婚約破棄されたので魔女の秘術を使って立場を逆転させましたわ〜私を蔑ろにした王子様は今どんな気持ちかしら〜
あぁ……ほんとうに。
私は最期まで貴方を信じていましたのに……。
そこまで堕ちてしまったのですね。
「アリアリカ様?」
「大丈夫ですか?」
「ご気分が優れませんか?」
私は学園の校舎から離れ、春の日差しが照らす中庭で、仲の良い令嬢たちとベンチに座っていた。
「えぇ。大丈夫よ。少し考え事をしていましたの。でも、貴方達が心配してくれて、嬉しいわ」
「……ほんと、殿下ったら。アリアリカ様がいるのに、マリルさんにうつつを抜かして……ほら、また殿下と仲良くして……メモしませんと……」
食堂のガラスからは、私の婚約者であるカルマ殿下と、地方の平民の学園から転入してきた平民のマリルさんが同席しているのが見えていた。
『はい。カルマくん。あ〜ん』
『サクッ』
『うん……美味しい。やっぱりマリルの手作りマカロンは最高だな。ずっと食べていたいよ』
『きゃーー。カルマくんに褒められた〜。じゃあ、今日から私の手作り料理を堪能してください。私はずっとカルマくんと一緒ですからね!』
『あぁ。これから楽しみにしているぞ』
『あっ……。カルマくん……』
『ん? なんだ?』
『今日の夜……予定空いてる? 私……寂しくて……カルマくんが良ければだけど……』
『奇遇だな。俺も寂しかったから、ちょうどマリルを誘おうと思っていたところだ』
『やっぱり! 私とカルマくんって気が合いますね! 今日は……私の部屋で良いですか?』
『あぁ』
『……カルマくん! 明日が楽しみだね』
『まぁ、明日の主役は俺とマリルだからな……。マリル、次はそっちのケーキを…………』
私の耳には否が応でもカルマ殿下とマリルさんの会話が聞こえていた。
殿下の言葉を聞くたびに思ってしまう。
もう、毎日のように手紙を送り合っていた、私の知る殿下では無いのだと。
「……はしたないですわよ。盗み聞きは」
「え〜〜。でも、婚約者がいる身でマリルと親密な関係になる殿下が悪いでしょ〜〜」
「確かに、貴方が言ってる事は正しいですわ。でも……貴方、今の自分を鏡で見た方が良いわ」
「え〜〜」
「……食堂の外壁にひっついて盗み聞きは……その……あまりに非常識ですわよ……」
「あ……ごめんなさい。私、あの忌まわしきマリルが行った行為を、一言一句間違わずにメモをしているので……私の婚約者の為にも……」
そう……。
マリルさんは、殿下だけに留まらず、学園の色んな人にも手を出していた。
次第にその行動はエスカレートしていき、婚約者がいる殿方たちとの関係を持っていた。
「明日の先輩方の卒業式パーティー……。考えたくありませんわね……」
明日には3年生の卒業式パーティーが控えているが、3年生も、私達2年生も、顔が沈んでいた。
「アリアリカ様。明日の卒業式パーティーは……どうされますか?」
「……大丈夫ですわ。貴方達に心配をかけてしまって、ほんとに申し訳ありません」
「謝る必要はありませんわ。アリアリカ様が大丈夫なら良いのですけど……」
私は明日のために備えていた。
殿下……貴方はもう、長くないようですわ……。
◇
【パーティー会場】
『カツカツカツカツ』
誰にも、婚約者であるカルマ殿下にも、エスコートされる事なく私はパーティー会場に居た。
「アリアリカ様!」
「あら?」
会場の端から、親友の一人が私を呼んでいた。
「アリアリカ様。殿下はどうされたのですか?」
「殿下は……会ってないですわね。ほんとに、今頃どうされてるのか……」
「やっぱり」
「……どうされましたの?」
「さっき殿下がパーティー会場の入口で誰かを待ってましたの。アリアリカ様が会場内に居るのに外で待ってるなんて、おかしいと思いましたわ」
「……今に始まったことでは無いですわ……。カルマ殿下はマリルさんを選んだ。それだけです」
「アリアリカ様……。婚約者を蔑ろにする人が、この国の次期国王なんて……私…………」
『シュンッ』
その時、会場の照明が壇上に当てられ、そこにはカルマ殿下とマリルさんが居た。
「皆の者。少し時間を頂こう」
殿下のあまりに非常識な行動は、本来止められるべきものだったが、ここにその行動を止められる者は居なかった。
「我が婚約者のアリアリカは前に出ろ」
「……はい。なんでしょう? カルマ殿下」
「今日をもって俺は、お前と婚約破棄をする」
『カチッ』
その時、私のドレスの裾にある時計の針が2時の方向に進んだ。
魔女の秘術が組み込まれているカルマ時計が。
殿下。
貴方は婚約を破棄してしまわれたのですね。
「……それは、何故でしょうか?」
「先ほどお前の部屋から、お前が王妃となって王家を乗っ取り国を掌握しようとしていたという書簡が見つかった。故にお前との婚約を破棄する」
『まぁ……。アリアリカ様は罪人でしたのね』
『殿下に嫉妬したのではなくて』
『あいつ……いつかはやると思ったんだよ』
周りのご令嬢やご令息のヒソヒソ話が聞こえる。
そんな中でも、時計の針は動く。
『カチッ』
今は……4時ですか。
この時計は世界に住む人が、業を重ねる度に針が進み、0時になると業を強制的に背負わせる秘術が使えるとされている国宝級の代物。
そして、被害者にのみ加害者の業の回数が、数字となって加害者の頭上に可視化される。
「なら、わざわざこの場で堂々と言わなくても良かったのでは無くて?」
「……これは俺からの慈悲だ。元婚約者だった者としてのせめてもの情。感謝しろよ」
『カチッ』
……あと半分。
「では、カルマ殿下は私と婚約破棄した後は、どうされるつもりだったのですか?」
「ふっ……。そんなの決まっている。俺は、お前と婚約破棄した後、マリルと婚約する。これは、お前の愚かさが招いた結果だ」
『カチッ』
あと2回……。
「この事は陛下や王妃様もご存知で?」
「何を言ってる? そんなの知っているに決まっているだろう。なぜなら、父上にも、母上にも、今回の婚約破棄に署名してもらってるからな」
『カチッ』
あぁ……ほんとうに。
私は最期まで貴方を信じていましたのに……。
そこまで堕ちてしまったのですね。
「……殿下は、」
「アリアリカ。無駄なお喋りはおしまいだ。そして、俺の慈悲はこれまでだ。おいっ、王族騎士。この罪人を拘束し、牢に連れて行け」
「アリアリカ様。残念ですわ。私、カルマくんとの婚約を応援してましたのに」
「………」
「動くな。大人しくしろ」
殿下専用の王族騎士が私に手錠をかけた。
「殿下。最後に一つ、よろしいでしょうか?」
「往生際が悪いな。だが聞いてやる。なんだ?」
「マリルさんの……平民の……なんの後ろ盾も無い方と共に、カルマ殿下はこの国を繁栄させることは出来るのでしょうか?」
「は? そんなの出来るに決まっているだろう。マリルを推薦した者も居るからな。元より、お前は居なくても良いんだよ」
『カチッ』
時計の針が0時を指した。
「もう今後、お前と会うことは無いだろう。牢で自分がしたことを悔い改めるんだな」
カルマ殿下が私を見下ろした。
「……それは、貴方ではなくて?」
『キュイーン グルグルグルグル』
「お前は何を言ってるんだ」
『改めよ。時の業』
その時、会場が白い光に包まれた。
◇
「カルマ第一王子。私、アリアリカ・ノーレイは貴方との婚約を破棄しますわ」
「は? アリアリカ……お前は何を言っているんだ……先ほど、私が婚約を破棄して……」
(いや……何が起こった? 何故、アリアリカは壇上に居る? 何故手錠に嵌められていない)
「虚偽の申告、卒業式パーティーでの虚言、捏造、貴方にはそれらの疑いがありますわ」
『カルマ殿下らしいですわね』
『いつかやると思ってましたの』
(なんだ……この周囲の目は。先ほどまではこんな目ではなかったはず……)
「マリル……。君は固まってどうし……」
カルマ殿下はマリルさんの肩を掴んだ。
「その手、離してもらえます?」
「は?」
「罪人が私に触らないでもらえます?」
(……いつものマリルじゃない。いつものマリルはもっと俺に優し……)
『まぁ、なんて醜いのでしょうか』
『この期に及んで、往生際が悪いですこと』
カルマ殿下への周囲の目が更に冷たくなる。
『バンッ』
「カルマぁぁぁぁぁ」
会場のドアを勢い良く開けて、やって来たのは陛下と王妃様だった。
「カルマ、貴様はアリアリカ嬢になんてことを。お前のせいで王家と公爵家の繋がりが絶たれたのだぞ。貴様はどう責任を取るのだ」
「は? 何が起こって……」
「バシンッ」
陛下はカルマ殿下を叩いた。
「ち……父上。俺は悪くないのです。こいつが……アリアリカ嬢が俺に何かしたので……」
「黙れ。カルマ……。この期に及んで、まだ王家に恥をかかせるつもりか」
「それは……なぁ……マリル。私を助けてくれ。マリルの証言があれば……」
「……殿下」
「マリル……さぁ、証言を……」
「ここに居るカルマ殿下は……アリアリカ様の冤罪を仕立て上げ、公爵令嬢であるアリアリカ様を牢に入れようとした大罪人です」
「マリル?」
「そして、私は殿下と一緒に冤罪を仕立て上げ、婚約者が居る殿方を誘惑した魔女です。陛下。どうか……私たちを裁いてください」
「マリル、何を言ってる? いつもと言ってることが違うじゃないか。マリルは俺を愛していたんじゃないの……」
「殿下。昨日……いつも一緒と言い合いましたよね。同じ業を背負った人として、せめてもの報い。最期までご一緒します」
「マリル……。ふ、ふざけるな。俺は王太子なのだぞ。この国の王となる者なのだぞ。こんな所で廃嫡になるわけが……」
『まぁ……なんて醜い』
『私は殿下への支援を切りますわ』
『この男は、紳士として失格だ』
『この男の下には、就きたくないな』
カルマ殿下の耳には、先ほどまで己を称賛していた者たちの冷たい視線が降り注いでいた。
「話は済んだな。では、カルマ。今日を以て、貴様を廃嫡とし、虚偽の申告、卒業式パーティーでの虚言、捏造の罪、そして公爵令嬢を投獄しようとした罪で貴様を拘束する」
「ち……父上」
『ガシャッ』
カルマには、私が先ほどまでされていた手錠がかけられていた。
『カツカツカツカツ』
「アリアリカ……。お前なら分かってくれるよな。元婚約者として……」
「……」
「頼むから何か言ってくれよ」
私はカルマを見下ろした。
「カルマ……。貴方が何故こうなったのか、お教えしますわ。……これは、貴方自身が、己の『地位』に甘え、他人を巻き込んで身勝手な行いをした『罰』ですわ」
「アリアリカ……」
「これからは、罰一王子として、牢での生活を満喫してくださいませ」
私は振り返る事なくパーティー会場を後にした。
そこに残っていたのは、誰からも、愛した女性にすらも見放された男だった。
『カチッ……カチッ』
と、世界の業が重なったことを示すカルマ時計の針が進む中で。
(満了)
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普段は、世界の裏側の歴史を揺るがす現代異能バトル『rebellion the law〜神の行使者たちが抗う世界の史実〜』を執筆しています。
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