第八話 クラン協会2
げっ……。なんでこいつら俺たちに興味を持ってきているんだよ。
「嘘なんてついてない」
「ひっく、嘘ついてんじゃねぇか。お前らみたいなのがカームアルカディアなわけないだろ。ひっく、そもそも見たことねえから、おれりゃそんな奴らがいること自体信じてねえ!」
「なに絡んでる……、おいおいかわいい子ちゃんじゃないか!」
爽やかハンサムといった感じの男がグレタとイーデンをじろじろと見る。向こうでたむろしている奴らとは毛色は違うが、同じグループなんだろうしほっぺたが赤いから酔っ払いであることには変わりない。
まじかよ……。この二人の容姿は整っているから、こいつらのことを見たときこうなる予感はしていたけどさ……。まだ子供だから範囲外とか倫理観的に不味いでしょみたいなことを期待してたんだけど。
ああもう、考える限りの最悪な展開に向かっているような気がしてならないんだが!
「何言ってんだ、ひっく。まだガキじゃねえか」
「いや、君の範囲は熟女だからそうなるだけだろう」
「はぁあ?女として油が乗っている最高な時期であって熟女なんかじゃねえよ!」
ああ……。だから酒盛りをしている集団に、若い女の子が多いなか俺の母親ぐらいに見える女の人がいるのか。
「かわいい子ちゃんたち、俺と一緒に遊ばないか?」
ハンサム男は酔っ払いを無視して、イーデンたちに声を掛ける。
「いやだ」
対してイーデンは、グレタから一歩前に出て返事をした。
「おいおい、俺よりもそこにいる冴えない男と一緒がいいっていうのかい?」
イーデンがこっちをちらっと見たあと、きざったらしい男に向いて、
「お前よりマシ」
マシって……。一応クランマスターなわけだし、もう少しましな言い方をしてくれても良くないか?
「な!?」
「おいおい、こんな乳臭いガキに断られてるとか、ひっく」
「うるさい!……かわいい子ちゃんたち。こっちが下手に出てるからって調子に乗るなよ。アッシュロードに逆らわない方が身のためだ」
アッシュロード?ああ、こいつらのクラン名か。こんな公の場みたいなところを陣取っているぐらいだから、でかいところなんだろうけど。
自分の所属しているクランを盾にして威張るとか……。いや、すげぇな。
あまりのテンプレな言い回しに感心していたら、ハンサム男がイーデンの胸辺りに手を当てる。
「意外とあるじゃないか」
そして、当てている手でイーデンの胸を揉んでいた。
イーデンはキャアァァ、とかやめてください!みたいな女の子らしい反応は一切せず、自分の胸をハンサム男に揉まれているのをじっと見ている。
胸をもまれるのはイーデン的には別にいいのかと困惑していたら、ドゴンッと頭上から凄い音がした瞬間にハンサム男が消えて、見上げると天井から足をバタバタさせている何かがいた。
……あれ、大丈夫なんかな。普通に考えたら死んでるけど。
「て、てめぇ、アッシュロードに歯向かう気か!ひっく」
天井に刺さっていない方の酔っ払いが叫ぶと、酒盛りを楽しんでいた男たちが一斉に立ち上がり、武器を手にする。
周りの雰囲気が今にも一戦起きそうなものに変わった。
なんでただの下っ端に手を出しただけで、その所属している所に喧嘩を売ったことになるんだろう……。
トップとしては、そこら辺の弱小の奴らに自分の所の奴がやられたのにも関わらず、仕返ししなかったら組織全体が舐められちゃうからか……。
「お前ら、座れ」
俺はこれから起こる惨事を想像して現実逃避をしていたら、だいたい二十代ぐらいで極道的な風格のある男がぽつりと口にする。
「で、でも、ハヤトさん!ひっく、あいつら、俺たちにかみついたんですよ」
「噛みついた?天井に突き刺さっているバカがそこにいるガキに手を出そうとしただけだろ」
「それでも、アッシュロードの名前を聞いて手を出してきたんだ、ひっく。こんなガキどもになめられちゃあ、示しがつかねえよ!」
酒瓶をぶんぶんと振り回す男の言葉に、奥で酒盛りしている酔っ払いたちが同意して叫び始めた。
「黙れ。二度、同じことを言わせる気か」
酔っ払いたちの騒がしい声と比べるとかなり低い声量ではあったのだが、不思議と低い声が耳に通る。
そして、酔っ払いたちは急に静かになり席に座った。
おお……、風格があるな。
極道ものなんかでよくある、一般人には手を出さない、みたいな仁義でもあるのかな?
なんか、いい感じに事が収まりそうだぞ。
「すまないな。馬鹿どもが大騒ぎして」
謝った!?頭を下げたわけじゃないけど。
「別にいい」
「……お前がこいつらの保護者なのか」
返事したイーデンではなく、俺に聞いてくる。
俺は俺よりも圧倒的格上の実力を持っているイーデンと、そのイーデンに認められている節のあるグレタを見る。
……保護する側なのか保護される側なのかは分からないけど、俺が保護者ということにした方が収まりいいか。一応、クランマスターなわけだし。
「そうですね」
「そうか。なら、ガキを――」
「ガキじゃない」
イーデンの横やりにより、俺は一瞬で肝が冷える。
「……俺たちのシマに馬鹿たちを騒がせるような女を連れてくるんじゃない」
俺たちのシマって、ここはギルド協会っていう公共の場所なんじゃないのと頭によぎりながら、
「……すみません」
「分かればいい」
わざわざ、言い換えてくれたみたいだ。
イーデンもそのおかげか気分良さそうにしているし、意外と話が通じるタイプだって分かったから、結果的には良かったけど……。
だからといって、心臓がいくらあっても足りないから、ひやひやすることはやめてほしい。
「おい、お前ら。帰るぞ」
「ええ!これ――」
不満げな声を上げた男は極道っぽい男がにらみつけられると黙る。
そして、極道っぽい男が外に出ていくと、酔っ払いたちもぞろぞろとついて行った。
……何とかなったか。
「お前たちさ、もうちょっと危機感を持っても良くないか?」
「あんなのが噛みついてきたところで、たいしたことないので気にする必要なんてありません」
「あんなやつら、雑魚」
グレタはそう言い放ち、イーデンはシュッシュと口にしながらシャドウボクシングみたいなことをしながら強気な発言をする。
仮にこの場は大丈夫だとしても、組織に喧嘩を売るってことなんだからさ……。
脳筋思考なイーデンならともかく、グレタはこういうことに関してはまともだと思っていたんだけど……。
はあ、とため息をついて天を仰ぐと、天井から人間の足が生えている。
「あいつら、上にいるのも連れていけよ」
助けた方が、とも思ったが、面倒だし目的は果たしたのでギルド協会から出ることにした。疲れたし。
お読みいただきありがとうございます