表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
奪還編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/83

第19話:激闘のトンネルが、狂気を孕む

※この小説の続きをスムーズにお楽しみいただけるよう、【ブックマークに追加】を押して設定を保存してください。

 エテリス大陸南部、山脈の奥深くに口を開ける『アクアス遺跡』。

 一歩足を踏み入れた瞬間、肌を刺すような冷気と、澱んだ湿り気が僕たちを包み込んだ。


「……暗いな。何も見えない」


ライト、っと」


 先頭を歩くジェシカさんが、無造作に手のひらをかざした。

 次の瞬間、眩い光の玉が浮き上がり、墓場のように静まり返っていた空間を隅々まで照らし出した。


「な……なんだ、ここは?」


「全然違う雰囲気…。不思議なものがいっぱい……」


 光に照らされたのは、苔むした岩肌ではなく、剥き出しのコンクリートのような無機質な壁だった。

 埃を被った電光掲示板のような板、錆びついて原形を留めていない改札機のようなゲート……。現代日本の駅とは似て非なる、けれど確かに「駅」としての機能を備えていたであろう名残が、そこかしこに点在している。


 もちろん、明かりが灯る様子はない。ここは1000年前に時間が止まった、死んだ鉄路だ。


「おい、少年。これを渡しておこう」


 周りをきょろきょろと見渡していた僕の前に、ゼンさんが革袋から何かを取り出し、放り投げた。


「おっと!……ありがとうございます。これは?」


 手の中に収まったのは、鈍く銀色の光を放つ金属の塊。

 その形状は、僕の知っている「拳銃」に酷く似ていた。だが、銃身には複雑な模様が刻まれ、内部で微かな魔力が脈動しているのを感じる。


「セレスティアの技術とイグニスの軍事力が生んだ、最新の『魔導銃』ってやつだ。俺も詳しい構造は知らんし、興味もねェ」


 なんとなく、教わったこともないのに僕はその銃を構えてみる。ずしりと重い。


「重いですね……」


「古代技術を解析して作られた、一部の人間のみが持つ代物だ。弾数は6発。引き金を引けば、圧縮された魔力の弾丸が飛ぶ。……いざとなったら、それで自分の身くらいは守るんだな」


 言いながら、ゼンさんは気だるげに先へと進んでいく。

 確かに、アルテアという『執行者ハンター』を失った今の僕は、Aランクの彼らから見ればお荷物でしかないんだろう。


「6発、か……。使わずに済むといいんだけど」


 僕はその冷たい金属の感触を、少しだけ怖く感じながら腰のポーチに収めた。



 駅の構内――おそらくコンコースだった場所を歩いていると、奥の闇からカラカラ、という嫌な乾燥した音が響いてきた。


「お客さんの到着だ」


「いやっほう、やろうぜデリク!数を競うかい?」


 二人は頼もしすぎる笑みを浮かべ、音のする方向へとのしのしと歩き出す。

 やがて闇の中から姿を現したのは、全身の肉を失い、カタカタと顎を鳴らす骸骨――スケルトンの群れだった。

 その数、ざっと二十体以上。


「「――解放リリースだ」」


 ジェシカさんとデリクさんが、同時に声を放つ。


「ちゃちゃっとやっちゃってくれよォ。20%ぐらいでいいかい」

「30%!デリク、行って!」


 その瞬間、デリクさんとジェシカさんの身体が、暴風のような魔力の輝きに包まれた。

 光が執行者ハンター二人に届くやいなや、文字通り「蹂躙」が始まった。


「うぉぉぉぉぉお!オラァッ!!」


 デリクさんの拳が、襲い来るスケルトンの肋骨を粉々に砕く。一撃で三体を纏めて粉砕するその威力は、やはり桁違いだ。


「ひぃぃぃぃやっほう!」


 一方、ジェシカさんの戦い方はさらに常軌を逸していた。

 彼女は実体のない魔力の巨大な盾を出現させ、それを物理的な質量兵器として叩きつけながら、もう片方の手で生成した魔力の槍で次々と薙ぎ払っていく。


(……なんだこれ。魔法の使い方、絶対に間違ってると思う)


 だが、倒しても倒しても、骨の破片は不思議な力で再び組み合わさり、スケルトンの形に戻っていく。


「チッ、手応えがねぇな! なんだこれ、不死身かよ!」


 デリクさんがイラつきなから吐き捨てる。


「……ああ、面倒だがネクロマンサーがどこかに潜んでるなァ。そいつを叩かねえ限り、こいつらは無限に湧いてくるぞ」


「なら話は早い、正面突破だ!ぶっ潰しながら進むぜ!」


「おいジェシー、人の話は最後まで聞け……。ったく」


 ため息をつくゼンさんを余所に、僕たちは激戦(というか一方的な破壊)の最中、下へと続く階段を見つけた。

 ここが僕の予想通りの構造なら、この先には……。


「皆さん、こっちです! 階段の下に道があるはずです!」


「コータさん、わかるんですか……?」


「はい、なんとなく、ですが……」


「ここはボーイの感覚に任せようぜ!」


 ジェシカさんの豪快な声に背中を押され、僕たちは階段の下、『プラットフォーム』へと降り立った。


「やっぱり……ここは古代文明の駅なんだ」


 現代の地下鉄を、数十年分も未来へ進めたようなSFチック光景が広がっていた。

 エレーナさんはその不思議な造形に目を丸くしている。


「駅……。セレスティアにも、魔導機関車が走ってるって聞いたことあるけど……。昔の人は、こんな地下を走らせていたの?」


「ええ、そのようです。ここを東へ進めば、国境を越えてイグニスへ入れるはずです」


 線路の上を歩き始めると、あんなにしつこかったスケルトンたちが、不自然なほど静かになった。


「……おや、鳴りを潜めたな」


「あはは!私らにビビって逃げ出したんじゃないか?」


「だと、いいんですが……」


 その時だった。


 ――ごごごごご……。


 足元から、不気味な地響きが伝わってきた。

 古いトンネル全体が激しく震え、天井からパラパラと砂埃が舞う。


「何か……聞こえませんか? 後ろです、後ろから何か来ます!」


 振り返った僕たちの視界に、それは現れた。

 何百、何千という骨がグロテスクに組み合わさり、高さ十メートルはあろうかという巨体を形成した『巨大スケルトン』。

 そしてその頭部には、赤黒いローブを纏った呪術師――ネクロマンサーが、不気味に鎮座していた。


「よっし、ようやく大物のお出ましだ!私に任せろぉぉぉ!」


「はいはい、解放リリースね。……少し本気で行こうか、60%」


 ゼンさんの合図とともに、ジェシカさんが跳躍した。

 彼女が手にする魔力の槍が、目がくらむほどの眩さで巨大化していく。


「うぉぉぉぉ! 刺突――《ピアース》!!」


 轟音とともに放たれた光の槍が、巨大スケルトンの胸部で大爆発を起こした。

 凄まじい衝撃波。トンネルの壁が砕け、瓦礫が雨のように降り注ぐ。


「よっし、やったか……って、あれれれ?」


 砂煙が晴れた先にあったのは、爆発のダメージなど欠片も感じさせず、瞬く間に骨を修復していく巨人の姿だった。


「ジェシカさん、下がって!やっぱり、ネクロマンサーを狙わないとダメみたい!」


 しかし、巨大スケルトンはその長い腕を振り回し、僕たちが近づく隙を与えない。

 あまりに全力の攻撃を加えれば、今度はトンネルそのものが崩落して、僕たちもろとも生き埋めになってしまう。


「不味いな。デリクとジェシーの戦い方は、ここでは派手すぎる。……逃げるかァ?」


「……いえ。皆さん、僕の合図に合わせて一回だけ動いてくれませんか」


 走りながら、僕は必死で頭をフル回転させた。


「デリクさん! 出力を抑えて、ピンポイントで殴ることはできますか?」


「ああ、部分的な破壊ラヴィッジならお手の物だ」


「ジェシカさん、あの巨人を数秒……いえ、一瞬だけでいい。動きを拘束できますか?」


「……!なるほど、ボーイ。合点承知だ!」


 巨大スケルトンが、その巨大な右拳を振り下ろした。

 ――今だ!


「ジェシカさん!!」


「うぉぉぉぉ!」


 トンネルの天井から地面までを覆い尽くすほどの、巨大な魔力の盾が展開された。巨人の腕が、激しい衝撃音とともにその盾に押し留められ、動きが停止する。


「デリクさん、今です!頭を、ネクロマンサーごと粉砕してください!!」


解放リリース……50%!!」


 エレーナさんの光を浴びたデリクさんが、弾かれたように跳躍した。

 盾を足場にしてさらに高く飛び上がり、巨人の頭上へ。


「いっくぜぇぇぇ!破壊ラヴィッジ!!」


 魔力を一点に凝縮した、最小で最大の拳。

 巨大スケルトンの頭部が、その上にいたネクロマンサーごと、跡形もなく消滅した。


『ギャァァァァァァァァァァァァ……ッ!!』


 ネクロマンサーの断末魔の叫びとともに、魔力の供給を断たれた骨たちが、雪崩のようにガラガラと崩れ落ちる。


「……やった」


「ヒュー、やるじゃねぇか、コータ!」


「ちぇーっ、私がとどめを刺したかったのに、ボーイはお節介焼きだな!」


 口ではそう言いながらも、ジェシカさんは満足げに笑い、僕の頭をガシガシと撫でた。


「あっ、見てください。光が……」


 線路のはるか先、暗闇のトンネルの終わりに、針の穴ほどの小さな光が見えた。  そこが、この遺跡の出口。


「あそこが……イグニス」


 僕は腰にある魔導銃の重みを確かめながら、出口に向かって再び歩き出した。

※この小説を面白いと感じていただけましたら、★★★★★の評価と【ブックマーク】で応援お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ