転生、その始発点
「夢中になれるっていいよね」
僕は青葉 奏。迷える高校生だ。
僕にはこの言葉の意味が分からない。
子供の頃から色々とやってきて、続けてきたけど、本当に自分がやりたいことなのか?
全部親に「やってみない?」と言われて初めたもの。
本当に好きになれたのか?好きになった気でいるだけじゃないか?
そんなことを思いながら、今日も朝、高校の、7階の剣道場で木刀を振るう。
これが一番落ち着くのだ。
「奏先輩!おはようございます!」
お辞儀をしながら入ってくるのは後輩の一ノ瀬。
僕とは大違いの元気な子。
全国でも名の知れた道場から来た期待の新入生。
一ノ瀬は、ちゃんと“夢中”になれる人間だった。
「先輩、いつも早いですね!」
「はは、これしかないからね。」
「いいなぁ、私もそんなかっこいい言葉言ってみたいです!」
事実、好きだろうが嫌いだろうが、こうして朝木刀を握り、振る。
これだけはやめられなかった。
振っている間だけ、自分が空っぽじゃなくなる気がした。
ブゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙
...この音は何だ?空から...?
剣道場の窓から外を見ると、そこには。
《緊急放送!緊急放送!制御不能の旅客機が校舎に接近!避難しなさい!緊急放送...》
「は...?」
校舎の中と窓の外から悲鳴が溢れ、けたたましいほどの警報が唸る。
エンジンから火を吹く鉄の塊が突進してくる。
いや、考えてる場合じゃない。今するのは。
「一ノ瀬!逃げるぞ!」
「は、はいっ!」
防具を脱ぐ暇もない。とにかく走れ!走れ走れ走れ走れ───
ヴヴヴゥゥ゙ゥ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙
いやだ、死にたくない!
音が大きくなるたび、近づいてくるのが分かる。
────間に合わない。
階段が遠い。ここなら直撃はない。ないが...
ゴアア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!
突っ込んでくる。不味い。
死ぬ?
僕が?一ノ瀬が?ふたりとも死ぬ?
...だめだ。せめて、一ノ瀬だけは!
ガシャアアアアァァァァン!
校舎に旅客機の左翼部分が衝突。
窓ガラスと金属と、部屋の残骸が弾け飛ぶ。
その破片は全方向へ飛び散り、僕達へ襲いかかる。
「先輩!!!!!!」
一ノ瀬────
───だめだ!お前は死ぬな!!!
...逃げるとき、木刀を投げ出さなかったのはこのためだったか。
犠牲は、1人で済みそうだ。
「うおおおおおおおおおおお!」
...あぁ、僕ってこんな才能があったのか。それとも火事場の馬鹿力か?
ガラスが、木片が、金属片が。迫りくる破片が全部見える。全部捌ける。
一ノ瀬は、一ノ瀬だけは、絶対守る!
───
、あ、この破片は、でかいな。捌けない。
「──!?─先輩!先輩ぃ!」
...あぁ、死ぬ間際って、こんな痛いのか。
お腹が熱い。口からクソみたいな味がする。
刀、握っていたいな。天井が見えるって事は、倒れたのか僕は。
...なんも成せない人生だったな。
「先輩!先輩!いや、いや!やだ!死なないでぇ!」
...一ノ瀬は無事か。なら、何かは成せたみたいだ。
ちょっとだけ、剣道が好きになったかもな。今際の際に。
───泣かないでよ。最期に見るのが泣き顔なのはゴメンだ。
「笑って...。生きて。...幸、せ...に...」
伝えたいこと、まだあるのに、口が動かない...
熱い、臭い、痛い、いや、もう何も感じない...
「や...だ.........!........!!」
...来世があるなら、また。刀を、振っていたいな。
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《応えましょう。》
───?
《貴方は亡くなりました。》
───...
《しかし、あの場では貴方のみです。》
───まじで!?
あ、僕喋れるんだ。
《正確には「思考」のみをしています。申し遅れました、私は死魂循環ネットワーク:命脈回廊の応答者です。》
命脈回廊?それって、ここは死後の世界ってことか?
《半分そうです。貴方には今、転生をする権利が与えられています。なお、この命脈回廊の応答者である私が───》
待て待て待て待て、転生!?マンガやアニメの話じゃないのか!?
じゃあ、特別な能力とか、チートとか貰えたりするのか!?
《その質問に答える事は現時点ではできません。》
はぁ。
《転生を拒否した場合貴方の魂は消滅します。ご了承下さい。》
え?ちょっと待ってそれは転生一択じゃないのか?
そんなのもっと生きたいに決まってる。
《...承知いたしました。では質問1:転生を受け入れますか?》
はい。
《受諾。質問2:転生時、固有特殊能力を獲得しますか?なお、固有特殊能力は公平性のため無作為に抽出されます。抽出回数は一回のみとなります。それでもよろしいですか?》
はい。
《受諾。固有特殊能力抽出中...》
せっかくなら、チートが良いな。
次は、心の底から好きになれるものを見つけるんだ...!
《抽出完了。固有特殊能力名〈保持転生〉。付随して最低必須能力〈自動翻訳〉。両能力獲得成功しました。》
おお自動翻訳。確かに異世界転生するなら必須だな。
それはそうと、保持転生...?チートの響きではないな...
《最終確認:これまでの選択を顧み、不明点があれば言って下さい。転生後、貴方はその世界で死なない限り、命脈回廊とは接続できなくなります。また、命脈回廊を介した思考記録は消滅いたしません。》
保持転生って?
《本来記憶のみを引き継ぐ転生ですが、容姿、ステータスも共に引き継ぎます。ステータスは徐々に復元されます。なお、復元されるステータス値は転生後世界のステータスに加算される形で復元されます。》
なるほど、強くてニューゲーム改め強くてニューワールドって所か。
まあ容姿に不満はないしいいか。親に感謝だ。
ありがとう応答者さん、もう大丈夫。
《確認しました。それではこれからこの空間は転生時の母親の胎内へと移行します。貴方の第二...いえ、これからの人生に祝福を。》
うわぁ、胎内とか聞きたくなかったなぁ...
こうして僕の最初の人生は幕を閉じた。
───次こそは、自分の好きに生きられるかな。




