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クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


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6/8

6時間目 能力の片鱗

 ガタッ、ゴトッ。


 その音は、確かに廊下の奥から聞こえてきた。

 俺たちは鉄板をつつく手を止め、顔を見合わせた。


「……ねぇ。今の音、何?」


 凛が箸を止めて、怯えたように扉の方を見る。

 風の音にしては重すぎる。誰かが歩いているような、あるいは物を引きずっているような不規則なリズムだ。


「風で窓が揺れただけじゃないか?」

「いや、窓は閉め切っている」


 東雲センパイが眼鏡の位置を直し、懐からペンライトを取り出した。

 彼の目は、科学者特有の好奇心でギラギラと光っている。


「行ってみよう。もし生存者なら保護しなければならないし、侵入者なら排除しなければならない」

「……マジですか。俺、オカルトは勘弁ですよ」


 文句を言いながらも、俺はスマホのライトを点灯させた。

 一人で教室に残るほうがよっぽど怖い。凛も無言で俺のジャージの裾を掴んでついてくる。


 *


 廊下に出ると、音の発生源はすぐに特定できた。

 図書室だ。

 教室から少し離れた特別棟の渡り廊下の先にある、蔵書数3万冊を誇る自慢の図書館。


 入り口の引き戸が、少しだけ開いている。


「……誰か、いるんですか?」


 俺が声をかけるが、返事はない。

 代わりに、バサッ、バササッという、鳥が羽ばたくような音が聞こえた。


 センパイを先頭に、俺たちは図書室へと足を踏み入れた。

 スマホのライトが、並び立つ背の高い本棚を照らす。


「ひっ……!」


 凛が短く悲鳴を上げた。

 床に、無数の本が散乱している。まるで、誰かが手当たり次第に棚から引き抜いて放り投げたようだ。


「荒らされている……? いや、これは……」


 センパイが床の本を拾おうとした、その瞬間だった。


 ズズズズズ……!


 俺たちのすぐ横にあった、高さ2メートルはある巨大な木製の本棚が、不気味な音を立てて傾き始めた。

 地震じゃない。まるで「意思」を持ったかのように、ピンポイントで俺たち――いや、最後尾にいた凛に向かって倒れてくる!


「凛! 危ない!」


 俺は反射的に動いていた。

 逃げろと叫ぶよりも早く、俺は凛と本棚の間に体を割り込ませていた。


 だが、間に合わない。

 数百キロはある本棚の質量が、俺たちの頭上から迫る。

 支えられるわけがない。潰れる――!


 (止まれッ……!!)


 俺は死に物狂いで腕を突き出し、倒れてくる本棚に向けててのひらを押し当てた。

 脳内で、強烈なイメージが弾ける。

 この空間に、画鋲を突き刺すような感覚。


 ガギィンッ!!


 金属が噛み合ったような硬質な音が響いた。


「……え?」


 俺は目を疑った。

 本棚が、俺の掌から数センチ離れた空中で「静止」していた。

 斜めに傾いたまま、まるで時間が止まったかのようにピクリとも動かない。重さを感じることもない。


「嘘……浮いてる?」


 腰を抜かした凛が、下から俺を見上げている。

 俺自身もわけがわからず、恐る恐る手を引いた。


 ドズゥゥゥン!!


 手を離した瞬間、本棚は猛スピードで落下し、床に激突した。

 舞い上がる埃。俺たちは呆然と、横倒しになった本棚を見つめた。


「カケル君。今の現象は……」


 センパイが何か言いかけた時、さらなる異変が起きた。

 倒れた本棚から飛び出した数冊のハードカバーの本が、独りでに宙に舞い上がったのだ。


 バサバサとページを開閉させながら、まるで牙を剥く獣のようにこちらへ向かってくる。


「な、何よこれ! 本が襲ってくるなんて聞いてない!」

「くそっ、やっぱりポルターガイストか!」


 俺は凛を抱えて後ずさる。

 一冊が弾丸のような速度で突っ込んでくる。俺の能力(?)は、どうやら「触れないと発動しない」っぽい。遠距離攻撃には無力だ。


 その時、パニックになった凛が叫んだ。


「あっち行ってよおおお!!」


 彼女がやけくそ気味に、迫りくる本に向かって手を突き出した。


 ボッ!!


 凛の細い指先から、赤い閃光が走った。

 魔法のような火球ではない。

 100円ライターの火を、少しだけ強くしたような小さな炎。


 だが、それは乾燥した紙の塊である「本」には効果てきめんだった。

 炎に触れたページが一瞬で燃え上がり、襲ってきた本は火だるまになって床に落ちた。


「え……?」


 凛が自分の指先を見つめる。

 人差し指の先から、チョロチョロと小さな炎が出ていた。まるでロウソクのように。


「あちっ! 熱くない……?」


 凛が手を振ると、炎は消えた。

 残りの本たちは、炎に恐れをなしたのか、あるいは魔力が尽きたのか、バタバタと力なく床に落ちて動かなくなった。


 静寂が戻る。

 俺たちは荒い息を吐きながら、散乱した図書室に立ち尽くした。


「……ふむ。興味深い」


 一人だけ冷静な東雲センパイが、燃えカスになった本と、俺たちの顔を交互に見て、ニヤリと笑った。


「どうやら、異世界からの『おこぼれ』をもらったのは、場所(学校)だけではなかったようだね」


「おこぼれって……まさか、これが『能力』ってやつですか?」


「しかも厄介なのは、向こう側とこちら側で“時間の流れ”が一致していない可能性が高いことだ」

「黒板の反応速度や魔力の残留量を考えると――ただし、どちらが早いかは測れない。

 あるいは、その逆が起きてもおかしくない」


――もし向こうで一年が過ぎて、こちらでは一日しか経たないとしたら。

 俺たちは、いつまで“安全圏”にいられるんだ?


 俺は自分のてのひらを握りしめた。

 さっきの感覚。空間そのものをピン留めするような手応え。


「カケル君は『対象の固定』。凛君は『発火』。どちらも規模は小さいが、物理法則を無視している」


 センパイは嬉しそうに眼鏡を光らせた。


「おめでとう。我々はただの遭難者から、『異能の生存者サバイバー』にジョブチェンジしたわけだ」


 俺と凛は顔を見合わせた。

 手のひらに残る熱と違和感。

 それは、これから始まる過酷な「校内ダンジョン攻略」の、唯一の武器となるものだった。

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