第八十一話 コラプトに着いて
「次は武器屋さんを紹介しますね」
セシリアさんは誰をも心穏やかにさせる微笑みを浮かべて、剣と盾が描かれた看板を掲げている店へバスツアーのガイドさんみたいに開いた手のひらを向ける。見たところ、武器屋の隣にカンカンと鳴り響く建物――工房があり、おそらくその工房で作られた武器が商品なのだろう。
もちろん工房自体の質にもよるだろうが、こうやって手ずからに武器を作っているとなると、費用対効果が高そうだからお手軽価格でいい武器が売られていそうな感じがする。武器の目利きができるわけじゃないから、中へ入って品物に目を皿にして注視したとしても本当にコストパフォーマンス以上のものが並んでいるかなんてわからないけど。
「おお!セシリアちゃんじゃないか!」
顔の下半分がひげで覆われている小柄な男がセシリアさんへ孫に向けるような目をして頬を緩ませていた。木製のジョッキが似合いそうな面持ちと小学生低学年くらいの身長からして、ドワーフという種族なのではないだろうか。
さっき紹介された雑貨品店でもセシリアさんはあたたかく迎えられていたし、この街では人気者だったりしそうだ。……まあ、セシリアさんって物腰やわらかで人当たりが良い美人さんだから、むしろ日陰者であったほうが首を傾げてしまうところか。
「お久しぶりです、ヴィンスさん」
「本当に久しぶりだな!元気にしていたか?聞いた話によると聖女に選ばれたんだろう?」
「はい。私では身に余る光栄ではありますけれど」
「そんなことない。セシリアちゃん以上にその肩書きに似合う子なんていないよ。俺が保証する」
ドワーフっぽい男―-ヴィンスさんは腕を組み鼻息を荒くする。
「それで、うまくいっているのか」
「はい。日々精進させていただいています」
セシリアさんの返答に俺は首を傾げた。基本的には弟のキースさんと冒険者家業をしており、うちのクランに俺以上に訪れているセシリアさんが聖女らしい活動をしている所を見たことがないから。日々精進しているというのは何のことを指すかを明確にしていないため、冒険者としてという意味でとらえることは出来そうではあるか。
「そういえば、ナンシーさんは」
「ああ……あいつはちょっと野暮用でな……。そこにいるのはセシリアちゃんのお友達かい?」
「はい」
「なら、うち自慢の武器たちをゆっくり見っていてくれや」
あからさまな話題転換でナンシーさんとやらの用が気になったけれど、セシリアさんは追及しようとする姿勢を見せないのでちょこんと頭を下げるだけに留めた。
「いえ、今回はお友達にヴィンスさんのお店を案内することが目的だったのでお暇しますね」
「おお、そうかい。じゃあまた来てくれ」
ヴィンスさんはきょとんとしてから過去を懐かしむような顔を見せ、俺たちのことを快く送り出す。
セシリアさんと出会った当初は計算高いのではないかと疑っていたが、前に顔を合わせた時、鞄を腕に下げているのに鞄を探していたところを見るに天然なんだと思う。だから、ヴィンスさんは武器を買うつもりもないのに来たセシリアさんを見て過去の一出来事が思い起こされたのだろう。
「それでは次、おすすめのパン屋さんを――」
「ちょっと待って。私はこの街へ観光しに来たわけじゃないの」
武器屋を後にし、おすすめのパン屋さんを紹介しようとしたセシリアさんの言葉をユーニスさんは遮った。
ユーニスさんはちょっと強い口調でぴりつきを感じ取る。
「では、おすすめのお風呂屋さんを――」
「そうではなくて!この町のクラン協会に案内してと言っているの!」
「……ああ!分かりました!」
セシリアさんは目をぱちくりとさせた後、いつもの笑みをして両掌を顔の前で合わせる。ユーニスさんは忌々しそうにため息を吐いてから、案内して、と告げ、セシリアさんは、分かりました、と頷いた。
「おい、二人ともいっちゃってるぞ」
歩き出した二人に続きたいところだったが、小柄な体型の割に不釣り合いな胸をしたピンク髪の少女がこの世のすべてがくだらないとでも言いたげな顔をしてよそ見ていたので声を掛けた。
「あ、そう」
さっき、この世のすべてがくだらないという顔と表現したのは間違っていたようだ。今俺に向けている顔の方がそう表現した方が適切だろうから。しかも、こっちの歩調に合わせるつもりがなさそうな感じで先に行ってしまう。
「おい、ちょっと」
親切で声を掛けてやったのに……!
男嫌いのクランメンバーであるレアからの相変わらずな態度へ腹が立つ。俺のことが嫌いなのはいいんだけど、依頼としてここに来ているわけだからよそ見なんてせずびしっとやって欲しいところだ。
しかも、自分からついて行くって言いだしたわけだからな。……というか、レアからついて来るって言いだしたのか。
ある疑問を抱いた俺は小走りでレアに追いつき、つまんなそうにしている様子を再確認する。
「なあ、 どうしてこの依頼についてきたんだ」
「……なんでそんなこと教えなくちゃいけないの。パワハラ?」
俺のことを値踏みするかのように見つめてから、明らかに人様を舐めた口調でふざけたことを抜かしてきた。
なんだよパワハラって……。イザベルも俺の言葉がすべてとか言ったらしいけど、おまえらいつ俺の話を聞いていたことがあるんだよ!
登ってくる熱い何かを頭へ冷やすように命令する。ここで熱くなって怒鳴りつけたとしても、流行りのキャラが映ったお年玉袋を渡す叔父を見つめる子供のような目をされることは分かりきっている。
だからといってここで目的を聞き出すことを怠れば、レアがとんでもないことを起こそうとしていた場合、取り返しがつかない事態になってしまう。
「レアのことだからユーニスさんとセシリアさんを狙っているのかと思ったけど、そういうわけでもないんだろ?」
「なんでそう思うの?」
「いやだって、最初はアプローチを掛けていたけど、今なんかは全く興味がなさそうじゃんか」
「だって好みじゃないんだもん」
好みじゃないないんもん、って……。
クランメンバーに対してグレタ以外に猫なで声で話しかけているのを見たことがないから、レアの守備範囲は誰かれ構わずというわけではないのかもしれない。多分だけど、アプローチを掛けてみた結果、好みじゃないと判明したのだろう。
だったら帰ったらいいんじゃないかと言ってやりたいところだが、グレタから、これがチャンスなことは分かっていますね、と睨みつけられた出来事が頭をよぎり喉元で留める。
「もういい?」
「……ああ」
本当は良くなかったが抱いているモヤモヤを解決できる言葉を見つけられなくて頷いた。
レアは前を向きまた一人で先に進んでいく。
「はぁ。先が思いやられるな……」
今回も楽をさせてくれないのかと、星の巡りが悪いとしか思えない転移後の人生にげんなりした。
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