第七十九話 ユーニスからの依頼1
遅くてすみません
あんまり関わり合いたくない奴らの巣窟であるクラン拠点へ久しく帰ってきて思うことは、すげえでかいなというのとアホみたいにボロイなというものだ。
こうやって外から見ると、いつか建物自体の自重でいつか崩れてもおかしくなさそうに思う。そういった恐れが、俺がここに近寄らない理由なのかもしれない……。まあ、普通に俺と違う時間軸で生きているとしか思えないクランメンバーと関わり合いになりたくないっていう話でしかないのだが。
俺がわざわざ宿で一人暮らししていることについて追及していると、魔法学園の優等生って雰囲気を漂わせている黒髪の女性と目が合ってしまった。
やべ……。
急いで回れ右をして町に戻ろうとするのだが……。
「どうして私と目が合ったのにどこかに行こうとしているのよ!」
いやだって、どう見ても地雷原なんだもん。
そう思いはしたが、俺はクラン拠点の扉に近い壁にもたれ掛かっていたユーニスさんに呼び止められて足を止める。ここで知らんふりを出来るほどの図々しさを持ち合わせていないために、仕方なくユーニスさんの元に向かう。
「なんでこんなところにいるんですか」
「あなたに依頼を持ってきたからよ」
「依頼?なんで自分に……」
「あなたにぴったりな依頼だと思ったから」
ユーニスさんは真剣な顔つきでこっちを見据える。
Sランククランマスターからの依頼。どう考えても面倒ごとだ。……どうにかしてうやむやにできないものか。
「S級クランのクランマスター様が、こんな吹けばすぐにでも崩れ落ちそうなところでお山の大将を気取っている自分にぴったりの依頼とは何でしょうか?」
「……そんな自分を卑下しなくてもいいのよ」
「いえ、自分なんて……。そうだ!クランマスターとして胸を張れるように、これから自分探しの旅に出ようと思います」
「そう……頑張って」
回れ右をしてトボトボとした足取りを意識しながら少しずつユーニスさんから遠ざかる。
「って、ちょっと!どこかに行こうとしないで!」
ちっ。流石に逃げられないか。
俺の魂胆に察しがついたのか、ユーニスさんから胡乱げな目つきで見つめられる。これ以上逃走しようと試みるのは相手の心証を悪くするだけになりそうだ。
「……とりあえず、中に入りますか?」
「ええ。そうさせてもらうわ」
ユーニスさんは毅然とした態度で頷いた。断ってくれてよかったのに。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「ああ。ただいま」
屋敷の扉を開くと、いつも通りの仰々しいお辞儀でローナから迎えられた。
「外で待っていた時にも思ったのだけれど、ここ、かなり広いわね」
「まあ、町外れにあるようなところですから。そこまで値は張らないんですよ」
ここを使えている本当の理由は知らないが、もっともらしいことを言う。グレタとかローナに理由を聞いて、勝手に使っているとか脅して言い値で買い取ったなんて話になったら問題だから。
「じゃあ、リビングに案内するのでそこで依頼について教えてもらいますね」
「分かったわ」
ユーニスさん、グレタ、ローナを引き連れて階段を登り、いつも食事を取る部屋に入る。
するとなぜか、アッシュロードに囚われていたところを俺とグレタとイーデンで助けたセシリアさんがいた。しかも、めっちゃうまそうなケーキを頬張りながら。
「あ、マコトさん。マコトさんがこの屋敷に寄るなんて珍しいですね」
セシリアさんはケーキを口に運ぶ手を止めて、俺に手を振る。妙になじんでいるというか、お客様感がない。
「なあ。もしかしてセシリアさんがここに来るのは初めてじゃないのか?」
「だいたい、週に三回くらい来てますよ、あの女」
グレタに耳打ちしてみたら、セシリアさんが予想以上に高頻度でここに来ていたことが発覚する。そりゃ、馴染んでいるわけだ。
「えっと、マコトさんの隣にいる方は誰なんでしょうか?」
「私はソロヴァスに所属しているユーニスよ。マコトに依頼をお願いしに来たの」
「ソロヴァス!?それってSランククランですよね!?」
「ええ。そこで私はクランマスターを務めているわ」
「凄いです!」
ユーニスさんはなぜか一度髪をかき上げてからクランマスターなのだと宣言し、セシリアさんは手を合わせて褒めたたえた。ユーニスさんの表情は冷静沈着そのものなんだけど、口元が弧を描いている。
「でも、ユーニスさんのようなとてもすごい方の依頼の話をするということは、私はここにいない方が良いですよね?」
「構わないわ。聞かれて困るようなものではないのだから」
困らねえのかよ。だったら、なんでわざわざここに来たんだ……。コンコードパクトはクラン協会を通して依頼されたし、ここに来る必要なかっただろ。
「少し暑いわね。服を掛けるところはないのかしら」
ユーニスさんは魔術師といえばこれって感じの黒いローブを脱ぎ、白いシャツ姿になってそのローブを腕に掛ける。
「こっちにあります」
「ちょっと押さないでよ」
ローナが案内するのかなと思ったらグレタがユーニスさんの背中を押して案内するみたいだ。
そんな案内の仕方は不味いような気もしたが別にユーニスさんだからいいかと思う。Sランクのクランマスターがわざわざここまで来る理由を考えていたら、突然きゃあ!?と悲鳴が。
「え、なに?くっ……!」
悲鳴がした方を向くとユーニスさんが床に埋まっていた。思わず笑い声が漏れそうになるが、何とか抑え込む。
「ちょっと何なのよ!」
「昨日、ちょうど修繕した床だったみたいです」
すまし顔でグレタはそうのたまい、ユーニスさんに手をさし伸べる。ユーニスさんはその手を素直に握り引き上げられるのだが、グレタが途中で手を放した。そんなことをしたら当然ユーニスさんは床中に逆戻りになるわけで、
「どういうつもりなのよ!」
「何のことですか?」
「分かって……もしかして、氷漬けにしたことを根に持っているのかしら」
ユーニスさんの額に浮かんでいたしわがなくなり、代わりに玉のような水滴が浮かび上がった。
そういえば、ユーニスさんとグレンさんの足止めを頼んだ時に、グレタは氷漬けにされたんだったか。
「何のことですか?」
グレタはなにも読み取れない表情でユーニスさんに手をさし伸べる。ユーニスさんは何かないのかと探すかのように首を振り、首をガックシと落としてからその手を恐る恐る握った。今度はグレタが手を放すようなことは起こらず、無事ユーニスさんは床から引きずり上げられた。
「では、そのローブを掛けられるところまで案内しますね」
「……いえ、いいわ」
ユーニスさんは服に着いた木くずを払いながら首を振り、黒いローブを腕に掛けたまま近くにある椅子に座る。
俺、グレタ、ローナも椅子に座ると、ユーニスさんが口を開いた。
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