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クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


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5/8

5時間目 異世界は地獄、ここは天国

 異世界の勇者様との感動的(?)なファーストコンタクトを終えた俺たちは、次なるミッションに着手していた。

 すなわち、『晩飯の確保』である。


「すっご……! 何これ、宝の山じゃん!」


 食堂の厨房にある巨大な業務用冷凍庫。その重い扉を開けた凛が、歓声を上げた。

 冷気と共に現れたのは、食材の山だ。


「業務用のハンバーグに、フライドポテト、冷凍チャーハン……。あ、これ見て! 『理事会用・特選サーロインステーキ』だって!」

「でかした凛。それは本来、我々一般生徒の口には入らない代物だ」


 東雲センパイが冷凍肉を鑑定し、満足げに頷く。

 俺たちの高校は無駄に金持ち学校なので、理事長や来賓用の高級食材がストックされていたらしい。


「よし、今日は『肉祭り』だ。カセットコンロと鉄板を持って、2年B組に戻るぞ」

「は? なんでわざわざ教室に戻るのよ。ここで食べればいいじゃん」


 不思議そうな凛に、俺はニヤリと笑って答えた。


「豪徳寺くんが心配だろ? 飯食いながら、応援してやろうぜ」


 *


 数分後。

 2年B組の教室は、香ばしい脂の匂いと、ジュゥゥゥ……という食欲をそそる音に包まれていた。


 教壇の前に机を寄せ集め、カセットコンロを設置。

 その上に乗せた鉄板では、霜降りのサーロインステーキと、分厚いハンバーグが踊っている。


「焼き加減はレアで頼むよ」

「あ、私ウェルダン派。よく焼かないとお腹壊しそうだし」

「大丈夫だって、腐っても和牛だぞ」


 俺たちは箸と取り皿を持ち、黒板を背にして肉が焼けるのを待っていた。

 すると、期待通りに「彼」が反応した。


 背後の黒板で、チョークが激しく動き出す。


 キィィィィ! ガリガリガリッ!


『 お 前 ら 何 を し て い る 』


 どうやら、匂いは届かないようだが、こちら側の音声や映像(あるいは気配)は何となく伝わっているらしい。

 俺は焼きたてのステーキを一切れ口に放り込み、咀嚼してから答えた。


「んー、うまっ。何って、見ての通り晩飯だよ。そっちはどう? 元気?」


 俺が問いかけると、チョークは怒りに震えながら、向こうの惨状を書き連ね始めた。


『 ふ ざ け る な ! こ っ ち は 地 獄 だ 』

『 転 移 直 後 に ゴ ブ リ ン の 群 れ に 襲 わ れ た 』

『 田 中 と 佐 藤 が 負 傷 し た 』

『 回 復 薬 が な い 。 泥 水 を す す っ て 逃 げ て い る 』


「うわぁ……」

 凛がハンバーグを頬張りながら、素っ気ない声を出す。

「ガチでハードモードね。ウケる」

「凛くん、口にソースがついているよ」

「あ、マジで? サンキュ」


 東雲センパイからティッシュを受け取る凛。

 その和やかな光景が伝わったのか、黒板の文字がさらに荒ぶる。


『 肉 だ ろ ! 貴 様 ら 、 肉 を 食 っ て い る な ! 』

『 寄 越 せ ! こ っ ち は 干 し 肉 す ら 尽 き た ん だ ぞ ! 』

『 俺 は 勇 者 だ ぞ ! 優 遇 さ れ る べ き だ ! 』


 必死すぎる豪徳寺の叫び(文字)。

 俺は鉄板の上でジュージューと音を立てるステーキを箸でつまみ、黒板の目の前にかざした。


「ほら、豪徳寺。あーん」


 チョークがピタリと止まる。

 きっと向こうでは、勇者が口を開けて待っているのかもしれない。

 俺はその肉を、ヒョイっと自分の口に入れた。


「――なんてな。いやー、理事長用の肉は脂が甘くて最高だわ」


 バキッ!

 黒板から、チョークが折れる音がした。


『 悪 魔 ! 』

『 外 道 ! 』

『 絶 対 に 許 さ ん ! 帰 っ た ら ギ タ ギ タ に し て や る 』


 呪詛のような文字が黒板を埋め尽くしていく。

 だが、俺たちの食欲は止まらない。


「センパイ、次はチャーハン炒めましょうよ」

「いいね。ラードを多めに使うと美味いんだ」

「あ、私コーラ飲みたい。自販機行ってくる」


 俺たちは豪徳寺の悲鳴をBGMバックグラウンドメッセージに、豪勢な晩餐を楽しんだ。


 悪いな、豪徳寺。

 お前らが泥水を飲んでいる間、俺たちはこの天国がっこうで、精一杯生き延びさせてもらう。

 ざまぁみろ、なんて口には出さないが、コーラの炭酸はいつもより強烈に喉を刺激した。


 ――しかし、この時の俺たちは油断していた。

 この学校に残された「魔力」が、肉の匂いにつられて、別のモノを呼び覚まそうとしていることに。


 ガタッ。


 廊下の向こう。

 理科室の方角から、何かが落ちる音が聞こえた。

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