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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅


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第7話:中国拳法のシャワーの中から美女が微笑む

 ここは辺境都市ゼノスの南、緩やかな丘陵地帯を貫く『ゼノス南街道』。

 僕とアルテアは今、ギルドからの緊急要請を受け、ある遺跡の調査任務に向かっていた。


「今回、複数共同体レゾナントでの任務らしいけど……」


 僕が手元の依頼書を確認しながら呟くと、隣をぷかぷかと浮いていたアルテアが、不意に視線を前方へ固定した。


「前方より反応を検知。二名構成。エネルギー波長から推測し、共同体である確率98%」


「えぇ、もう分かるの?まだ地平線に豆粒くらいの影も見えないんだけど……」


 彼女の「センサー」の優秀さには、相変わらず舌を巻く。

 数分後、アルテアの予言通り、遠くから二人の人影がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「――おーい!今回組むっていう新人ネ!?」


 まず聞こえてきたのは、かなり特徴的な語尾の声だった。

 近づいてきたのは、二人の女性。

 一人は、小柄で活発そうな女の子。現代で言うところの「チャイナドレス」風の赤い衣装に身を包み、頭には二つのお団子、可愛らしいシニョンキャップを被っている。


「ワタシ、シャオレイ!みんな『シャオ』って呼ぶネ!で、こっちの無駄に大きな女はクローディアって言うヨ。……覚えなくていいネ!」


 150センチそこそこの身長に、まさにステレオタイプな「チャイナ娘」といった風貌。この世界にも、そんな文化圏があるんだろうか。


 そして。


「こんにちは、コータさん。アルテアさん。今日はよろしくね」


 シャオさんの隣で静かに微笑む、もう一人の女性――クローディアさんは、まさに「大人の女性」という言葉を体現したような、長身でグラマラスな美女だった。

 セクシーな口元、禁欲的でありながら身体のラインを極限まで強調したタイトな衣服。

 ……正直、健全な男子大学生である僕には、目のやり場に困るレベルだ。


「噂は聞いてるヨ。魔力測定器を粉砕したっていうオカシな共同体レゾナントネ。……歩きながら相談するヨ」


 シャオさんに促され、僕らは目的地である『サジウス遺跡』へと足を進めた。

 サジウス遺跡。かつては考古学的な価値はないと思われていた、神魔大戦の「ただの瓦礫の山」だ。

 だが最近、魔物の活性化というイレギュラーな変化があったらしく、僕らが調査することになった。


「正直、ワタシほどの凄腕執行者がやるほどの依頼じゃないネ、こんなの!」


「あらあら、シャオ。……貴女には、これくらいの難易度がちょうどいいんじゃないかしら?」


 クローディアさんがクスクスと笑うと、シャオさんが顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。


「うるさいアルヨ!ほんっとにムカつく女ネ!」


(……共同体レゾナントって、こういう「デコボコ」なペアばっかりなのかな……?)


 デリクさんたちの時もそうだったけど、この世界のバディ制度はなかなか個性が強い。

 そんな賑やかな二人を、アルテアはじーっと、まさに獲物を観察する猛禽類のような瞳で見つめていた。


「コータ。うるさい個体の処理はどうする。消去、するか?」


「消去しないで!仲間だから!味方だからね!」


 慌てて止める僕。

 そんなやり取りを見て、クローディアさんが興味深そうに首を傾げた。


「ふふ、仲がいいのね。コータさん、そちらのアルテアさんとは長いの?」


「いえ、召喚……じゃなかった、出会ってからほんの数週間です」


「そう。……あら、アルテアさん?どうしたの?」


 気づけば、アルテアが音もなくクローディアさんの至近距離まで詰め寄っていた。

 数週間も一緒にいれば分かる。これは、彼女なりの「データ分析」だ。


「クローディア。その部位、移動や戦闘の際に制限は出ないのか。私にも、コータにも、シャオにも存在しないパーツだ」


 珍しい。アルテアの方から他人に話しかけるなんて。

 だが、その質問の内容はあまりに直球すぎた。


「制限?ああ、胸のことかしら。……うふふ、私は監視者だから激しい動きはしないし。何より、私自身、この重みは気に入っているのよ」


「ワタシにも存在しない、は余計な報告ヨ!!死にたいネ!?」


 シャオさんが背景でキレているが、アルテアは意に介さない。


「触れることは、可能か」


「いいわよ、おいでなさい」


 クローディアさんが包容力たっぷりに両手を広げると、アルテアは磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、ふわっとその豊かな胸元に顔を埋めた。


「これは。悪くない。非常に高い弾力性と、心地よい温度。コータも確かめてみろ」


「あら、コータさんもいらっしゃい」


「ぼぼ、僕はいいよ!!丁重にお断りするよ!!」


 僕は顔を真っ赤にして全力で首を振った。良識ある一般人として、死守しなければならない倫理の防壁がそこにはある。


「うふふ、冗談よ。……でも、本当に不思議な子ね、貴女は」


「シャオ。何故お前には、この高密度な緩衝材が実装されていない」


「ハァ!?そんなもの、ただの脂肪ネ!戦うに邪魔なだけヨ!効率悪いヨ!!」


 シャオさんは憤慨してズカズカと先を行く。

 ……お願いだからアルテア、これ以上あの子の神経を逆撫でしないで。



 やがて、僕らの目の前に『サジウス遺跡』が姿を現した。

 そこは、石造りの古い城跡……というよりは、崩壊した近代建築の成れの果て、という趣だった。


 足元に転がっている瓦礫をよく見ると、ひび割れたデスクのような台や、配線が飛び出したモニタっぽい残骸が埋もれている。

 やっぱり、1000年前の古代文明は、現代日本か……それ以上の技術を持っていたんだろう。


「シャオ、来るわよ」


 クローディアさんが鋭い声で警告した。

 瓦礫の山が突如として蠢き、ガガガッ、と石を擦り合わせたような轟音を立てて、巨大な人の形を成していく。


「おっと、ご登場ネ!古代遺跡の番人、ゴーレム様のお出ましヨ!」


「アルテア、消去……は、待って。まだ待って」


 僕は彼女の腕を掴み、リミッターをかける準備をする。だが、シャオさんがニヤリと笑って一歩前に出た。


「新人はソコで見てるネ!クローディア、解放ヨ!」


「ええ、わかっているわ。……解放リリース、出力70%」


 クローディアさんの全身から眩い蒼い光が溢れ、それが鎖のようにシャオさんの身体へと流れ込んでいく。

 瞬間、シャオさんの小柄な身体から、空気が震えるほどのプレッシャーが放たれた。


「無駄にデカい図体を、バラバラに解体してやるヨ!!」


 シャオさんの手足に魔力の光が纏い、彼女は独特の構えを取る。中国拳法というやつか。


「アイィィィィィィッ!!」


 鋭い気合と共に放たれた『震脚』。

 彼女が地面を踏み抜いた瞬間、その衝撃波は離れた場所にいる僕たちの足元までビリビリと響いてきた。


 一歩、二歩。

 縮地に近い速度で距離を詰め、シャオさんは自分より数倍は大きいゴーレムの懐に潜り込む。


「ハイハイハイハイィィッ!!」


 目にも止まらぬラッシュ。

 ゴーレムは岩の腕を振り回すが、シャオさんの小さな身体を捉えられるはずもない。彼女の拳が触れるたび、ゴーレムの外殻がパァン!と乾いた音を立てて弾け飛ぶ。


「ここヨ!鉄山てつざん――こう!!」


 全身のバネを使い、背中からゴーレムの胴体にぶつかる一撃。

 巨躯のゴーレムが、その一撃でぐらりと体制を崩した。


「クローディア!!」


「あらあら、いい声ね。……解放リリース、80%」


 シャオさんの右手に、光が集束する。


「これで終わりネ!『発勁』!!」


 手のひらをゴーレムの岩の胸板に叩きつけると。

 刹那、ゴーレムの背中から岩のつぶてが噴き出し、内部からズタズタに崩れ去った。

 崩落。ゴーレムは元のただの瓦礫へと還っていく。


「……すごい。……デリクさんのとは、また違った『技の重み』がある」


 僕は感嘆の声を漏らした。

 シャオはパンパン、と服についた埃を払い、得意げに胸を張った。


「あいつがBランクだなんて、ギルドの見識を疑うネ!ワタシたちが昇格するのも時間の問題ヨ!」


「シャオ。今の『あいぃ』という音声コマンドには、物理的な昇圧効果があるのか?」


 アルテアがまた変な質問をしている。

 シャオさんはやはり憤慨した様子で肩を怒らせる。


「無粋なお人形ネ!気合ヨ、気合!魂を乗せれば威力が上がる、道理ネ!」


「お二人が倒してくれたおかげで、調査が進められそうですね」


 僕がそう言った、次の瞬間だった。

 アルテアが不意に虚空を見つめ、無機質な声を響かせた。


「……再構築反応を検知。3、4……8。数が増加している。コータ、来るぞ」


 言ったそばから、周囲の瓦礫から文字通り「湧き出る」ようにゴーレムへと変形していった。

 8体。

 それも、さっきのより一回り大きい大型個体が、僕らを完全に囲んでいる。


「あ、あわわわわ!?さすがにこの数は欲張りすぎヨ!撤退、撤退ネ!!」


 流石のシャオさんも顔を青くしている。

 だが、僕は隣のアルテアの瞳に、すでに戦闘モードの光が灯っているのを見た。


「アルテア、やろう」


「命令を確認。……消去するか?」


「いや、こないだの……そう、今回はゴーレムだけを精密に狙って、出力……0.1%。『レイ』ってやつでお願い」


「了解、コータ。対象を『物体:ゴーレム』に限定。出力0.1%」


 クローディアさんが「コータさん、そんなことより撤退を!」と叫びきるより早く。

 アルテアの細い指先に、小さな光が収束した。


 「――レイ


 音が消えたかと思うほどの、純質なエネルギーの奔流。

 彼女の指先から放たれた一条の光は、空中で八つの筋に枝分かれし、まるで意思を持っているかのように全てのゴーレムの「核」を貫いた。


 …………。


 爆発すら、起きなかった。

 八体の巨大なゴーレムは、同時に機能を停止し、崩れ去る。


「「…………」」


 ぽかん、と口を開けるシャオさんとクローディアさん。

 ……だよね。びっくりするよね、こんなの。


 だが、僕らに驚いている暇はなかった。

 ゴーレムが消えた直後、遺跡全体が地震のような激しい揺れに見舞われたのだ。


「な、なんネ!?地面が開いてるヨ!!」


「まずいわ……ひとまず下がらないと」


 見れば、地面の石畳がガラガラと崩れ、その下から見たこともないほど巨大な金属製のハッチが現れ、口を開き始めていた。


「アルテア!みんなを浮かせて!今すぐ!」


「了解」


 アルテアが手を広げると、僕と、シャオさんと、クローディアさんの身体が、重力を失ったようにふわり、と浮き上がった。


「なんネ、なんネ!?ワタシ、飛んでるヨ!?」


「あらあら……スカートの中が見えちゃうわ。……うふふ、コータさん、見ちゃダメよ?」


 この状況で余裕のクローディアさんもすごいけど、僕の目線の下では、サジウス遺跡が文字通り「脱皮」するように、その真実の姿を晒そうとしていた。

ご一読ありがとうございました。

気に入っていただけましたら、感想やフォローなどいただけると、執筆の大きな励みになります。

最後まで描き切れるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします!

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