第七十五話 今回の背景1
前に集会があった部屋で前と同じように俺達カームアルカディアとSランククランの面々が一同を会していた。
「この度はお騒がせして申し訳ありませんでした」
頭に牡牛のような角を生やした赤髪の少年と体が薄緑で緑髪の少女が首を垂れた。前と違うところは、魔族スタイルのアイヴァンくんとアイヴァンくんの幼馴染がいることだろう。……あと、エドガーさんはどこかでふらついているのか、出席していない。別に問題はないんだけど。
エドガーさんの評価をさらに下方修正すべきか検討していたら、ぱちぱちぱちぱち、と手で手を叩いたときの音が耳に入り込んできた。
「いやあ、偉いなあ。どこかの誰かさんと違って謝れるなんて」
「……もしかして、私のことかしら」
目がにやけているアーヴィンさんにユーニスさんが剣呑な雰囲気を出しながら問い掛ける。
「別にそういうつもりはないけど、もし心当たりがあるんだったら謝った方が良いんじゃない?」
「……ッ!いつも問題を起こすのはあなたの癖に!」
「僕は問題を起こしたなんてないよ。仮に僕が何か起こした事があったとしても、今回の件とは関係ないよね?ほら、謝罪謝罪」
へらへらと笑いながらぱんぱんと手を叩くアーウィンさんにユーニスさんは目をひん剥く。
そうやって反応するからからかわれるのに。
無視した方が良いよと忠告してあげたくなる。が、今のままの取っ付きやすいユーニスさんにはそのままでいて欲しい気にもなる。……まあ、何にしてもここはステイなんだけど。
「話が脱線しています。今回は魔族の少年の話を聞くことが目的ですよ」
ゲイブリエルさんの発言により二人は表情とかはそのままで口だけを塞いだ。
アーウィンさんとユーニスさんの様子を伺っていたアイヴァンくんは、ふぅと息を吐き出してから背筋を伸す。
「今回は私、ロウトン家五男アイヴァン・ロウトンが話をする機会をいただきありがとうございます」
「ロウトンって、もしかして四大魔貴族の!?」
「……はい」
アイヴァンくんはためらいを見せながらユーニスさんの質問に頷いた。四大魔貴族とやらが問題なのか、興味なさそうにしていたクランマスター達の視線が一斉にアイヴァンくんへ向く。俺の知っているアイヴァンくんだったらこういう状況なら慌てふためくはずなんだけど、堂々としており緊張の色は見えない。こうなることをあらかじめ想定していたのだろうか。
俺はグレタへ顔を寄せ小声で、
「なあ。いまいちよく分かってないんだけど、四大魔貴族ってめちゃくちゃ偉い魔族の貴族様ってことでいいのか?」
「私も詳しいわけではないですが、おおむねそのような認識で合っているはずです。聞いた話によると、魔国を統べる魔王よりも畏敬され権力があるらしいですよ」
「……まじか。俺、そんなえらい貴族のご子息にため口をきいてたんだけど大丈夫かな……?」
「ばれたらすぐに首を落とされることになるでしょうね」
「……冗談だよな?」
「……アイヴァンさんの話を聞いた方が良いんじゃないですか」
少しの間黙ったのちにグレタは話を逸らす。
気が気でないから本当は問題ないと聞き出そうと考えていたが、グレタの発言が正論すぎて渋々会議に耳を傾ける。
「ねえ。なんでそんな貴族様が敵しかいない巣窟に入り込んできたの?」
アーウィンさんは貴族様なんて思っていなさそうな――いや、むしろ思っていそうなのか……一目で見くびっていることが察せる態度で訊いた。
「幼馴染を助けるためです」
「なに?恋人なの?」
「違いますよ!?そういうわけではないではないですからね!」
アイヴァンくんはこっちを向いて、というかローナに向けて慌てた様子で否定する。アイヴァンくんの幼馴染は不満げに頬を膨らませていた。
「それに、僕は皆さんのことを敵だとは思っていませんから」
「ふーん」
アーヴィンさんは隣に座っている夜のお仕事をしてそうな恰好の女性にちょっかいを掛ける。
アイヴァンくんが興味の対象ではなくなったんだろう。
「アイヴァン様、何かお話したいことがあるのではないですか?」
「あっ!すみません!あ、でも慣れないので様づけは辞めてほしいのですか……」
お願いされたゲイブリエルさんは笑みを浮かべたまま。
アイヴァンくんは何かを察したのか頭をがっくりと落とした後、喋り始める。
「アリサ……隣にいる女の子の話なんですが、一人でムーの乳しぼりをしている時に拉致されたらしいんです」
「許せねえな!か弱い女の子を一人の時を見計らって攫うなんて!」
義憤にかられたグレンさん。人の良さが表れている。
Sランククランのクランマスターの中で一番好感が持てる人だなと思っていたら、ひらひらな服を着たグレアムさんが、
「ふむ。アリサさんはどこに住まわれているのだ?」
「……アーディス村です」
どこか怯えた様子でアイヴァンくんに隠れてアリサさんが答えた。俺の中で実は一番まともなのはグレアムさんなのではないかという説が浮上しているのだが、ぱっと見でそんなことが分かるはずがないので正着な反応といえるだろう。
グレアムさんはアリサさんの反応に気にした様子を見せず、アイヴァンくんへ向いて問い掛けた。
「それはどこに位置している」
「僕の領地の近く……つまり人間領と魔族領の境目からかなり離れた場所です」
「へえ、そんな遠出をするなんてヴィンドティティのやつらもご苦労だね」
「何かしらの伝手もなく入り込める場所じゃないわね……」
興味なさそうにアイヴァンくんは言い、顎に手をあてながらユーニスさんは考え込む。
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