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小さな物語のかけら  作者: 夜那岐 絵依
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不思議の森のウサギ

大きな森の中を小さな女の子が歩いていました。

女の子は何かを探しているようで、あっちできょろきょろ、こっちできょろきょろ。

大きな樹の周りをうろうろと行ったり来たりしていました。


 「何をしているんだい?」


動き回っている女の子に女の子のお父さんが聞きました。


 「ウサギさんを探してるの」

 「ウサギを?なんでウサギさんを探しているんだい?」

 「連れて行ってもらうのよ」

 「連れて行ってもらう?いったいどこへ?」


 「それはもちろん不思議の国に決まっているじゃない」


女の子は元気いっぱいに答えました。


しかし、そんな女の子にお父さんはこう言います。

 「不思議の国はないよ。あれはアリスの夢だったんだから」

 「あるよ。ウサギさんが案内してくれるんだよ」

しかしお母さんも

 「あれはお話の中のものなのよ。ここにはないわ」

と言いました。

 「そんなことないもん。不思議の国はきっとあるもん」

と女の子は森の中へとお父さんとお母さんが止めるのも聞かずに走っていってしまいました。



森はどこまでも大きく高くそしてどこまでも広く続いていました。

周りには大きな樹が同じようにずらりとそびえていて、気がつくと女の子は自分がどっちから来たのか分からなくなっていました。

「お父さん・・・?お母さん・・・?」

自分が迷子になってしまったことに気づいて女の子は不安になりました。

もしかしたらずっとここから出られないのではないか。

もう二度とお父さんとお母さんに会えないのだろうか。

そう考えると自然と涙が零れてきました。

女の子は鬱蒼と茂る森の中で大声で泣きました。

しかしどんなに大きな声で泣いてもお父さんとお母さんはやってきません。

ずっと同じ場所で泣いていた女の子はふらふらとお父さんとお母さんを探して歩き出しました。

泣きながら歩いていると、女の子の前に何か真っ白なものがやってきました。

涙を拭い、それが一体何なのか、女の子にそれが分かるまでには少しの時間がかかりました。

はっきりとしてきた視界の中にいたのは。

それは小さなウサギでした。

真っ白な身体に真っ赤な眼をしたウサギでした。

真っ赤な眼をしたウサギは女の子のことをじっと見つめたまま動きません。

女の子はウサギを見つけ自分がどうして迷子になってしまったのかを思い出しました。

不思議の国へと連れて行ってくれるウサギ。

女の子は不思議の国に行ってみたかったのでした。ただそれだけだったのでした。

でも女の子は気づいたのです。ひとりで行ってもつまらないと。

お父さんとお母さんも一緒にいないと寂しいと。

女の子はもう一度ウサギを見つめました。

お話に出てくるような大きな時計も服も着ていない普通のウサギでした。

それでも女の子はウサギに聞いてみました。 

 「ウサギさん、ウサギさん。私をお父さんとお母さんのところに案内してもらえますか?」

女の子は、不思議の国ではなくお父さんとお母さんのところまで連れて行ってくださいとウサギに言いました。

小さなウサギは、僅かにうなずいたように顔を伏せ、女の子から顔をそらし歩き出しました。

女の子はそのウサギのあとを追いました。



しばらく歩くと女の子の名前を呼ぶお父さんとお母さんの声が聞こえてきました。

女の子は駆け出していました。声のするほうへ必死に走りました。

「お父さん!お母さん!」

迷子だった女の子はお父さんとお母さんに会うことが出来ました。

そしてふと振り返ってみましたが、そこにはもうあのウサギはいませんでした。

「ありがとう。ウサギさん」

女の子は小さくウサギにお礼を言いました。

お父さんとお母さんに挟まれ両手をつないで女の子は帰っていきました。


「お父さん、お母さん。私ね、ウサギさん見つけたんだよ」


真っ赤になった眼をした女の子は真っ赤な眼をしたウサギの話をお父さんとお母さんにして笑いました。


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