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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅


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第11話:振り注ぐ火、舞い降りる樹霊

 僕とアルテアは、トマスさんに呼ばれてギルド、ゼノス支部に来ていた。


 何やら、直接話があるとか。


「あっ、コータさん。お待ちしておりました」


 ギルドに着くやいなや、親切な職員さんによって上層階の会議室へと案内される。


「こちらです」


 ガチャリと重厚な扉が開くと、そこには見知った顔であるトマスさんと……もう一人、見知らぬ男性が立っていた。


「お久しぶりです、コータ殿。この間のサジウス遺跡でのご活躍は、本部からも高く評価されておりますよ」


 トマスさんが、人当たりの良い笑顔で迎えてくれる。


「こんにちは、トマスさん。えっと……そちらの方は?」


 僕が視線を向けた先にいるのは、長身痩躯に腰まで伸びた長髪をゆるく束ね、銀縁の眼鏡を光らせている男性だった。口元には、薄く貼り付けたような、酷く胡散臭い笑顔が浮かんでいる。


「お初にお目にかかります。私はトマスさんと共に古代技術の研究をしております、『サイラス』と申します。以後、お見知りおきを」


 サイラスと名乗った男性は、舞台役者のように恭しく、大げさな身振りで頭を下げた。言葉遣いこそ丁寧だけど、……なんだか怪しげな人だ。


「こんにちは。僕はコータ、こっちはアルテアです」


 僕が紹介すると、隣で相変わらずふわりと浮いているアルテアは、無表情のまま、サイラスさんをじーっと観察し始めた。


「……よぉーく、存じておりますよ」


 しかし、サイラスさんはアルテアの無遠慮な視線を真正面から受け止めながら、少しも動じない。むしろ、面白そうな玩具を見るような目つきでアルテアを見返している。


 ……やっぱり、怪しい。


「で、今日呼び出された理由ってなんでしょうか?」


「はい。以前、サジウス遺跡の調査に向かって頂いたかと思いますが、今度はレガリア北部の『リブロ遺跡』へ向かって頂きたかった……のですが」


 言い淀むトマスさん。すると、眼鏡をきらりと光らせたサイラスさんが、トマスさんの前にずい、と進み出た。


「そこからは私が説明いたしましょう。――何を隠そう、そちらのアルテアさんの素体、つまりその『機械人形オートマタ』は、私が古代技術の文献から作り上げたものでしてね」


「えっ……」


 思わず声をあげてしまった。

 つまりこの人は、アルテアのお父さん、というか、製作者ということか。


「まあ、中に入っている『モノ』は別ですけれどね」


 サイラスさんはククッと喉を鳴らして笑う。


「やはり古代技術というのは未だ解明されていない部分が多く、アルテアさんの素体にも不備や経年劣化が生じるのですよ」


 僕はアルテアをまじまじと見つめた。


 いつも通り無愛想な顔でふわふわと浮いているし、最近は隙あらば食べ物を無限に詰め込んでいる。外見からは特段おかしなところは見受けられないけど。


 ……そういえば、彼女は食物を消化(魔力変換?)しているけど、ベースは機械人形だった。


「アルテアさん。右の肘を、深くまで曲げてみてください」


 サイラスさんが指示を出す。


「……」


 アルテアは言われた通り、自身の右肘をぐい、と曲げた。


 ギィ……ッ


 静かな会議室に、微かに、嫌な金属音が響いた。


「特に関節部分の魔力伝導機構が複雑でしてね……。ここ最近の魔法行使、あるいは想定外の何かで、負荷がかかっていると思われます。そろそろ、オーバーホールも兼ねたメンテナンスの時期かと思い、お伺いしたわけです」


「なるほど……」


「ゼノス支部の設備では精密な調整が不可能なため、一度、魔導商都セレスティアのギルド本部にある私の研究室へ戻ります。しばらく……そうですね、一か月ほど、こちらで彼女をお預かりする形となります」


 一ヶ月。


 僕がこの世界に来てから、彼女とずっと一緒にいた。

 それが、一ヶ月もいなくなるのか。


「……わかりました。僕は機械人形オートマタの知識は全くないので、サイラスさんにお任せします。……いいよね、アルテア」


 アルテアは僕を見つめ返し、パチリと瞬きをした。


「コータの指示なら従う」


 いつも通りの短い返事。でも、ほんの少しだけ、声のトーンが下がっているような……気のせいかもしれないけど。


 トマスさんが立ち上がり、話を締めくくる。


「では、リブロ遺跡の任務はそのあと、ということで。よろしくお願いしますね」


「状況はギルドを通じて、追ってご連絡差し上げます。……さあ、行きましょうか、アルテアさん。貴女の身体の隅々まで、じっくりと修理して差し上げますよ」


 サイラスさんはひどい悪役のようなセリフを吐きながらニヤリと笑い、アルテアを連れて部屋を後にした。



 数日後。

 隣に銀髪の少女がいない毎日は、想像以上に静かだった。


 食事に行っても一人前で足りるし、なんだか時間が余って仕方がないな。

 アルテアがいない以上、ギルドの依頼は受けられない。手持ち無沙汰に街をぶらぶら歩いていると――。


『ツンツン』


『ツンツンツンツン』


「痛っ! ちょっと、やめて」


 ギルドが連絡用に放っている監視鳥バードが僕の肩に止まり、狂ったような速度でくちばしを突き立ててきた。


「あれ、ギルドの招集かな……?」


 今は共同体としての武力活動はできないはずだけど。アルテアのメンテナンスのことで何か連絡でもあったのかな。


 そうこう考えている間も、監視鳥バードは僕の首筋めがけて無慈悲な連続攻撃を叩き込んでくる。


「わ、わかった!痛い、痛いって!わかったから!今すぐギルドに行くから!痛い!!」



「おい、ひょろひょろのお前が俺たちの『指導』をするって?」


 ギルドの応接スペース。


 威勢の良い男の子が、僕に向かって鋭い目線を飛ばしている。年齢は10歳前後、といったところだろうか。


「だめだよカイト。目上の人にそんなこと言ったら……」


 隣で杖を抱えたおとなしそうな女の子が、慌てて男の子をたしなめているが、彼は全然聞いていない。


「こんにちは」


「こ、こんにちは。コータさん、ですよね」


 女の子がペコリと深く頭を下げる。


「そうだよ。今日、一緒に任務へ行くのは君たちかな」


 そう。僕が今日呼び出されたのは、新人のEランク共同体レゾナントであるこの子たちの初級依頼に同伴し、指導役を務めてほしいという要請だった。


 いや、僕自身、普通の監視者ハンドラーみたいに魔力『解放』とかできないんだけど……どうやら「ゼノスの暴君を追放した凄腕のBランク監視者」という謎の評価が一人歩きしているらしい。


 カイトくんが僕の周りをぐるっと回りながら、品定めするようにまじまじと観察してくる。


「やっぱり、男なら筋肉がないとな!そう、デリクさんみたいな!!」


 カイトくんの瞳がとたんにキラキラと輝き出した。どうやらあの脳筋のデリクさんが彼のアイドルのようだ。


 確かに、身長190センチで丸太のような腕を持つ彼と比べると、現代日本の標準的な大学生である僕の体は圧倒的に貧弱ではある。


「コータさん、今日の依頼ですが……『囁きの森』での薬草採取です」


 カレンちゃんが依頼書を見ながら教えてくれる。


 薬草は風邪薬や傷薬の材料となる定番の草だ。街の必需品だが、生育地は魔物の住処であることが多いため、この手の依頼は若手共同体の仕事になっているらしい。


 囁きの森か…。僕とアルテアが初めての依頼で行った場所だ。あの時は、1%の出力でバンシーごと森の一部を吹き飛ばし、巨大なクレーターを作ってしまったっけ……。


「うん、ギルドの人から聞いてるよ。近いところだけど、森は暗くなるのが早い。遅くなっても困るし、早速出発しようか」


「はい」


 カレンちゃんが大人しめに頷く。


「おい!なんでお前が上から目線で仕切ってるんだ!俺は認めてねーぞ!」


「ははは……」


 騒がしい共同体レゾナントを伴い、僕はひさしぶりに自分の足で目的地へと歩き出した。



「薬草探しなんて、俺たちがやる仕事じゃねーよ!もっと大型の魔物をバーンッ!ってやっつけるのが本物の共同体レゾナントってもんだろ!」


 囁きの森にやってきた僕らは、入り口から少し進んだ、獣道から外れた場所で、地面に這いつくばって草をむしっていた。


「カイトくんは、デリクさんが好きなのかい?」


「ったり前だ!!お前見たことないのかよ、デリクさんのあの上腕二頭筋から繰り出される豪快な破壊力……!男はやっぱりああでないと!」


「カイト、口より手を動かして……」


 苦言を呈するカレンちゃんの声も、やはり本人の耳には届いていないらしい。拳を握りしめ、恍惚とした表情で鬱蒼とした森を仰いでいる。


 ガサッ


「ん?」


 不意に、少し離れた茂みのほうで落ち葉を踏むような重い音がした。


「カイトくん、下がって!!」


 咄嗟に叫んだ僕の声に、カイトくんが反射的に身をかわした。

 彼がさっきまでいた地面に、大木そのものが鞭のようにしなって振り下ろされ、土を深く抉った。


「なっ!?」


 枯木の根元をたどると、何本もの蔓を触手のようにうごめかせる巨大な人型の樹木が、こちらをねっとりとしたウロのある『眼』で見下ろしていた。


「トレント……っ!」


 カレンちゃんが一歩後ずさる。


「はっ、こんなただのデカいだけの木、俺たちの敵じゃねーよ!いくぞカレン!解放リリース!5パーセントオォォォ!!」


 カイトくんの身体から、控えめではあるが光がパチパチとはじけ出す。

 後方に下がったカレンちゃんが杖を構え、震える声に力を込めて魔法を紡いだ。


ファイア!!」


「ファイアァァァァア!!うぉぉぉぉぉ!!!」


 ……カイトくん、君は『監視者ハンドラー』でしょ。なんなのその過剰な気合い。


 杖の先から放たれた野球ボール大の火の玉が、一直線にトレントに向かい、乾燥した樹皮を激しく燃やし尽くす。


『ギュィィィィィィィィン!!』


 甲高い悲鳴を上げて、トレントが炭と化して崩れ落ちた。


 それにしても……オーソドックスな「The・魔法」というものを、僕は初めて間近で見たかもしれない。デリクさんやシャオさんは魔力を纏っての肉弾戦メインだったし、アルテアに至っては全てを吹き飛ばす規格外の兵器だから…。


「こんな奴らじゃ役不足だぜぇぇぇ!!うぉぉぉぉお!!」


 魔物撃破に、やたらとテンションが上がっているカイトくん。


「これで、終わったかな……。ふぅ……」


 安堵の息を吐くカレンちゃん。


 いや、ダメだ。

 この森、そして木の形をした魔物。油断してはいけない、まだ潜んでいても気が付かない。


 その瞬間、木々の頭上から、太い茨の鞭がカレンちゃんの背後へ向けて鋭く振り下ろされた。


「危ない、カレンちゃん!!」


「えっ……」


 油断していた彼女は身動きが取れず、棒立ちになっていた。

 僕は考えるよりも先に体が動き、彼女の小さな体を覆い隠すように庇った。


「――ぐぅっ!!」


 重く、硬い衝撃。

 背中を斜めに引き裂くような激痛としなりが僕の体を打ち据え、そのまま地面へと激しく転がった。泥まみれになり、視界が明滅する。


「コ、コータさんっ!?」


 カレンちゃんが悲鳴を上げる。


「いっ……。僕は後だ!いいから、まずは上のトレントを!!」


 僕は痛みを堪えながら、泥だらけの顔を上げて指示を出す。

 今は、僕がこの子たちの指導者なんだ。


「くっそぉぉぉ!よくもやりやがったな!解放リリース、10%!!」


 カイトくんの怒号に呼応し、カレンちゃんが再び杖へ魔力を注ぎ込む。


ファイアァァッ!!」


 先ほど僕を強襲したトレントが炎に包まれて倒れる。だが、森の奥からはさらにズルズルという這いずる音が近付いてきた。第三、第四の個体。


「右だ!その次は左の茂みだ!」


 僕は地面にうつ伏せになりながらも、敵の気配と音の方向を指示する。


「うおおおおおっ!」

「はっ!ファイア!」


「後ろの木の上!!」


「はいっ!ハァッ、ハァッ……!」


 次々に襲い来るトレントを退けていくカイトくんとカレンちゃん。だが、彼女の額からは脂汗が浮かび、表情は青白く曇っていく一方だ。魔力の限界が近いのかもしれない。


「どっ、どっからでもきやがれ!はぁっ、はぁっ……!」


 カイトくんも強がってはいるが、肩で息をしており消耗は火を見るより明らかだった。


「これ以上は無理だ!薬草も十分に採取できた、ここは撤退しよう!」


 僕が声を張り上げる。


「ま、まだまだ!まだやれるよな!カレン!」


「周りをよく見るんだ!!このままだと、皆、死ぬよ!!くっ……」


 語気を荒らげた瞬間、背中の傷がビリリと裂け、息が詰まる。……ダメだ、出血がひどい。


「コータさんっ……!カイト、戻ろう。お願いだから」


 カレンちゃんの涙声に、少しだけ頭が冷えたのか、カイトくんは下を向いたまま悔しそうに小さく頷いた。


 僕らは落ちた薬草の袋を拾い上げ、這うようにして来た獣道を戻る。

 幸い、あのトレントたちは一定のテリトリーを守っていただけなのか、森を抜けるまでの間、追撃を受けることはなかった。



「はい、これで傷はもう塞がりましたよ。……でも、しばらくは無理しないでくださいね」


「ありがとうございます。……ふぅ」


 ゼノスのギルドへ着くなり、常駐している魔法使いによる手当てを受けた僕を、カレンちゃんがひどく心配そうな、真っ赤に腫らした目で見つめていた。


「……ごめんなさい。私たちのせいで……コータさんに、怪我を……」


 幼いその瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていく。


「大丈夫だよ、みんな無事でよかった。依頼もバッチリだったしね」


 僕はできるだけ安心させるように、精一杯の優しい声で言った。

 ……といっても、魔法のおかげで痛みは引いたものの、失血のせいで頭はふらつくし、背中側の違和感が抜けなくてどうも気持ちが悪い…。


「ほら、カイトも……」


 カレンちゃんに促され、俯きながら悔しそうに拳を握りしめていたカイトくんが、顔を赤くして僕を見上げた。


「……その、ごめん。コータ」


 絞り出すような、後悔が入り混じった声。


「うん。……次は、しっかり周りを見る余裕を持とうね」


 僕が笑いかけると、彼はもう一度、今度は深くコクリと頷いた。


 背中の傷は痛むし、命の危険はあったけど、倒すべき敵を倒し、助け合うことができる「普通の共同体レゾナント」の戦い方は、すごく新鮮で……少しだけ、楽しかったな。


(アルテアの奴……今頃、変な部品とか組み込まれてないといいけど……)


 僕は治療された背中をさすりながら、あの不愛想な相棒の顔を思い浮かべていた。



ご一読ありがとうございました。

気に入っていただけましたら、感想やフォローなどいただけると、執筆の大きな励みになります。

最後まで描き切れるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします!

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