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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅


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第8話:遺跡の調査には死の匂い

 サジウス遺跡の最深部。地面が割れ、導かれるように、僕たちはその「口」の中へと降り立った。


 ……降り立った、はずだった。


「おっと……!」


 不意に身体を支えていた浮遊感が消失し、僕はバランスを崩して地面に手をついた。

 膝を打った痛みに顔をしかめながら周囲を見渡すと、そこは地上とは全く異なる異質な空間だった。


「これは……一体何ネ……?」


 シャオさんが呆然とした声を漏らす。


 僕たちの目の前に広がっていたのは、ファンタジーな世界ではない。

 金属製の壁面。規則正しく点滅する小さな光。


 部屋の随所には、現代日本のオフィスで見かけてもおかしくない形状のデスクや、電源が入っていると思しきモニタ、そしてキーボードらしきデバイスが並んでいる。

 壁の奥には巨大なサーバーラックのような筐体が鎮座し、低い駆動音を響かせていた。


「古代の……遺跡?魔力の気配が全くしないわ」


 クローディアさんが、光るパネルを恐る恐る指先でなぞる。


「この光る板も、たくさんボタンのついた不思議な機械も……何に使うものなのかしら」


 間違いない。ここは神魔大戦以前の、超高度文明の残骸だ。

 部屋の中央には巨大な円形のテーブルがあり、それはまるで――軍の指令室のように見えた。


「アルテア、ここはいったい……」


 僕は隣に立つ彼女に問いかけた。だが、返事はない。


「アルテア?」


「おーい、お人形サン?返事するアルネ!」


 シャオさんがアルテアの目の前で手をぶんぶんと振る。

 だが、アルテアは一点を見つめたまま、置物のように固まっている。


 一方、その瞳の奥では膨大な文字列が超高速でスクロールしていた。


「……ネットワーク接続、確立。……基底サーバーを認識。……システム、神性魔導演算回路への直接アクセス……承認。クラウドサーバと同期中……」


 彼女の呟きと共に、部屋全体の照明がパッと明るくなった。


「あらあら、急に明るくなったわね。松明も魔法も使っていないのに、どうして……?」


「魔法じゃナイネ!勝手に光が湧いてきたヨ!」


 パニックになる二人を他所に、アルテアの瞳に生気が戻る。


「コータ。この施設内に限定されるが、ローカルネットワークの接続に成功」


「ネットワーク接続……」


「ねっとわーく……?さーばー……?アンタたち、何語を喋ってるネ!?」


 シャオさんが頭を抱えて叫ぶ。

 クローディアさんが「貴女の頭が悪いわけではないわ、私も一つも分からないもの」と優しく(?)フォローしているが、シャオさんは「一言多いネ!」と憤慨している。


 もし、彼女の言う「ネットワーク」が現代のそれと同義だとすると。


「アルテア、ファイルサーバーにはアクセスできる?過去の記録とか、映像とか」


「限定的だが、可能だ」


「なら、動画ファイルを検索してみて」


「検索実行。……四件のヒット。……『施設の正しい運用法(管理者向け)』『新任職員へのオリエンテーション』『神魔大戦・中期戦闘記録ログ』『破損した暗号化ファイル』」


「……それだ。三つ目の『戦闘記録ログ』。メインモニターで再生できる?」


「可能だ。出力を開始する」


 正面の最も大きな壁面全体が、滑らかな映像を映し出した。


 映し出されたのは、青い空。

 だが、その空には、今の時代には存在しない巨大な飛行艦がひしめき、美しい摩天楼が建ち並んでいる。


 そして――。


 空中に、一人の美麗な青年が浮いていた。

 銀髪をなびかせ、白銀の甲冑に身を包んだその青年は、無造作に右手を下ろす。


 ――光。


 その瞬間、雲を突くような高層ビル群が一瞬で『消去』され、そこにあったはずの文明が文字通りの「更地」に変えられていく。


 逃げ惑う人々も、迎撃する戦闘機も、彼の前では全てただの紙くずのように消し飛ばされる。

 映像は、その青年がカメラ……録画端末の方を振り返り、無感情な瞳で光を放ったところで、ノイズと共に途切れた。


「ひ……ひぃぃっ……!!」


 シャオさんが小さく悲鳴を上げて、僕の背中に隠れる。

 クローディアさんも、そのあまりに現実離れした暴力の記録に、顔色を失っていた。


「……アルテア。今の映像の青年は?」


「私だ。かつての私はあの姿で、プログラム通り文明を消去していた」


「以前、神魔大戦の記憶は無いって言ってたよね?何か思い出した?」


「この施設のサーバアクセスと同時に、クラウドサーバへの接続が一瞬だが確立できた。それにより、クラウド上に保管されていたデータを一部同期できた」


「ちょっと、待つネ!全然話が見えないヨ!説明するネ!!」


 混乱するシャオさんとクローディアさんに、僕は今までの経緯をざっと説明した。


 彼女がかつて世界を滅ぼしかけた『神の兵器』であること。僕がそのブレーキ役として召喚されたらしいこと。


「コータさんは異世界人で、アルテアさんは、1000年前の神側の兵器……」


 クローディアさんが、複雑な面持ちでアルテアを見つめる。


「そうだ。私は執行端末。文明が神の理を侵そうとしたとき、それを消去するために製造された」


「じゃ、じゃあ、なんで今はコータの言うことを聞いてるネ!?アンタ、本当はワタシたちを殺すために来たんじゃナイのカ!?」


 シャオさんが震える指でアルテアを指す。


 アルテアは静かに首を振った。


「現在、コータは『監視端末』として登録されている。監視端末は、執行端末が地球そのものを消去しないよう、常時干渉し、強制停止する権限を持つ。私のシステム上、彼の命令は神の命令に次ぐ優先度を持つ」


「監視端末……。それが、僕がこの世界に呼ばれた理由か」


 僕は自分の掌を見つめる。ただの学生だった僕に備わった、世界最強の少女への「ブレーキ」という役割。


「でも、なら今、どうしてアルテアさんは人類を襲わないの?神の命令はまだ残っているんでしょう?」


 クローディアさんの問いに、アルテアは首を傾げた。


「我々、執行端末の起動トリガーは、人類の『神の理への侵食』に依存する。かつての人類は、世界の根幹プログラムを書き換えようとした。だが、現在の人類は、退化し、生存することに手一杯だ。現状の文明レベルでは、神の脅威には当たらない。したがって、掃討の必要はない」


「なるほど、今の僕たちは『弱すぎて無視されてる』ってことか。皮肉なもんだな」


 僕は苦笑いした。

 かつての人類がアルテアを起動してしまったのは、彼らが「神の理」に触れる行為を行ってしまったから。皮肉にも、科学的発展が破滅を呼んだというわけだ。


「……アルテア、なら僕はなぜ選ばれたんだ?監視端末がなぜ異世界人である必要がある?」


「アクセスエラー。コータ、その領域のデータは同期できていない」


「そっか、仕方ない……あ、そういえばさっき『我々』って言ったよね」


「執行端末は、私だけではない。兄弟機は数機製造され、各セクターに配置されていた。この世界には、私と同等の出力を持つ個体が存在している」


 その言葉に、部屋に冷たい静寂が流れた。

 アルテア並みの爆弾が、他にも世界に転がっている。これ以上の悪夢はない。


「……な、なるほど……みたいな顔するナイネ!ちゃんと説明するネ!!」


 シャオさんがクローディアさんの涼しい顔を見て噛みつくが、クローディアさんは「貴女には荷が重い話よ」と軽くあしらっている。


「コータ、帰還するか?」


「……そうだね。戻ってまずはギルドで報告だ。情報が多すぎて疲れた」


「了解。反重力アンチグラビティ、展開。ターゲット、三名を指定。転送ルート、辺境都市ゼノス」


 ふわり、と浮き上がったかと思うと。

 僕たちは一瞬で加速し、遺跡の天井から空へと撃ち出された。


「ひぎゃぁぁぁっ!空飛んでるネ!死んじゃうアルーーー!!」

「あらあら……またスカートが、本当にもう……うふふ」


 気を失いそうな僕と二人は、夕焼けに染まるゼノスの街へと、まさに彗星の如く吹き飛んでいった。



 数時間後。

 魔導商都セレスティア、ギルド本部。通称『大議事堂』の奥深く。

 重厚な円卓を囲むように、四人の人物が腰掛けていた。


「我が『聖王国レガリス』が執行端末2号を起動してから、3週間が経過した。各国、進捗はどうだ」


 髭をたくわえた、威厳のある初老の紳士が問いかける。


「『イグニス』でも同様の洞窟が発見された。現在、起動実験を行っているが……結果は芳しくないな」


 軍服を着た、冷徹な瞳の女性が答える。


「『セレスティア』も同じく。古の大陸の記録を漁るのにも限界がある」


 痩身の、病的なまでに白い肌をした若い男が、不機嫌そうに指を鳴らした。


 最後に、ギルドの儀礼服を着た老人が、一枚の羊皮紙をテーブルに置いた。


「先ほど、監視鳥バードからの報告があった。2号が、サジウス遺跡を『再起動』させたようだ」


「おぉ……!」


 どよめきが走る中、痩身の男が興奮した様子で真っ先に口を開く。


「ついに古代文明の叡智が、あんな辺境で呼び覚まされたというのか!早速調査に向かい、失われた古代技術を研究しよう」


 だが、それを聞いたレガリスの紳士が鋭い視線を向ける。


「サジウス遺跡は我が国の領地。まずは我々レガリスだけで十分に調査を進めさせてもらう」


「待ちなよ」


 軍服の女が鼻で笑った。


「偶然レガリスで2号が起動したからって、勝手すぎやしないかい?そんな独占は許されないよ」


 痩身の男が身を乗り出し、言葉を重ねる。


「このプロジェクトで得た古代技術は、ギルドの法により各国へ共有されるべきだ。独占もなにもない。……そうだろう、レガリスの王よ」


 議論が白熱し、円卓に緊張が走ったその時。

 ギルドの老人が、議論を断ち切るように静かに、しかし断固とした口調で言葉を発した。


「サジウス遺跡はギルドの管轄に置く。我々の抱える専門の調査員に調べさせよう」


 老人の威圧感に、場が静まり返る。


「危惧していた2号の動向だが……。どうやら、共に召喚された異世界人と行動を共にしている限りは落ち着いているようだ。このまま泳がせて、様子を見るのがいいだろう」


 老人は一度視線を巡らせ、命令を下した。


「『レガリス』は2号の監視、『イグニス』は、『執行端末』の起動を引き続き行い、『セレスティア』は情報収集に注力せよ。……以上、解散だ」



 会議が終了し、軍服の女や、痩身の男たちが次々と退席していく。


 最後に残った初老の紳士は、窓の外に広がるセレスティアの夜景を見つめながら、独り言のように呟いた。


「古代技術は、我がレガリスが独占する。先祖の無念を晴らし、必ずや報復を……」

ご一読ありがとうございました。

気に入っていただけましたら、感想やフォローなどいただけると、執筆の大きな励みになります。

最後まで描き切れるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします!

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