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クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


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2/6

2時間目 生存者は、不良と変人と俺

 絶望に浸っている時間はなかった。

 もし俺の仮説――「クラス転移」が正しければ、この学校には今、俺しかいないことになる。

 だが、万が一ということもある。トイレにいた俺のように、何らかの理由で「範囲外」にいた奴がいるかもしれない。


「とりあえず、高いところだ」


 俺は3階の廊下を走り、屋上への階段を駆け上がった。

 普段、屋上のドアは施錠されているはずだが、今日はなぜか鍵が開いていた。錆びついたノブを回し、重い鉄扉を押し開ける。


 吹き抜ける風。

 そして、視界いっぱいに広がる灰色の霧。

 上空を見上げても太陽はなく、空はどんよりとした曇天に覆われている。やはり、この学校は外界から隔離されてしまったらしい。


「……最悪だな」


 溜め息をついて、貯水タンクのほうへ視線を向けた時だった。


「ん……? うるさいなぁ……」


 人の声がした。

 俺は心臓が跳ね上がるのを感じて、声の方向を振り向く。

 そこには、コンクリートの地面に寝転がり、ジャージを枕にして眠っている人影があった。


 明るい茶髪に、少し着崩した制服。整った顔立ちだが、どこか人を寄せ付けない鋭さがある。

 桐島凛きりしま・りん。2年C組。

 喧嘩っ早いだの、裏サイトで「狂犬」と呼ばれているだの、ロクな噂を聞かない有名な不良少女だ。


「お、おい! 桐島!」

「あぁ……? 誰よ、アンタ」


 凛は気だるげに上半身を起こすと、不機嫌そうに俺を睨んだ。

 本来なら関わりたくない相手だが、今は「人間である」というだけで涙が出るほど嬉しい。


「よかった、人がいた……! なぁ、状況わかってるか?」

「状況? サボってたのがバレたって話? だったら見逃してよ。機嫌悪いんだから」


 彼女は大きなあくびをして、立ち上がろうとした。

 その時、ふと動きを止める。


「……ねぇ。なんか、静かすぎない?」


 さすがに彼女も気づいたようだ。

 風の音しかしない異常な静寂に。


「下を見てみろよ」


 俺に促され、凛はフェンス越しに校庭を見下ろした。

 そして、周囲を囲む霧の壁を目にして、目を見開いた。


「は……? 何よあれ。ドッキリ?」

「俺もそう思いたいけどな。たぶん、俺たち以外全員消えたんだ」

「消えたって……どこに?」

「異世界……かもな」

「バカじゃないの」


 凛は鼻で笑ったが、その表情には隠しきれない動揺が走っていた。

 

 その時だった。


 ドオォォォン!!


 校舎の向こう側、特別棟の方角から爆発音が響いた。

 同時に、理科準備室の窓から黒煙が噴き出すのが見える。


「なっ、何!? テロ!?」

「わからん! でも、他にも誰かいるのかも!」


 俺と凛は顔を見合わせ、屋上を飛び出した。

 お互い自己紹介もしていないが、この際どうでもいい。今は生存者の確認が最優先だ。


 特別棟の3階、物理実験室。

 廊下まで漂う薬品の臭いにむせながら、俺たちは開け放たれた扉の中に飛び込んだ。


「大丈夫ですか! 誰か――」


 煙が充満する部屋の中、白衣を着た男が一人、ゴーグルを外しながらゲホゲホと咳き込んでいた。


「ううむ……失敗したか。ニトログリセリンの配合比率、やはり間違っていたか……」


 ボサボサの黒髪に、瓶底メガネ。

 この学校の名物男、3年生の東雲しののめセンパイだ。科学部の部長で、留年しすぎて「理科室の主」と呼ばれている変人である。


「せ、センパイ! 実験失敗してる場合じゃないですよ!」

「ん? 君たちは……。おお、生き残りがいたのか」


 東雲センパイは俺たちを見ても驚く様子はなく、むしろ興味深そうに観察してきた。


「生き残りって……センパイ、何が起きたか知ってるんですか?」

「知っているも何も、君たちも見ただろう? あの見事な大規模転移魔法の痕跡を」


 センパイは窓際に行き、霧に包まれた外の景色を指差した。


「全校生徒および教職員の生体反応が消失している。おそらく、空間転移によって別次元へ飛ばされたんだろうね」

「やっぱそうなのか……。でも、なんで俺たちだけ残ったんだ?」


 俺の問いに、センパイはホワイトボードにサラサラと図を描き始めた。


「推測だが、魔法陣には『認識範囲』があるんだよ。私はこの鉛張りの薬品保管庫の中で昼寝をしていたから、魔力が遮断された」

「鉛張りの中で寝るなよ……」

「君たちは?」


「俺は……トイレの個室です」

「私は、屋上の貯水タンクの上」


 センパイは「なるほど」と頷いた。


「トイレのタイルが魔力を反射したか、あるいは貯水タンクの水位センサーが誤作動を起こして人間と認識されなかったか……。いずれにせよ、我々は『召喚エラー』としてはじき出された異物イレギュラーというわけだ」


 イレギュラー。

 つまり、選ばれなかった残り物。


 俺、相沢カケル。

 不良少女、桐島凛。

 変人科学者、東雲センパイ。


 接点なんて何一つなかった3人が、静まり返った理科室で顔を見合わせる。


「……で? これからどうすんのよ」


 凛が腕を組んで、不満そうに言った。

 俺は深呼吸をして、二人の顔を交互に見た。


「とりあえず、生き延びなきゃなんない。先生も警察もいないなら、俺たちで何とかするしかないだろ」


 俺の言葉に、センパイはニヤリと笑い、凛は「はぁ」と大きなため息をついた。

 こうして、全校生徒不在の学校で、俺たち3人の奇妙な共同生活が幕を開けた。

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