな時間に御免なさい…?」
女は声も美しかった。