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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅


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第2話:人の運命を司るのは、神か、偶然か

 ガタゴトと、身体の芯まで響くような振動。

 僕は今、馬車の中に揺られていた。


 馬車。

 テレビの中とかでしか見たことのない、本物の「馬が引く車」だ。


 窓の外を見れば、さっきまで僕たちがいた「天井の消し飛んだ洞窟」が遠ざかっていく。

 改めて見ると、やっぱり異常だ。あの巨大な岩壁を、一瞬で、それも綺麗にくり抜くなんて、物理法則が仕事をしていない。


 「……あ、あの……コータ殿?」

 

 向かい合わせで座っているローブ姿の学者のお爺さんが、ビクビクしながら僕の顔色を伺っている。

 名前は、確かトマスさん、とか言ったっけ。この「遺跡発掘チーム」のリーダーらしい。


「はい。なんですか、トマスさん」


「い、いや、その……お怪我はありませんか?何しろ、あの『神の遺物』を抑え込むなど、我々の常識では考えられないことでして……」


 トマスさんは、僕の横――というか、馬車の天井付近でふわふわと浮かんでいる銀髪の少女をチラチラ見ながら言った。


 少女は、僕の隣で重力を無視して浮いている。

 服は、さっきトマスさんたちが予備で持っていた「見習い魔法使い用」のブカブカのローブを着せてもらった。


「ああ、大丈夫です。ただ、状況が全く掴めてないだけで。…ちなみに…ここ、日本じゃないですよね?」


「に……ほん?聞いたことのない地名ですな。……ここはエテリス。2000年以上前に神が創造したとされる、我らの世界です。そして、我々は今、聖王国レガリスの辺境を移動しております」


 エテリス。

 聞きなじみのない響きだ。


「なるほど……。いわゆる『異世界転移』ってやつか」


 ネット小説であれほど擦り倒されていた現象が、まさか自分の身に起きるなんて。

 普通なら「嘘でしょ!?」と叫んでパニックになるところなんだろうけど、さっきの「天井蒸発事件」を生で見せられた後だと、意外とすんなり受け入れられてしまった。


 というか、今は「なぜ来たか」よりも「どう生き延びるか」の方が重要だ。


「きみ、名前は?」


 浮いている少女に問いかけてみる。

 彼女はゆっくりと、まつ毛の長い瞳を僕に向けた。


「識別名、執行端末2号。通称、アルテア」


「アルテア、っていうのか。……その、喋り方、どうにかならないか?その『端末』とか『識別名』とか、どうしても機械の音声案内にしか聞こえなくて」


アルテアは一瞬、小首を傾げた。


「提案を確認。……対話用人格インターフェース、インストール中……。15%……40%……80%……」


「なんか、やっぱ機械っていうか、PCっぽいんだよな……。インストールって言っちゃってるし」


 僕が独り言を漏らしている間に、彼女の瞳が淡く発光した。


「インストール完了。……これでいいか」


 おお、無機質だった声に、ほんの少しだけ「抑揚」が混じった。

 冷たい氷の板に、わずかに春の陽光が当たったような、そんな微かな変化。


「ああ、さっきよりずっとマシだよ。よろしく、アルテア」


 僕が小さく手を振ると、アルテアは不思議そうに自分の掌を見つめていた。

 その様子を、トマスさんたちはまるで「起爆装置」でも扱うような、怯え切った目で見ている。


「あのー。この子、アルテアは一体なんなんですか?神の遺物って言ってましたけど」


 僕の問いに、トマスさんが背筋を正した。


「……ああ。コータ殿、貴殿の隣のこの少女……いや、この存在は、我ら研究者が追い求め続けた伝説そのものなのです。……1000年前の、『神魔大戦』をご存知か?」


「いえ、全く」


 トマスさんは、ゴクリと唾を呑み込んで語り始めた。


「1000年前、極限まで魔法文明を発達させた人類は、あろうことか『神の領域』へ手を伸ばしました。神の理を書き換え、己たちが世界の主になろうとしたのです。……それに怒った、あるいは反応した『神』が、地上を粛清するために送り込んだのが……執行端末、彼女なのです」


 神魔大戦。


 要するに、高度になりすぎた文明を神様がお掃除しようとした、ということらしい。


「じゃあ、アルテアはその時代の『兵器』ってこと?」


「仰る通り。……ただ、この器、この少女の体は、我々が古代の文献を元に作成した『機械人形(オートマタ)』です。しかし、そこに宿った精神……中身は間違いなく、神話の時代に人類の半分を滅ぼしたとされる『最強の兵器』そのものなのです」


 僕は思わず、浮いているアルテアを二度見した。


(この、細い腕の女の子が……。1000年前の核兵器みたいなもんか)


 アルテアの横顔を見る。

 確かに、感情と呼べるものが一切見当たらない。


「管理端末、コータ。指示はあるか。この馬車の移動効率を上げるため、進行方向の山脈を破壊し、最短ルートを作成するか?」


 アルテアが、さらりと怖いことを言った。

 窓の外にある遠くの山を、指先でピッと指している。


「いや、すぐ破壊しないで。っていうか、その『管理端末』っていうのもやめて。堅苦しいし。……コータ、でいいよ」


 アルテアは、瞬きを一回。


「了解。コータ。……命令文を更新。破壊の前に、コータの承認を必須項目に設定」


「うん、その設定は絶対に変えないように。本当にお願い」


 僕が頭を抱えていると、不意に馬車の速度が落ちた。

 外から、活気のある話し声や、金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。


「コータ殿、着きましたぞ。ここは辺境都市ゼノス。……そして、我らが『国際魔法監視連盟』、通称ギルドの支部がある街です」


 国際魔法監視連盟。ギルド。 


 異世界ものの定番が、また一つ。

 でも、トマスさんの顔は、街に着いたというのに晴れやかではなかった。


「我々は、大変なものを連れてきてしまったのかもしれません。……それを制御できるのが、貴殿だけなのだとしたら」


 トマスさんは僕の目を見据えて言った。


 制御。


 もし僕が、さっきあの洞窟でアルテアの手を掴んでいなかったら。

 僕は、彼女を見つめる。


 アルテアは、興味なさそうに、遠くを見つめていた。


 こうして、僕は愛犬の散歩に行く代わりに、世界を滅ぼしかねない最強美少女の『飼い主』……じゃなかった、管理役として、異世界の街へと第一歩を踏み出したんだ。

ご一読ありがとうございました。

気に入っていただけましたら、感想やフォローなどいただけると、執筆の大きな励みになります。

最後まで描き切れるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
面白いコンセプトの作品ですね。 文章も読みやすくて、物語の進むテンポも良いです!
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