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【10作目】クズと猫耳とお約束  作者: あぱ山あぱ太朗
パーティーといえばローストチキンだよな
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13/26

4-1

 サリィと出会って一週間が経過した。

 ダンボール箱で眠っていたサリィと遭遇して、まだ七日しか経ってないとは思えない。そんな短い期間ではあるが、俺たちは十年来の関係みたいになっていた。

「牛乳なくなりそうだから買ってくるけど、他に何かいるー?」

「わりぃ、助かる……あ、シャンプーもないかも」

「了解っ! お財布、借りてもいい?」

「ちょい待ち」

 現金入ってるかなー。最後に下ろしたのがだいぶ前な気がする。

「(うむ、日用品を買えるくらいの金額はあるな)」

 しかし、口座にいくらあるのかは怖すぎて確認できない。現実逃避なのは分かっているけど、観測したら確定しちゃうわけじゃん? 

 同じ理由で健康診断とか受けない。結果を知らなければ健康体でいられる。

「治……?」

 急に黙り込んでしまったせいか、サリィが不安そうな顔をする。

「いや、何でもない。んじゃ、これで買い物頼むわ。菓子は三百円分までな」

「子供扱いしないでよね! お菓子がなくてもへーきだしっ!」

「三百円じゃチョコパイは買えないか。上限撤廃で構わんぞ」

「ほ、ほんとぉ!? やったぁ! ――――あ、えと、これは違うからね……っ!」

 取り繕っても無駄である。先週はじめて口にしてから、サリィはチョコパイの虜だ。

 余ったチョコパイを一個ずつ大事に食べているのを知っている。

「素直に喜んだ方が可愛いげあるぞ?」

「可愛げなんて無くていいし!」

「ちょっと生意気なくらいがサリィらしいか」

「うるさいわね、もう! じゃあ、買い物に行ってくるから!」

 プリプリと怒りながら玄関に向かっていく。

「あーそうだ」

「もう、今度は何よ!?」

「車とか不審者には気をつけろよ」

 一人で外出するようになったが、この世界に慣れていないのは変わりない。

「また、子供扱い?」

「普通に心配しちゃ悪いか?」

 ウザがられるのは分かっているが、つい余計な口を出したくなってしまう。

「そ、そんなことはないけどっ!」

「俺の優しさを受け取っておきな。感動のあまり泣くなよ?」

「押し付けがましい! こんなんで泣かないわよ!」

「それもそうか」

 生活のリズムを掴めてきたのか、ここ数日はサリィの精神も安定していた。

 メソメソしているよりはいつもの高飛車な態度の方がいい。先週の夜みたいに泣いてるところは見たくないからな。

「ま、まぁ? 大事に想ってもらえるのは……わ、悪くはないけど?」

 忙しなく指遊びをしながら、目線を下に向けている。

 やれやれ、やっぱり素直じゃないなー。

「お礼はチョコパイ一個でいいぞ」

「それは絶対にダメ!」

「相変わらずの食い意地だな、おい」

 最近はこんなくだらない会話を繰り返している。けど、存外悪くはない。

「はいはい、じゃあもう本当に行くから! いってきます!」

「おう、いってらっしゃい」

 いよいよサリィも外出してしまい、一人ポツンと部屋に残される。

「さて、と」

 サリィもいなくなったことだし、やるべきことをやらなくてはな。

 今の俺には重大な問題がある。それを解消しないことには、サリィとの共同生活の存続も危うい。やはり、いつまでもこのままという訳にもいかないよな。


「自家発電がしたい!」


 部屋の真ん中で堂々と宣言していた。

 サリィと出会ってから禁欲が続いている。あいつは無駄に嗅覚とか聴覚が鋭いからな。そんな最中で生じた好機。これを逃すわけにはいかない。

「あーなんだよ! こんな時に!」

 と思っていた矢先、スマホに電話が掛かってくる。

 画面に表示されている名前は見慣れたものだが、この人物から電話が来ることが滅多にないので勘繰ってしまう。

『どうした、明里。電話なんて珍しい』

『ういー。今って時間大丈夫――いや、ニートだし暇だよね』

『そんな嫌味を言うために掛けてきたのか』

 電話の相手は明里だった。メッセージでも頻繁にやり取りはしないし、ましてや最後に電話が掛かってきたのはいつ以来だろうか。

『そうじゃないけど、事実でしょー?』

『暇ではないぞ。やらなきゃいけないことがあるんだ』

『やらなきゃいけない?』

『あぁ、溜まっていた性欲を解消しないと』

 体のメンテナンスも、俺のようなフリーランス(?)にとって重大な仕事だ。

『うわー。キモいを通り越して、もはやグロいねー』

『お前の作品をオカズに使う予定だった』

『今世紀イチ聞きたくない情報で草』

 あまり嘘や隠し事が得意じゃない。腹を割って話をすることが、真の友情に不可欠だと思っている。

『んで、急に電話なんてどうした? 金なら貸さないぞ』

『そこまで落ちぶれてないわよ』

 ひどい言われようである。

『じゃあなんだよ。また何か困り事か?』

『違う違う。アルケミーで薫子さんの生誕祭やるんだけど、今日空いてる?』

『薫子さんがまた一つ歳を取るのか。本人はすげぇ嫌がりそうだな』

『かもねー。今回のパーティーも常連達からのサプライズってことになってる。先に企画を伝えたら渋られそうだし』

 薫子さんはアルケミー常連の一人だ。敏腕女社長。樹脂加工メーカーの三代目であり、業績が下がり続けていた会社を、一気に右肩上がりにした立役者である。

 しかし、働いて結果を出すほど婚期が遠のいていく。

 酔っ払った時の口癖は「結婚したい」だ。

『祝いたい気持ちはあるんだけどな? その、なんだ。会費っていくらよ?」

『プレゼント代込みで一人あたり「八」くらいもらってるー』

『つまり、八百円?』

『小学生じゃないんだからさ。千円単位でしょ』

 電話越しでも分かる呆れ声だった。

『な、なるほどなぁ……随分とブルジョアなパーティーだなぁ……』

『いやいや、普通の社会人が動揺する額ではないでしょー』

『俺、普通の社会人じゃないし』

『知ってる』

『こうなったら仕方ない。今からパチンコで稼いでくるか』

 現代の錬金術を試みようではないか。

 根拠はないけど今日は勝てそうな気がする。人の誕生日を祝う金だからな。ギャンブルの神様もきっと味方してくれるはずだ。

『溶ける未来しか見えないから止めなー。そういうこと言い出すと思ったから、わざわざ電話したんだってー』

『ん、どういうことだ?』

『どうせお金ないんでしょ? この間のお礼もあるし、今回は私が出すよ』

『出す……? 出すって……ただ……?』

『貸したところで、たぶん返ってこないだろうし』

『おばさん……優しいおばさん……』

 涙が止まらない! 僥倖っ……! なんという僥倖……!

『誰がおばさんよ。ふざけてると、お金出さないからねー』

『うそうそっ! 明里、めっちゃ美人! マジ天使! 超・女神!』

『ほんと調子いいんだからー』

 やったぁ! 皆と酒が飲めるぞ! うれぴぃ! しかも奢りとか最高すぎる。

 ……でも、待てよ。そんな場に俺一人で行くのも憚られるぞ。

『怒らないで聞いてほしい』 

『不安になる枕詞なんだけどー』

『ほ、ほらさ! サリィとか一希も色々と手伝ってくれたんだよ! なのに、仲間外れは可哀想じゃん? ……あいつらも呼んでいい?』

『はぁ、それを口に出せる図太さが治らしいというか』

『これが俺の強みだ』

『弱みでもあるけどねー。まぁ、安心して。二人のことも織り込み済みだから』

 俺の考えることはお見通しみたいだ。

 二人にも声を掛けておいて、と明里は最後に付け加える。

『さっすが明里! 愛してるぜ!』

『はいはーい。準備があるから、治たちは一八時にアルケミー集合ね』

 電話を切る。そうと決まったら出掛ける準備をしないとだ。

「ただいま! あれ、なんかご機嫌ね?」

 タダ酒にテンションが上がり、ウキウキで身支度しているとサリィが帰宅してきた。

「おう、おかえり! 聞いてくれよ」

 明里との電話内容を共有する。

「ってことは、萌葉さんのご飯が食べられるってこと!? やったぁ!」

 食べ物が絡むと分かりやすいな、こいつ。欲望に忠実というか――――欲望?

「あ、あぁ!!」

「突然なによ!?」

 思い出した。俺はそもそも何をしようとしていた?

 この溢れんばかりの性欲を解消するんじゃなかったのか。意識をしたら途端にそのことしか考えられなくなる。

「サリィ、今から一五分くらい外出てくんない?」

「え、なんで?」

 自家発電がしたい――なんて言えるわけがない。

「えー、なんか体の調子が悪いというか……コンディション的な問題が…………」

「だ、大丈夫!? 私になにか出来ることある?」

 やめてくれ、心配そうな顔をしないでくれ。その純粋さが眩しすぎる。

 そして、そんなサリィの「なにか出来ることある?」という優しさ対し、やましい想像をしてしまった自分が嫌いになりそうだ。

「……いや、やっぱ大丈夫。さっきのは忘れてくれ」

 俺のマグナムが、どこか暴発しないことを祈るばかりである。

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