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第七十四話 危険すぎる少女たち2


 って、こんなおしゃべりをしている場合じゃなかったわね。


 マコトの目的はどういったものかは分からないが、少女二人に足止めを任せたのには相応の理由があるはず。それも、ある程度の時間が稼げればいいだけであるはずだ。いくら少女二人が等級以上の腕前を携えているとはいえ、私達相手に勝ち切れると想定しているとは思えない。もし、勝ちを確信しているのだとしたら一緒に立ち向かわない道理などないだろうから。

 

「……!グレタはどこに!?」


 考えを巡らせていたとはいえグレタからは一切目を離していなかったはずなのに姿を見失う。

 もうただの少女と侮るつもりなど毛頭ないため、私は幾重にも防御魔法を張り巡らせる。


「引っかかった!」


 かなりの防御魔法を重ね掛けしたのにもかかわらず残り二層まで破られていることにドキリとしながらも、防御魔法と纏うのと同時に仕掛けた凍結させる魔法が起動したことを確認する。

 少し顔を横に向けると、短剣を私の首元に突きつけるヘンタイが高い値をつけそうな氷像が出来上がっていた。


「全くひやひやさせるわね……」


 この氷像をどうする扱うべきか迷う。ヘンタイに売りつけるなどは言語道断で、魔族と何かつながりがある少女であることを考慮すると事情を聞き保護をするべきなのだろうが、クランマスターを貶されて私に喧嘩を売るような狂信者がマコトと袂を分かつようなことをするとは思えない。

 そもそも、どんな原理かは分からないが目の前にいても見失うような隠密性を持ち私の防御魔法を容易く破れる最高級レベルの暗殺能力は、魔族とつながりがあるなどは関係なく管理されなければならないだろう。この少女に狙われただけで、どのような実力者だとしても枕を高くして眠ることなど出来ないのだから。

 本来なら、マコトの首輪しか受け付けないような危険人物の息の根など止めるべきなのだろう。しかし、良識がまだ膨大な生の時間が与えられている少女を手に掛けることに躊躇いを覚えた。


「ユーニス!」

 

 今まで聞いたことがない迫真に迫ったグレンの焦り声が響く。思案していたことで下げていた視線を前へ向けた。先ほどグレンの剣を受け止めた鎖、剣や槍、ハンマー、鎌などのありとあらゆる武器として扱えそうな物を手にしている黒髪の少女たち。


「……幻視魔法にでも掛かっているのかしら」


「だったら良かったんだけどな……。手ごたえからして、あれは全部肉が付いているみたいだぞ」


 ローナ、ローナ、ローナ、ローナ、ローナ。ゲシュタルト崩壊を起こしてしまうほどの大量のローナが私たちの行く手を立ちふさがっていた。

 

 何の冗談なのよ……。同じ顔の少女が大量にいるってだけでも頭が混乱するのに、グレンの一撃を受け止められるような質がある少女が量も取り揃えているなんて……!


「諦めることを推奨します」


 黒髪の少女は警告をする。


「諦めるってどういう意味だ」


「この数では勝ち目がないでしょう?」


 ローナ達は一斉に首を傾げた。

 その動作と表情と声色から含みは感じ取れない。


「なめんな。この数を対処できないようじゃSランクは名乗れねえよ。むしろ、そっちが降参するっていうなら悪いようにはしないぜ」


「……説明しておきますが今いる私達を倒しきれたとしても、いくらでも数は増やせるので意味はありませんよ?」


「仮にそれが本当だとして、どうして私達と戦わないのよ」


「ご主人様の意に添うようにすることがメイドの務めですから」


「……つまり、マコトが殺生を好まないから私たちと戦いたくないという事?」


「そういうとらえ方で矛盾は起こり得ないでしょう」


 私たちのことを知っている者ならローナの物言いを厚顔無恥と考えるかもしれない。が、ディザスタードラゴンと相対したとき以来の重圧を感じ取る。私は額から流れた汗が瞳に入りそうになり、目元を拭う。


「頼む」


「それだけ!?私はあなたのパーティーメンバーじゃないのよ!」


 説明を求めるが答えが返ってくることはなく、グレンはローナの群れへ走り出す。

 ただ、たまに組むことがあっても考えなしに突っ込むだけだったことを考え見れば一言あっただけで成長があったみるべきなのか、それともローナを強敵として認めたということなのか……。

 グレンは見事な手際で返り血など気にせず襲い掛かってくるローナたちの腕や腹、頭などに容赦なく剣を突き入れるのだが、数が数だけに対処にほころびが生じる。

  

「マジックレイ」


 たく、こうすればいいんでしょ。


 対処できなかったローナたちへ純粋な魔力だけが宿っている光線を放つ。援護に気づいたグレンがこっちに向いてサムズアップする姿にちょっとイラっとした。

 私の援護もあってローナの数を減らせているはずなのだが、減るのと同じかそれ以上の速度でどんどんとローナは増えていく。


 ……まったくどういう原理なのよ!魔力に頼った方法で数を増やしているならそろそろ限界であってもおかしくない――いえ、すでに限界であるであるはずよ。実態を持った肉体を作り出す魔法なんてあったとしても燃費が悪くて仕方がないはずだから、魔力量に自信がある私でもここまでの数を生み出すことは出来ないのに……!


「見つけた!お前だろ!」


 グレンは突然叫び声を上げ、ローナ達の動きが止まる。グレンは一人のローナの首元に刃を向けていた。

 

「何のことでしょうか?」


「お前が本体なんだろ?」


「……どうしてそうお思いに」


「喋っていたのがお前だけだからだ」


 グレンの発言で私ははっとする。

 首を傾げた時のローナ達は一斉に首を傾げたのに、声は一人分しか聞こえてこなかったことに。


 馬鹿だとしか思っていなかったけど……やるわね!


「……なるほど」


「ほら、降参しろよ」


 こっちまでむかつくどや顔を晒すグレンへ、考え込んでいる様子だったローナは鎖を放った。

 次の瞬間、ローナの首は宙を舞っていた。やりすぎのように思えたが、手加減できるような相手ではなかった。


「もうちょい自分を大事にしろっつうの」


「グレン!後ろ!」


 動きを止めていた偽物のローナ達が動き出し手にしている武器をグレンへ振りかざそうとしていたことで、思わず叫んだ。


「うお!?」


 背を返したグレンは間抜けた顔を晒しながら後ろへ飛び退く。


「死んだんじゃなかったのかよ!」


「いえ」


「おかしいだろ!だって、声はあいつしか出してなかったはずなのに!」


「声を出す必要を感じなかったので」


「でも、あなたたち全員が首を傾げていたじゃない!」


「不思議に思っただけです」


「……首を傾げた時は何を言ってるのと思ったから首を傾げたということ?」


「はい」


 グレンの馬鹿の言うことを真に受けた私が馬鹿みたいじゃない!


 私の顔が急激に熱くなった。少しして頭が冷え、ローナ達は個人個人で反応していたという事実に気づく。つまりは、すべてのローナは肉体を持った分身などではなく意志を持った個体なのだと。

 

 意思があるのにグレンに立ち向かったってこと……?


 末恐ろしくなった。自身の死など厭わず、クランマスターに命じられただけで命を投げ捨てられる心構えに。

 

 ここら一帯を更地にしてでも……!


「どうなってんの、これ?」


 一帯を焼失させる魔法を練り上げていたところで、オーレックスクランマスターのアーウィンと、

 

「双方、矛を収めるように」


 アイアンライオットクランマスターのグレアムが現れた。


「ねえ、この氷像何なの?貰っていい?」


「触らないで!」


 気色の悪いにやけ顔を晒すヘンタイマセガキに注意を促す。グレアムの姿は集会の時と同じ女装姿で、これからはそれが通常運転になるのだろうか。


 グレアムだけはまともだと思っていたのに……。


 私はため息を吐き、さっきまでの張りつめていたことが馬鹿らしくなる。


「お前ら、何しに来たんだ?」


「ゲイブリエルに頼まれたんだ。お前らを止めろって」


「二人ともヴィンドティティから依頼を受けたのだろう。先ほど、その依頼元が魔族の違法取引をしていたことが発覚してな。貴様らが追っていた魔族は囚われていた仲間の魔族を助け出そうとしていただけで害意はないとの話だ」


「なによそれ!あいつら、私に犯罪の片棒を担がせようとしていたということなの!?」


「そういうことでしょ。ばか乙」


「くうぅぅぅ!!」


 人を馬鹿にしたような不愉快な笑みを浮かべるマセガキに一言反論したいが返す言葉が思いつかなくて。


 むかつく!!!


「もう争う気がない、それでよろしいのでしょうか?」


「……そうなるわね」


 いつの間にか一人になり武器を収めていたローナへ頷いた。


 ヴィンドティティに問題があったのならばマコトに非がなかったことになるはず。でも、頼りないマコトに少女二人を任せてもいいのかしら……。


 氷像となった少女と黒髪の少女を交互に見ながら、カームアルカディアクランマスターのマコトを測らなければならないのではないかと思案した。


お読みいただきありがとうございます

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