第七十三話 危険すぎる少女たち1
カームアルカディアクランマスターのマコトが魔族の手を引いて逃げようとするので杖を構える。
「がら空きですよ」
「な!?」
声がした方に振り向くと、 青髪で妖精のような少女――グレタが逆手に持った短剣を私の首へ目掛けて振っていた。
「俺がいることを忘れないでくれよ」
ブレイズクルークランマスターのグレンが手にしている剣でグレタの短剣とかち合わせ、弾き飛ばす。
吹き飛ばされたグレタは宙を一回転し土煙を上げながら着地し、
「チッ!」
少女がしてはいけない忌々しそうな表情を浮かべて舌打ちをした。
危なかった……!グレンがいなかったら命を落としていたとしてもおかしくなかったわ。
それに私が後ろを取られるなんて……!
心臓が早鐘のように脈打っている。私はDランククランの冒険者に背後を取られたことが信じられなかった。
私は純粋な魔法職で近接戦は苦手だが、そこらの冒険者に寝首を掻かれるようじゃSランククランのクランマスターなんて務まらない。つまり、私に一切気配を悟らせず近づいた少女はAランククラスの素養が備わっているということだ。
一瞬、こんな年端も行かない少女がそれほどの腕前を隠し持っていたことに驚愕するが、オーレックスのマセガキクランマスターの例もあるわけだから実例がないわけではない。
目の前で起きた事実を受け入れたことで平静を取り戻した。確かにかなりの腕はあるようだが、それだけでは私達には届かない。
「あなたがDランククランに収まっているような器じゃないことは分かったけれど、Sランククランマスターを二人も相手するつもりなの?」
「はい」
生意気にもなんてことないような様子で頷いた。年齢に見合わない実力を持ち合わせていることで図に乗っているのだろう。
いくら魔族に手を貸しているからといって、まだ幼い少女を痛めつけるのは心苦しいわね……。
「目を覚ましなさい!貴方達はあの極悪非道な男にいいように使われているだけなのよ!仮にあなた達を足止めしたとしても、ここには私の結界が張られているわけだから……!?」
一瞬だけ魔法障壁が破られたのを感じ取る。もうすでに修復が行われここに入ってくる輩はいないだろうが、仮に私の魔法障壁を破ったのがマコトだとするならば……。
「極悪非道……ふふ。極悪非道な男とやらが連れていたのは何だったか覚えていますか?」
「まさか……!」
極悪非道と口にしておかしそうに笑い、真面目な表情に戻した少女の言葉で何故魔法障壁が破れたのかを察する。
「つまり、ユーニスの魔法がへなちょこすぎて破られたってことか!」
「違うわよ!マコトが連れていたのは私の障壁を破れるほどの魔族だったってことよ!」
相変わらずコイツはデリカシーがないわね!これでも、ほかのSランククランマスターと比べたらましなのが……。
「んー。ちょっとした運動のつもりだったけど……」
Sランククランのクランマスター達の人格面に大きな問題があることを思い出して、苦いお茶をオーレックスのクソガキに騙されて飲まされた時のような気分になっていたら、グレンは軽く伸びをし始め、
「お嬢ちゃんたち、退いてくれるかな?」
私に向けられているわけでもないのに、思わず顔を引きつってしまう殺気を少女たちに浴びせた。普段はただの馬鹿にしか見えないが、Sランククランマスターという肩書は伊達ではない。
グレタは顔に汗を浮かべているのだが、もう片方の人形めいた黒髪の少女は表情を変えずに一歩前へ出た。
「申し訳ございません。ご主人様の命により、あなた方の足止めをしなければなりませんので」
「へぇ。できるの」
「あなたのことを測れていないので分かりませんが、命じられたので」
人形めいた少女……確か名はローナだっただろうか、彼女は淡々と告げる。グレンは腰に差していた剣を抜き唇に歪んだ笑みを宿してローナへと突っ込んだ。
一人の少女の命が断たれる悲惨な未来を想像して目をつぶる。恐る恐る瞼を上げると、ローナが袖から垂れている鎖でグレンの剣を絡めとっていた。
「やるね」
ただ、あのグレンがその程度で白旗を上げるはずもなく、得意な風魔法を剣に纏わせて絡みついている鎖を引き裂いた。
グレタに続いてローナも一線級の実力を持っているの!?なんでカームアルカディアはDランククランなのよ!?そんな実力者が揃ったクランが魔族と関わっているのだとしたら……!
ある一つの不穏な考えが頭によぎり背筋に冷たい水滴が伝う。
考えに囚われていると、自身に張っておいた四層の防御魔法のうち三層が破られて身の毛がよだつ。防御魔法に衝撃が起きた場所へ振り向くと、すまし顔をした青髪の妖精がいた。
また一切気配がなかった!?
防御魔法を修復できていない中で攻撃を貰うのは死を意味するので、度肝を抜かれている暇を惜しんで距離を離すために衝撃波を放つ。
「ちょっと!?私を殺すつもりなの!?」
「はい。そうしないとあなたを留められそうにないので」
「だからって殺そうとするなんて、あなたの親はどんな教育を施したのよ!?」
「……話す義理はないですね」
手に掛けようとしているんだから聞く義理ぐらいはあると思うけど!
そんな言葉が頭に浮かぶが、グレタの凍り付いたような表情から口を噤んだ。
「それに一騎打ちはユーニス様が望んだことですよ」
そんなものは望んでいないと思ったすぐあと、目の前の少女との出会いが甦る。
白黒つけるために決闘を申し込んだら恥をかかされたこと、そういう経緯となった原因がグレタの敬愛するクランマスターを侮辱したということを。
「……根深い女は煙たがられるわよ」
「そんなことはありません。マスターはどんなことがあっても受け入れてくれますから」
マコトはそんな器が広いようには見えなかった、そのような感想は恍惚とした表情の少女の逆鱗に触れることは間違いないため首元まで出かかっていた言葉を喉元で留めた。
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