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第七十六話 今回の背景2


「僕は魔族が人間を手引きしたんだと考えています」


「何か心当たりが?」


「はい。恐らく、僕のことを邪魔に思っている人、もっと言えば僕が人間に捕らわれることで得する過激派なのではないかと思っています」


「過激派ですか?」


「魔族と人類の不干渉を破ろうと考えている勢力のことです」


 聞き返したゲイブリエルさんに対して、アイヴァンくんは神妙な面持ちで頷いた。過激派という名前からして、人類と魔族がおててを繋ごうという意思の元で不干渉を破ろうとしている集団というわけではないのだろう。


「そして、現魔王が関与しているという噂のある勢力です」


 全員の時間が一瞬だけ停止する。

 魔王とかいう明らかなキーパーソンが人類に仇成す勢力に属している、よく情勢が分かっていない俺でも不味いことぐらいは察せられる。

 各クランのクランマスター達の反応は、いつも通りの冷静な面持ちだったり、バン!と机を叩きつけたり焦る様子を見せたり、ぴんときていない反応をしていたり、口元を歪ませながら女体をまさぐるのにお熱だったり、顎に手を当てていたりと様々だ。

 

 魔王って、アイヴァンくんのような四大魔貴族よりも偉いのかな?魔王ってことは王様だから偉いことは偉いよな……。


 ちょっとズレたことを考えている自覚しながら、魔王が一番偉いなら特大問題なので訊いてみたい。ただ、そんな初歩的な質問をぶっこむ勇気は俺にはないんだけど。

 普段通りのグレタへ向くが、魔王がトップでないとしても一大事であることは変わりないんだろうからまあ別にいいかとなってアイヴァンくんに視線を戻す。


「僕のことを知っている過激派が裏で糸を引いているのだとしたら、僕が死ぬ、もしくは囚われたなどをトリガーにして扇動しよう意図があるのかもしれません」


「だから、君をここで人質として捕らえて魔国を揺さぶるようなことは辞めろって話?」


「え……?いえ、そういった意図はなかったのですが……。過激派が人類側に干渉してくる、もしくはすでに入り込んでいる可能性を伝えたかったんです」


 俺はゴールトン町のことを思い出す。あそこは元々人の町だったのに、魔族の巣窟と化していた。あの町は特殊だったと考えたいところだが……魔の手がどの程度及んでいるのかなんておそらくここにいる誰であっても分からないことだろう。


「どうしてアイヴァン様は私たちにそのことを伝えたいと考えていただけたのでしょうか?」


「……多分、僕たちと皆さんの関係が修復不可能になってほしくないなと思ったから、なんだと思います」


 アイヴァンくんはこっちへ向いて照れくさそうに言った。





 あの後、アーウィンさんが飽きたとか言い出してオーレックスは立ち去り、立ち去ったアーウィンさんにユーニスさんがぶつくさと文句を垂れて、グレンさんがアイヴァンくんに、ユーニスの結界を破るなんて大した奴だな!と肩をバンバンと叩いてから気さくに話しかけた。腕を組み目を閉じていたグレアムさんは部屋から立ち去ったところで会議の体なさなくなり、ブレイズクルーの面々のせいで和気あいあいとした雰囲気になり今回の話し合いは終了を告げることになった。

 俺が今回一番気になったのは、主催した会議が無茶苦茶になったのにずっとニコニコとしているゲイブリエルさんだった。こういうことには慣れているから諦めているのか、それとも腹の内ではぐつぐつと煮えたぎっているのか、もしくは何の感慨も覚えていないのか……。後半二つのどちらかが理由なのだとしたら恐ろしい。


「マコトさん!」


 会議室から出たところで赤髪の少年が手を振りながら歩み寄ってくる。なんとなく、振っている手が飼い主を見つけた時の犬の尻尾みたいだと思った。

 少し離れたところで、アイヴァンくんの幼馴染であるアリサさんがあんまり快くなさそうな面持ちでこっちを見つめている。これが本来の人間と魔族の距離感なのだろう。


「ええっと、アイヴァン様――アイヴァン・ロウトン様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」


「やめてください!さっきも言いましたけど、そういう恭しい態度は苦手なんです!」


 アイヴァンくんは赤らめた頬を少し膨らませて訴えかける。


 ……保身は良くないか。


「冗談だよ」


「もう……ひどいです」


 わりかし本気だったんだけど、冗談ってことにした。拗ねたように顔を俯かせる赤髪の少年との縁が切れるような気がして。


 俺ってアイヴァンくんと他人になりたくないって思ってるのか……。


 思っていた以上にアイヴァンくんが自分の内側に入り込んでいたのか、もしくは自分が入れ込みやすい質なのかとか考えながら、特定の層に受けそうな不満げな表情をしたアイヴァンくんと向き合う。


「マコトさん、今回はありがとうございました」


「……うん。どういたしまして」


 そんなことないと答えようとした。けど、行き倒れている所を拾い不審者を追い払い、危険を承知で囚われている幼馴染を助けるのを手伝ったことを加味すると、そんなことないと答えるのは素っ気ないと思った。


「ローナさんとグレタさんもありがとうございます」


 律儀なアイヴァンくんはお礼を告げるが、二人はちょこんと頭を下げるだけ。不愛想な奴らだ。


「本当にマコトさんには感謝しているんです。本当にいろいろと……」


 俺の頭上を見上げながら感慨深そうに頷く。アイヴァンくんの頭の中でここ数週間の怒涛の日々が巡り巡っているんだろうか?

 しばらくすると、アイヴァンくんはもじもじとしだす。

 

「あの……そのぉ、なんですけど……」


 人差し指同士でつんつんさせながら言い淀み、俺とローナを交互に見やった。


「言いたいことがあるなら言ってみて」


「はい……!あの、ローナさん!僕と一緒に来てくれませんか!」


 機敏な動作で体を九十度に傾け右手をローナへさし伸べる。

 ローナは不思議そうに頭を傾げていた。アイヴァンくんが前の見えない体制をしていることでローナの様子が分からなくてよかったと思った。


「それは魔国へ共に来てほしいということでしょうか?」


「はい!」


「ご主人様、どうするべきでしょうか?」


 いや、俺に聞くなよ。明らかにアイヴァンくんに気があるわけでもないのに行っていいよって答えるのは変だし、行くなと答えたら、俺がローナに惚れているか都合のいいように扱っている感じになっちゃうから。


 少しは自分で考えろよという目をローナに向けていたら、アイヴァンくんは頭を下げたまま、


「あの、やっぱり聞かなかったことにしてください。……皆さん、ありがとうございました」


 頭を下げたまま振り向いて体勢を戻し、背を向けたまま込み上げてくるものを必死に抑え込もうとしているような声色で感謝を告げ、こっちを睨みつけているアリサさんがいるところへ向かう。

 何か言っても、アイヴァンくんの蛇口の勢いが中から強になるだけなのは俺の経験則からして間違いない。でも、このままにするのは後味悪くて。


「もしまたここに来るようなことがあったら、俺たちのことを頼ってくれていいからな」


「………………。ありがとうございます……!」

 

 アイヴァンくんは一瞬立ち止まりしばらくしてから腕で何かを拭うような動きをし、こちらに振り返って深々と頭を下げた。


お読みいただきありがとうございます

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