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作者: じゆう七ON
掲載日:2025/12/08

「太郎がまたやったぞぉ!」


 甲高い、まるで金切り声のような子供の声が響き渡る。そのたび、無邪気な笑い声が、鋭い刃物みたいに太郎の心臓を突き刺した。


 この村で「太郎」と言えば、馬鹿にする時の代名詞だった。


 力仕事はろくにできない。どもる言葉は、いつも村人の軽蔑を呼ぶ。日々向けられる冷たい視線。陰で囁かれる蔑みの声。それらが、彼の心を深く、深く、蝕んでいた。


(俺は、何一つできない役立たずだ……)


 心の中でそう呟くたび、胸の奥で、見えない血がにじむ。生きていることさえ、もう無意味だと感じていた。


 そんな太郎にとって、村外れの湖だけが唯一の心の拠り所だった。村人たちが「不吉な場所だ」と近づかない、静寂に満ちたその場所で、太郎はひんやりと指先に染みる冷たい水を見つめる。


 水面に映る、自分の歪んだ顔は、まるで嘲笑っているようだった。その歪んだ水面は、心の奥底で波打つ、絶望そのものに見えた。


 いつしか、唇から切実な願いが漏れる。


「誰かに、ただ一人でいいから、俺を必要としてほしい……」


 その願いは、澄んだ水面に吸い込まれるように、細やかな波となって揺れていた。


 いつものように湖畔で膝を抱えていると、不意に水面が強い光を放った。そこからゆっくりと、人の形をした光の存在が浮かび上がる。


 それは慈愛に満ちた瞳と、全てを見透かすような顔を持つ、まさに「神」としか言いようのない存在だった。


 太郎は息を呑み、その神々しさに言葉を失う。神は静かに、だが有無を言わさぬ声で告げた。


「汝の願い、聞き届けよう。汝が望むことは、即ち現実となる」


 突如として得た力に、太郎の心は歓喜と、そして言いようのない恐怖で震えた。信じられない思いで水面を見つめると、そこに神の姿が映っていた。


 だが、その顔はなぜか、彼の顔と重なって見えた。まるで、水面に映る自分が、自分自身に力を与えているかのように。そして、その神の唇が、無表情にこう囁いたように感じた。


「汝の願いは、即ち汝の心の闇だ」


 力が本物だと知った太郎は、恐る恐る村で試してみた。


 乾ききった畑に水を望めば、瞬く間に潤い、貧しい家には望んだ分だけの食料が満たされた。大きなことではない。ごくごく小さな奇跡。


 だが、それまで彼を嘲笑っていた村人たちが、驚きと感謝の眼差しを向けてきた。彼らは口々に「ありがとう」と頭を下げ、その言葉が太郎の心を温かく包み込んだ。


 初めて、「自分は役に立った」という確かな感覚が、彼の胸に広がった。


 その夜、湖畔に佇む太郎の目に映る月光の水面は、彼の心の波を広げ、優しく彼を包むように輝いていた。夜風はひんやりと心地よく、遠くで犬が吠える声が、なぜか胸に染みた。


 村での小さな奇跡は、少しずつ太郎の評価を変え始めた。


 そんなある日、彼は村に住む一人の女性と出会った。花子。


 彼女は、太郎がこれまで見てきた村人とはどこか違っていた。彼女はまっすぐと太郎の目を見て、微笑み、彼のどもる言葉に耳を傾けてくれた。


 そして、彼女が村人には理解されにくい「ある願い」を抱えていることを知った。


「私は、ただ普通に過ごしたいだけなの」


 太郎は驚き、共感を覚えた。特別になりたかった自分と、普通に過ごすことを願う彼女。対照的でありながら、どこか似たような孤独を抱える二人の影が、穏やかな水面に寄り添うように並んでいた。


 風が優しく、二人を包むように吹く。


 花子との交際が始まった。彼女と過ごす日々は、太郎にとって何物にも代えがたい穏やかな安寧だった。湖畔を散歩し、他愛もない話で笑い合う。


 村人の冷たい視線は相変わらず彼の背に突き刺さったが、花子の屈託のない笑顔が、その全てを打ち消してくれた。


 彼女がいれば、もう特別である必要はない。ただ、彼女と共に誰からも笑われず、誰かを傷つけることもない日常を送れればそれでいい。そう心から思えた。


 夕焼けが湖面を金色に染め上げ、水面に映る二人の影は、まるで溶け合うように一つになった。


 しかし、手に入れたささやかな安寧は、太郎の心を満たしきれなかった。


 力を手に入れた自分は、村のために、もっとできることがあるはずだ。彼は力を使い、村の収穫を倍増させ、困難な仕事も瞬く間に終わらせた。


 だが、それはあくまで「村人」のため。彼の心の奥底には、かつて嘲笑された記憶が澱のように沈殿していた。


 村は豊かになり、太郎の力は彼らにとって不可欠なものになっていった。そして、村人が差し出す感謝の金銭が、彼の心を満たし始める。


(俺は、ただ必要とされたかっただけなのに、なぜだろう、この金銭が、あの嘲笑を思い起こさせる)


 いつしか、彼の心の底に傲慢な囁きが響くようになった。静かだった湖面が、ゆっくりと泥を巻き上げて濁り始める。


 そこに映る彼の顔は、かつての卑屈な面影を残しつつも、どこか歪んで見えた。


 力に溺れた太郎は、かつて自分を嘲笑った村人たちを見下すようになった。彼の言葉は尊大になり、わずかな不満も許さなくなった。


 そんな太郎の変化に、花子は心を痛めた。彼女は何度となく、彼の暴走を止めようと忠告した。


「太郎さん、あなたは変わってしまったわ。その力は、あなたを滅ぼしてしまうかもしれない」


 しかし、太郎は彼女の言葉に耳を貸さなかった。


「お前には、俺の苦しみが分からない!」


 二人の間に、もはや穏やかな風は吹かず、荒れた風が吹き荒れるだけだった。


 太郎の暴走は止まらなかった。村人との軋轢は深まり、ついに決定的な日が訪れた。


 村の祭りの夜、酒に酔った数人の村人が、太郎が去った後で陰口を叩き始めた。彼らの言葉は次第にエスカレートし、「太郎がいなければ、俺たちはあいつに頭を下げる必要もなかった」「あいつの隣にいる花子は、あいつの力を知って近づいたんだろう」と、彼女の純粋な優しさまで愚かだと嘲笑った。


 その声を聞きつけた太郎は、怒りに燃えて彼らの前に現れる。長年積み重なった村人への憎悪と、愛する花子を侮辱された怒りが、太郎の中で爆発した。


 彼の全身から黒いオーラが立ち上り、怨嗟の声が響き渡る。周囲の空気は歪み、足元の草は黒く枯れ、湖面は不気味に波立った。


 湖は太郎の憎悪を映すように、深い紫色へと変わっていった。


「俺を、そして彼女を、バカにしやがって! 二度と、俺の前に現れんじゃねぇ!」


 彼の願い、いや、呪いのような言葉が現実となる。罵倒した村人たちは、次の瞬間、まるで存在しなかったかのように姿を消した。その場には、彼らが身につけていた祭りの飾りが、虚しく転がっているだけだった。


 太郎の力が、憎悪の対象を「存在そのものから消去する」という、無慈悲な呪いへと変質した瞬間だった。


 花子は、目の前で起きた悍ましい光景に、恐怖で言葉を失い、その場に立ち尽くした。


 彼女が愛した太郎は、もうそこにはいなかった。ただの暴力的な存在と、その力への純粋な恐怖が、彼女を駆り立てた。花子は、足元の砂利が軋む音さえ立てないよう、ゆっくりと後ずさり、やがて恐怖に駆られて走り出した。


 村人たちが彼の力を恐れ、蜘蛛の子を散らすように逃げていく中、太郎はただ一人、廃墟と化した村の中心で叫び続けた。


「俺はずっとバカにされてきたんだ! 何もできないって! なのに、今、俺が力を使ったら、許されねぇってのかよ!?」


 その声は、虚しく響き渡るだけだった。絶望と後悔、そして理解されない怒りが渦巻く中、彼はふらふらと湖へと向かう。


 そこで彼を待っていたのは、かつて力を授けた「神」の姿。しかし、その顔は、驚くほど彼自身に酷似していた。まるで、水面に映る自分の姿が、そのまま現実世界に現れたかのように。


 水面は沈黙し、太郎の叫びを吸い込むかのように、静かに揺れていた。


 力を制御しきれなくなった太郎は、怒りと絶望のまま、残りの村をも消し去った。


「もういい。どうせ誰もいなくなるなら、全て消えてしまえばいい……」


「俺を蔑んだ奴らも、俺を恐れた奴らも、そして……俺を愛してくれたはずのお前も!」


 彼の心の奥底から、そんな声が聞こえた。


 彼は、再び湖へと戻ってきた。しかし、そこにはもう、誰もいなかった。花子も、村人も、誰も彼を待っていなかった。


 風さえも止み、湖畔に彼の声が響くこともない。かつての賑わいは消え失せ、ただの空虚だけが残された。


 水面は、彼の心を映すかのように、凍ったように動かず、そこに何も映し出すことはなかった。


 全てを失った太郎は、湖のほとりで膝から崩れ落ちた。かつて「誰かに必要とされたい」と願った場所で、彼は最後の願いを湖に告げた。だが、それは力への渇望でも、復讐の念でもなかった。


「……俺は、ただ、普通に過ごしたかっただけなんだ……」


 堰を切ったように、彼の目から涙が溢れ出した。止まらない涙が、彼の頬を伝い、静かな水面に落ちていく。一滴、また一滴と落ちる涙は、湖面に小さな波を広げ、そして消えていった。


 彼の目に焼き付いているのは、湖畔で花子と他愛もない話をして笑い合った、あの穏やかな時間だった。村人の冷たい視線から逃れるように、二人で寄り添い、静かな夕焼けを眺めたあの日々。


(あの頃が、俺の人生で、ただ一度だけ、普通に生きられた時間だった)


 そう心の中で呟いた時、太郎は悟った。


 自分が本当に欲しかったものは、力でも、特別さでもなく、ただ一人の人間として、誰かと向き合い、愛し合う、ごくごくありふれた日常だったのだと。


 その全てを、この手で壊してしまったことを、彼は深い絶望と共に痛感した。


「何もかも……俺が、いなければ……」


 その願いが、彼の最後の願いとなった。


 太郎は、自らを消し去った。存在そのものを、この世界から、湖の中から、彼の記憶から、全てを無へと還した。


 湖は、太郎の最後の願い、そして存在が消え去った証のように、燃えるような心の血に染まり、その色を深く水底に沈めていく。誰もいない世界に、ただ風が吹き抜けていく。


 それから、長い年月が流れた。


 湖は深い紫色から徐々に藍色へ、そしてやがて透明な青へと戻っていった。そして、村は再建されていた。かつて太郎を嘲笑していた村人たちは、互いを支え、助け合いながら、慎ましく生きていた。湖は、彼らの心に、二度と過ちを繰り返さないという、静かな誓いを刻み込んでいた。


 湖畔のベンチに座った花子は、静かに水面を見つめていた。彼女は全てを失ったが、その瞳に宿るのは、後悔でも、憎しみでもなかった。


 太郎が怪物と化した日の恐怖を彼女は忘れていない。その上で、彼女の心に残ったのは、愛した人が自らの孤独と力に押しつぶされてしまったことへの、深い悲しみだった。


 彼女の胸に抱くは、もはや幻となったささやかな日常。それは、太郎が最後に残した、ただ一つの静かな願いの形だった。


 太郎が力を暴走させていた時、彼は、誰かを傷つけることでしか自分の存在を確認できなかった。だから、彼女は決めたのだ。誰かを慈しむことで、自分の存在を確かめて生きていくと。


 そして、二度とあのような悲劇を起こさせないように、村の若者たちに太郎の物語を語り継いだ。


 風が頬を優しく撫でる。彼女は目を閉じ、かすかな温もりを感じた。太郎が最後に残したものが、確かに彼女の中に生き続けている。


 それは、もう誰かを傷つける力ではなく、人を慈しむ、静かな誓いだった。そして、花子の胸には、もう一つの問いが残されていた。


 太郎が渇望した「普通」は、決して力では得られないもの。それは、愛と赦しの中にあることを、私はこの湖畔で、彼と共に証明していく。


 彼女は静かに目を閉じ、風に揺れる水面を見つめた。その透明な水面に映るのは、もはや歪んだ顔ではなく、ただ静かに微笑む、彼女自身の顔だった。


 その静かな水面が、太郎の最後の願いを、そっと抱きしめているようだった。


教訓

 力と言う物は沢山の人に影響を与える事が出来る物だと考えました。幸福にする力も不幸にする力もあると思います。


 徐々に力を得るのなら、小さい事が少しずつ大きくなり、その過程で沢山の事を学び、失敗し、使用方法も学べるでしょう。


 しかし、いきなり手に入れた・手に入った力と言う物は、使用方法が分からずに使い方を間違えると沢山の人を巻き込んで不幸にする力もあると言う事です。


 19歳の頃に、矛盾などが大きく押し寄せて来て、力って何だろう?って考え、これのオリジナルバージョンを作りました。それをAIによってリライトして頂きました。


湖→太郎の心

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