第六十八話 惚れる瞬間
時間が空いてすみません。短めです。
「バインド!マコトさん、動きを止めました!」
アイヴァンくんの声が耳に入り、角が生えたウサギ――ホーンラビットは何かに締め付けられているかのように動きが止まっていることを確認する。そして、ホーンラビットの首を使い慣れた剣ではね飛ばした。
「ありがとう、アイヴァンくん」
「いえ。ぼくにはこれぐらいしか出来ませんから」
自分の頭を撫でて頬を赤らめるアイヴァンくん。
俺の周りには我が強いというか癖が強いというか……そんなのばっかりだから、こういううぶな姿はすさんでいる心を和ませてくれる。
「ご主人様、アイヴァン様、お見事です」
俺たちの功績を賛辞するローナの両手には首のなくなったホーンラビットが二匹吊るされていた。
目立った損傷はないので首を綺麗に一振りで切り落としたのだろう。俺とアイヴァンくんが力を合わせて成し遂げた成果をことなしげもなく倍の成果を見せつけての発言なので、本来だったら皮肉と捉えてしまうところだがこの感情が読めない少女にそんな意図はなさそうだ。
「それ、ローナさんが一人で狩ったんですか?」
「はい」
「すごいです!」
「アイヴァン様もおひとりでこの程度ならおできになられるのでは?」
「そんなことないですよ。ぼくは足止めしたりするような魔法しかうまく扱えないですから」
アイヴァンくんは表情に影を落とす。
「いや、アイヴァンくんの助けもあってホーンラビットをつかまえられたわけだし……ぜんぜん、凄い良かったと思うよ」
「ありがとうございます」
アイヴァンくんにしては勢いのないお礼から、自分のコミュ力と語彙力のなさを痛感する。
さっきの励ましの言葉を思い返してみるが、仮に自分がそう言われたとしたら無理やりひねり出した言葉にしか聞こえないだろう。
自分のダメさにへこんでいたら、アイヴァンくんはホーンラビットに近づいて祈りをささげていた。まだ身元とかを聞けていないんだけど、どこかの宗教の敬虔深い信徒だったりするんだろうか?
「とりあえず、依頼も終わったし帰ろうか」
「はい!……あの、今日の料理もローナさんが手作りなんでしょうか」
人差し指同士をつんつんとさせながら上目遣いをするアイヴァンくん。幼いながらの整った顔立ちなのでプロマイドにしたら特定の層にバカ売れしそうだ。
実質的にお願いをされている形のローナは伺いを立てるようにこっちを見ていた。
別にローナに頼んでも問題なさそうだけど、今日は日が悪そうだなよな……。
この場に来ず、朝早くからキッチンに卵を並べていたグレタを思い返す。
「今日は難しいかもしれないな。……ローナ、あした頼んでもいいかな?」
「問題ございません」
ローナが了承したことで、しょんぼりとしていたアイヴァンくんに笑顔が戻った。
素直な子だなぁ……。
「ふぇっ?」
突然、アイヴァンくんはローナに押し倒されて舌足らずな声を上げる。
今までそんな素振りは一切見せていなかったし、依頼の場所で周りに人がいないとはいえ俺がいる中で反応しづらいことをするなよ、とか思っていたらアイヴァンくんが立っていたところに何かが通り過ぎ、なんか威圧感のようなもの前方から迫っているような気がして後ろに飛び退いた。
そしたら、ちょうど俺がいたところに黒ずくめの男が長剣を振り下ろしていた。
「なぁ!?なんなんだよ!あんたたち!」
俺の質問に答えることもなく凶器をもって近づいてきた黒ずくめの男を、ローナが綺麗な手刀を決めて寝かしていた。
一安心してローナにお礼をしようとしたら、岩陰から今さっき倒れた男と恰好をした奴らが飛び出した。
「複数犯かよ!」
いかにもな恰好をした男たちから襲われている理由に見当がつかない。でもそんなことを気にしている場合ではないことに気づいてどう切り抜けようかと必死に頭を巡らせていたら、ローナが一歩前へ出る。そして、金属の鎖を袖から垂らし、その鎖で黒ずくめの男たちがいる方面に薙ぎ払った。
すると、一斉に首が宙に飛び血の噴水が出来上がる。
恐る恐るローナの様子を確認するとホーンラビットを持って現れた時とまるっきり同じだった。予想できていた反応ではあるからちょっと怖いで済むけど、アイヴァンくんはショックを受けているんじゃないかと思っていたら、
「いや、そうはならんだろ」
頬を染めぽおっとローナの後姿を眺めていた。
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