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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅


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第9話:氷の槍が、奔る、跳ぶ、刺さる

 サジウス遺跡からの超高速飛行。

 疲れ切った僕らがゼノスの街に戻るや否や、待っていたのはギルド職員たちの慌ただしい出迎えだった。


 息をつく暇もなく、僕らはギルド支部の二階へと誘導された。そこは、一般の職員や共同体レゾナントは立ち入り禁止の、重厚な絨毯が敷かれた特別なフロアだった。


「こちらです。……支部長がお待ちです」


 案内された部屋の扉が開くと、そこにはいかにも「私は偉いんだぞ」というオーラを全身から発している中年男性が、豪華な執務机にふんぞり返っていた。


「私はギルド・ゼノス支部の支部長、ランドルフだ。まぁ、座り給え」


 促されるまま、僕はふかふかの応接用ソファに腰を下ろした。


 シャオさんは「何事ネ?」という表情でキョロキョロと部屋を見回しているが、クローディアさんはいつもの涼しい表情を崩さない。

 そしてアルテアは、座る僕の傍らで、いつも通り音もなくぷかぷかと浮いている。


「あのー、支部長。僕らを呼んだのは……」


 僕が口を開きかけるより先に、ランドルフが立ち上がり、ゆっくりと部屋を歩き回りながら話し始めた。


「さて。サジウス遺跡での調査、ご苦労だった。素晴らしい働きだ。期待以上の成果と言えるだろう」


「ありがとうございます。……それで、本題はなんです?」


「まぁ、そう焦るな。……単刀直入に言おう。今日、君たちが遺跡の内部で見たこと、聞いたこと。それら全てを、口外しないでほしい」


 その言葉に、クローディアさんの目が僅かに細まった。


「……その理由、聞いてもよろしいでしょうか?」


 ピリッとした空気。だが、ランドルフはそれを鼻で笑って一蹴した。


「ギルド事務総長の直々の指示だ。下っ端である君たちが事情を知る必要はない。いいかね、黙っていればそれでいいのだ」


 クローディアさんの真っ当な質問は、あっけなくシャットアウトされた。

 なるほど。神魔大戦時の古代技術や「映像記録」の存在。それらを隠蔽し、ギルド、あるいは背後にある何かが独占したいというわけか。


「そこで、だ。……。素晴らしい働きをした君たち二人には、是非とも次の遺跡の調査にも赴いてもらいたい」


 ランドルフが僕とアルテアをそれぞれ見据えて言う。


「君たちはまだ公式なランクがないそうだな。……それでは何かと動きづらかろう。特別に、今日から『Bランク』として登録してやろう」


「えっ、Bランクですか?」


「感謝したまえ。……さて」


 ランドルフは部屋をぐるぐる回る足を止め、クローディアさんのすぐ隣で足を止めた。

 そして、舐め回すような卑猥な視線で、彼女の身体的な特徴……豊かな曲線をじっと見つめ始めた。


(……うわ。最悪だ、この人)


 僕の嫌悪感のメーターが、一瞬でレッドゾーンに突入する。


「……クローディア、君たち共同体レゾナントはまだCランクだったか。新人に先を越され、さぞかし悔しかろう……どうだね、今夜。私の私室で、特別なランクアップ試験に挑戦してみないかね?」


 あからさまな誘い。だが、クローディアさんは眉一つ動かさず、軽く流した。


「お誘いは光栄ですが、今日は任務の疲れが溜まっておりますので。またの機会に」


「ふん……。相変わらず可愛げのない女だ」


ランドルフは不機嫌そうに鼻を鳴らし、また歩き出す。


「執行者の……シャオレイと言ったか。君は技を磨くよりも、もっと『女としての魅力』を磨くといい。その程度の身体では、男を喜ばせることもできまい」


「なんネ!?ケンカなら買うアルヨ!!」


 シャオが立ち上がろうとするが、クローディアさんがそれを手で制する。

 ダメだ、このおっさん。……アルテアが「消去」を提案してくる前に、僕の方が鉄拳でも何でもぶち込みたい気分になってきた。


 そして、ついにランドルフはアルテアの眼の前で立ち止まった。


「執行端末2号。……通称、アルテア。フム、近くで見ると、本当にただの少女にしか見えんな」


 あろうことか、彼は顔を近づけ、アルテアの頬や髪に手を触れようと手を伸ばした。


「私に触れるな」


 アルテアの冷たい声が響いた。


「揮発性硫黄化合物と、ノネナールの臭いが極めて強い。不快だ。離れろ」


「アルテア、あんまり刺激しちゃダメだって!偉い人だからさ……」


 一応、常識人として口を挟んでみる僕。だが、ランドルフは激昂して顔を真っ赤にした。


「なっ……!貴様、私を一体誰だと思っている!?ギルドの支部長だぞ!!」


「コータ。不快な個体の『消去』の許可を」


 アルテアが指を一振りすると、反重力によってランドルフの身体がふわりと浮かされ、拘束された。


「うわあああ!?なんだ、放せ!降ろせ!!」


「あー……うーん。消去はダメだ。アルテア。やりすぎちゃダメ」


 空中でもがくランドルフ。彼は僕の方を向き、必死に喚き散らす。


「コータ、と言ったか!貴様、なんとかしたまえ!執行者ハンターの手綱も握れんのか!それしかできない無能な監視者ハンドラーだろうが!!」


 友達……シャオさんやクローディアさんをディスられたことで、僕もどうやら相当イラついていたらしい。


 僕は静かに立ち上がり、アルテアを見上げた。


「アルテア。消去はダメだ。命は、ちゃんと助けてあげて」


「了解、コータ。『死なない程度の処置』に切り替える」


 シャオさんはこの後の展開が読めてきたのか、顔が引きつっている。

 そしてクローディアさんは……。あ、いつの間にか居なくなってる。


「出力、0.01%。ターゲット、ランドルフ」


「な、その光はなんだ!やめるんだ!やめ――」


「――氷柱アイシクル


 アルテアが指を鳴らした瞬間。


 ヒュヒュヒュヒュッ!!


  空間のあちこちから、研ぎ澄まされた氷の長槍が数十本も現れ、その全てがランドルフに向き、空中で静止した。


 スッ、とアルテアが手を下ろすと。


 ドドドドドドォォォォォン!!


 氷柱はランドルフの服を掠め、顔の真横を通り過ぎ――

 背後の豪華な壁、重厚なデスク、そして支部長室の外壁をも木っ端微塵に粉砕していった。


 その勢いは止まらないどころか、一射ごとに加速し、威力を増していく。


「うぎゃあああああ!!助けてくれぇぇぇ!!」


「アルテア、やりすぎ!本当に死んじゃう!ストップ、停まって!!」


「了解、コータ」


 アルテアが指を止めた瞬間、僕は自分の目を疑った。


 ……壁。壁がない。


 遮るもののなくなった眼下には、ゼノスの夜景。……いや、感心している場合じゃない。


 床には、さっきまでの威勢はどこへやら、ぐちゃぐちゃの顔で廃人と化した支部長が、生まれたての小鹿のように震えながら転がっている。


 アルテアが無機質な瞳を向けたまま、トドメを刺さんばかりに一歩近づくのを見て、僕は慌てて彼女の腕を掴んだ。


「あーもう!すみません!支部長、本当にすみませんでした!失礼します!」


 僕はもうヤケクソで叫ぶと、硬直しているシャオさんとアルテアを無理やり引きずって、崩壊した支部長室から脱出した。



 小一時間後。

 僕らはギルド近くの、活気ある酒場の一角にいた。


「ぷはぁーっ!!いやー、アルテアは本当に危ないネ!でも、正直めちゃくちゃスッキリしたヨ!!」


 シャオが巨大なジョッキのエールを煽りながら、上機嫌に笑う。


 いつの間にか合流していたクローディアさんも、ワイングラスを傾けながら優雅に笑っていた。


「ふふ、あのおじさま、何度丁重にお断りしても聞き入れてくれなかったので……正直、助かりましたわ」


 一方のアルテアは、言葉通り「片っ端から」運ばれてくる料理を、その無限の胃袋(?)へ流し込んでいた。


「コータ。この『串焼きポーク』の脂質バランスは最高だ。追加を要求する」


「はいはい、わかったから……。それにしても、お二人との依頼もこれで終わりですね。なんだか寂しいです」


 僕が正直な気持ちを漏らすと、クローディアさんが妖艶な笑みを浮かべて身を乗り出してきた。


「あら……コータさん。私と離れるのが寂しいのかしら?……うふふ、もし良ければ、今夜、私の部屋で『二人きりのランクアップ試験』、してみてもいいのよ?」


「あ、いい、いいです。丁寧にお断りしておきます……!!」


 顔を真っ赤にする僕を見て、シャオさんがジョッキをテーブルに叩きつけた。


「ったく!毎度毎度、甘ったるい空気を出すのはやめるネ!胸焼けがしてくるヨ!」


「あらあら。シャオには一生出せない空気だものね。……ごめんなさいね?」


「お前、いい加減にするネ――――ッ!!」


 ギャアギャアと騒がしいこのチームも、この打ち上げで一旦解散だ。


 ……けれど、ギルドであんな大惨事を引き起こした後だ。

 果たして僕たちに「無事な明日」は来るんだろうか。


 そんな不安を余所に、アルテアは10皿目のデザートを平らげ、満足そうに(相変わらずの無表情だけど)窓の外の月を見つめていた。

ご一読ありがとうございました。

気に入っていただけましたら、感想やフォローなどいただけると、執筆の大きな励みになります。

最後まで描き切れるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします!

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