第八十話 ユーニスからの依頼2
「あなた達にお願いしたい依頼は人探しと説得よ」
「人探しと説得?目的の人を探し出して、その探しだした人を説得するってことですか?」
「そういうことになるわね」
俺の疑問にユーニスさんは頷いた。
「クランマスターユーニス様、私たちのクランは人探しを得意としているわけではないですよ」
「……ええ、分かっているわ。ただ、重要な依頼だからあなた達に任せたいの」
ユーニスさんはグレタのちょっと皮肉めいている言い回しに眉をひそめてから、俺に向いて言った。
重要な依頼なのに顔見知り程度の俺たちへ任せるのか……。
「まだ会って間もない私たちに頼むとは、クランマスターユーニス様にはご友人がいないのですね」
「そんなことないわ!この依頼は友人からお願いされたものなのよ!それと、クランマスターユーニスはやめて!ユーニスと呼んで頂戴!」
突然さっき床に落ちた時以上の大声で叫んだ。まるで、柔らかい部分を覆い隠すために体を丸めて威嚇するハリネズミのように。
グレタもなんとなく察したのか、ちょっとばつが悪そうにする。
「分かりました、ユーニス」
いや、呼び捨てしている辺り、悪いと思っていないみたいだ。
てかなるほどな、友人が少ないから俺たちに頼んだのか……。友人が少ないにしても、もっと頼れるところはありそうなもんだけど。……つまりはその数少ない友人から人探しをお願いされて、でも一人じゃ上手くいく気がしなくて俺たちに頼んできたってことか。
「ん、んん。報酬はこれぐらいでいいかしら?」
ユーニスさんは仕切り直しと言わんばかりに頬を染めながら咳払いをする。次元の裂け目のようなものが現れ右手を突っ込み、小切手みたいなものを取り出した。そして、その小切手を俺へと渡す。
小切手にはぱっと見じゃいくらか分かりづらいぐらいのゼロが並んでいる。
「……こんなに?」
「ええ。足りなかったかしら?」
「いや……」
勿論そんなわけはなく、人を探して説得するだけでこんなにお金を貰えるという事実に困惑しているのだ。Sランククランのクランマスターなわけだから、吐いて捨てるほどのお金がありやまっているからなんだろうけど。
別にこっちの都合が悪くなるような依頼でもなさそうだし。
「詳しい依頼内容について聞いてもいいですかね」
「分かったわ。まず、依頼対象の名前はコリン。一応どこにいるかの目星もついていて、もし場所を移しているわけではないのならコラプトいるはずよ」
「場所は割れていると。なら、説得が主な依頼ってことですね」
「そういうことになるわね」
「……場所が分かっているんだったら、その頼んだ友人が説得すればいいんじゃないですか?」
「……まあ、いろいろとあるのよ」
遠い目をするユーニスさん。依頼に関係する可能性があるから本来なら聞き出した方が良いんだろうけど……。
まあ別にいいか。本当に切羽詰まっているんだったらユーニスさんに人の説得なんて頼んだりはしないだろうから、依頼をする経緯とかたいしたことないだろうし。
「ちなみに、私も同行するわ」
「ええ……」
「なによ」
思わず心に浮かんだ感情を表に出して、ユーニスさんにジトッとした目で見られる。
俺がなぜユーニスさんについて来てほしくないのかを察せられない時点で同行して欲しくないのだが、勿論そんなことは口にはしない。
「あの、私もついて行っていいですか?」
「ええ?」
ケーキを楽しんでいたはずのセシリアさんも何故か名乗りを上げたので困惑する。
別に悪い人ではないんだけど、なんかグイグイきて関わりづらい印象があるし、ユーニスさんとセシリアさんと並んで街を歩いている姿を想像すると居心地が悪そうな気がして。グレタとローナを引き連れていた時は、二人がまだ子供だから周りの目は気にならなかったけど、ユーニスさんとセシリアさんでは話が変わってくる。
「あの、理由を聞いてもいいですかね?」
「コラプトにある教会で一年間ほどお世話になったことがあるので、久しぶりに顔を見せようかなと。それに、街並みが変わっていなければ案内もできますよ」
人を安心させるようなニコリとした笑顔をするセシリアさん。
……なんか、結構ちゃんとした理由だな。観光気分でついて来るなら断ろうと思ったんだけど。
ユーニスさんとセシリアさんを連れて街を歩くのか……すげえ視線が集まりそうだ……。
もうすでに若干ノイローゼ気味になっていると、ふとユーニスさんがクラン拠点前で待っていたことを思い出す。
「そういえば、なんでユーニスさんは中で待ってなかったんですか?」
「はあ!?私だってあんなところで待っているつもりはなかったわよ!ローナがマスターの許可がないと入れませんとか言い出して、赤髪のエルフがうちはマスターの一声がすべてだからねとか言い出したから!」
怒りの導線に火をつけてしまったのかすごい勢いでまくしたてる。
ローナへ向くとただこっちを見るだけで悪びれる様子もない。悪いと思っていないのだろう。
イザベルの奴も適当なことを言いやがって。何が俺の一言がすべてだよ。いつ俺の言ったことに従ったことがあるんだよ……。
「いや、それウソですから。正直クランマスターって名乗ってますけど、一番下っ端は自分ですからね」
「……それはそれでどうなのよ」
怒りをすっかりと収まったユーニスさんは呆れと憐憫が混ざった表情で言い放つ。
言い逃れをしているのではないかと思われず素直に納得された事実に、俺は悲しくなった。
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