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クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


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1/4

1時間目 俺がトイレに行っている間に、全校生徒が消滅した件

「……ふぅ。生き返った」


 個室の水を流す音と共に、俺、相沢あいざわカケルの「聖戦」は終わった。

 原因は間違いなく、2時間目の休みに食べた『激辛麻婆パン』だ。購買のおばちゃんが「新作だよ!」と満面の笑みで勧めてきたあれは、食品というより兵器に近かった。


 ズボンのベルトを締め直し、個室の鍵を開ける。

 スマホの画面を見ると、時刻は13時15分。

 昼休みが終わって、5時間目の授業が始まってから10分ほど経過していた。


「やべ、5限って数学か? こっそり裏口から入ればセーフか……?」


 俺はブレザーの埃を払い、急いで男子トイレを出た。

 手を洗い、濡れたハンカチで拭きながら廊下に出る。


 その時、違和感を覚えた。


「……あ?」


 静かだ。

 あまりにも、静かすぎる。


 授業中とはいえ、学校というのはもっと「音」があるはずだ。

 教師の怒鳴り声、チョークが黒板を叩く音、廊下を走る足音、あるいはサボっている奴らの話し声。

 生徒数1000人を超えるこのマンモス私立高校で、これほどの静寂が訪れることなんてあり得ない。


 まるで、音量設定をミュートにしたような不気味な静けさ。

 俺の足音だけが、ペタペタと廊下に響いている。


「おい、マジかよ。まさか避難訓練か?」


 嫌な予感がして、俺は自分の教室――2年B組へと走った。

 教室の前まで来ると、扉が少し開いているのが見える。

 中から人の気配はしない。


 ガラッ、と勢いよく扉を開ける。


「すいません遅れまし――」


 言い訳を口にしようとして、俺は言葉を失った。


 教室には、誰もいなかった。

 クラスメイト35人も、担任の教師も。

 

 ただ、人がいないだけなら「移動教室かな」で済む話だ。

 だが、今の状況は明らかに異常だった。


 机の上には教科書が開かれたまま。

 書きかけのノートにはシャーペンが転がっている。

 誰かの鞄が机の脇に掛かったままだし、弁当箱の蓋が開いたまま放置されている席もある。


 ついさっきまでそこに人がいて、呼吸をしていて、生活していた「熱気」だけが残っていた。

 人間だけが、神隠しに遭ったかのように綺麗さっぱり消滅している。


「……は? なんだこれ」


 俺は教室の中へ足を踏み入れた。

 黒板を見る。

 数式が途中まで書かれ、チョークの粉が舞った跡がある。

 

 床を見た。

 そこには、直径2メートルほどの、焼け焦げた幾何学模様のような跡があった。

 微かに、火薬のような、あるいは嗅いだことのない甘い香りが漂っている。


「おい! 誰かいねーのか! 豪徳寺! 委員長!」


 叫んでも、返事はない。

 廊下へ戻り、隣のA組を覗く。無人。

 C組も、D組も。

 職員室へダッシュした。鍵は開いていたが、先生の姿は一人もない。飲みかけのコーヒーから湯気が立っているだけだ。


「……ドッキリにしちゃ、金がかかりすぎだろ」


 乾いた笑いが漏れる。

 背筋がゾワゾワと震えた。

 俺はふらつく足で、廊下の窓に駆け寄った。

 

 人がいないなら、外へ出ればいい。

 誰かに助けを求めればいい。

 そう思って、3階の窓からグラウンドを見下ろした俺は――本日二度目の絶句をした。


「なんだよ……あれ」


 本来なら見えるはずの、学校周辺の住宅街がない。

 駅前のビル群も、遠くに見える山も、空の青ささえもない。


 学校の敷地を囲うように、分厚い灰色の「霧」が壁のようにそびえ立っていた。


 それは雲海の中に学校が浮いているようにも見えるし、世界そのものがそこで途切れているようにも見えた。

 試しに窓を開けてみる。

 風は入ってこない。外の音もしない。車の音も、電車の音も。


 ここにあるのは、無人の校舎と、俺一人。


 その瞬間、俺の脳裏に、ラノベ好きの友人(今は行方不明)が熱く語っていた言葉がよぎった。


 ――ある日突然、教室に魔法陣が出てきてさ! クラスごと異世界転移しちゃうんだよ!


「……まさか」


 俺は誰もいない廊下で、天井を仰いだ。


「俺がトイレで踏ん張ってる間に、クラス転移が起きたってのか?」


 そして、俺だけがハブられた(置いていかれた)。

 

 状況証拠は真っ黒だ。

 俺は窓枠に手をつき、灰色の霧に閉ざされた世界を睨みつけた。


「ふざけんなよ……。これから、どうすりゃいいんだよ」


 俺のつぶやきは、誰の耳にも届くことなく、静寂の校舎に吸い込まれていった。

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