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第六話 最初のターゲット


 あちぃ……。


 ギラギラと照り輝く太陽の光が当たる炎天下といえるような気候のなか、俺はだらっだらと汗を垂らしながら正拳突きをしていた。

 屋敷の中にいても暑くて仕方がないのに、太陽の光が直接当たるような外なんて出たくもないのだが理由があってここにいる。


「最初に比べれば良くなった」


 淡々とした声で話しかけてきたのは、白髪で犬耳少女であるイーデンだ。

 そして、俺がここで体を鍛えさせられている原因である少女の一人であるという注略しておく。

  

「お昼ごはんを持ってきました。これもどうぞ」


「……ありがとう」


 俺がこんなことをさせられることになった元凶であるグレタがバスケットをぶら下げて現れた。

 腕にぶら下げているバスケットを平らな石の上に置いて、バスケットの上にのせられていた羽毛のようにふかふかなタオルを手渡しする。

 食事を作ってくれて、タオル持ってきて気を利かせてくれたのだが、俺がこんな外でひいひい言っている中、まだましな屋敷にいたということを考えてしまい心の底から感謝する気持ちにはなれない。

 勿論、こういう状況に追い込んだ元凶というのも理由としては多分にあるが。


「美味しいそう。これ食べても良い?」


「いいですよ。ちゃんとマスターの分も残しておいてくださいね」


「うん」


 イーデンは本当に分かっているのか怪しいあいづちをして、バスケットに入っているサンドイッチを取り出しパカパカと食べ始めた。


「それでどうなんですか、マコト」


「……まあ、思ったより心は開いてくれているとは思うけど」


 俺が文句を言わず炎天下のなかでイーデンから指南を受けているのは、グレタに無理やり約束させられたクランメンバーと仲良くなるという目的の第一ターゲットだからだ。

 イーデンをターゲットとした理由は、一緒に体を鍛えると約束した相手だからというのと、クランメンバーの中では一番接しやすいとグレタが言ったからだ。俺も他のクランメンバーと比べればそんな感じがしたし。


「それに誰かと違って裏表がなさそうだし」


「そうですか。順調に進んでいるということならば何よりです」


 お前と違ってという意味を込めていたのだが、気づいてないのかそれとも気づいたうえなのかは分からないが流される。


 まだ子供のくせに嫌味を言っても効いている様子を見せないの、ほんと可愛げがないな。


「まあ、そういうことだから。……ずっと動いて腹も減ってたし、俺も飯にするわ」


 昼食を取ろうと思いバスケットがあった方を見ると、リスのように頬を膨らませているイーデンがいた。

 嫌な予感がしながら、バスケットを覗くと予想通りなにもない。そして、イーデンがおそらく最後であろうサンドイッチを持っていた。

 イーデンは俺の視線に気づいたのかはっとしたような表情をして、持っているサンドイッチと空のバスケットを見比べる。


「……いる?」


「ああ」


 口の中に入っているものを飲み込んだイーデンは、犬耳を伏せながらしゅんとした様子で手にしていたサンドイッチを俺に差し出した。

 俺は受け取ろうとすると、物欲しそうな目でサンドイッチを見てくるのでちょっとためらってしまう。

 しかし、かなり動いて腹が減っているというのと、分けるべき昼食をほぼ全部食べたくせにそんな図々しい視線を送ってくるような奴に遠慮する必要はないと判断して、イーデンの握っているサンドイッチを引っこ抜いた。

 サンドイッチを頬張るとイーデンがじっと俺のこと、いやサンドイッチを見てくるのだが気にしない。


「十個以上は作ってきたはずなのですが」


「……おいしくて」


「……気にしなくてもいいよ。これでも十分だし」


 成人男性である俺がサンドイッチ一つで足りるわけもないが、年下の少女をしゅんとさせていることにばつが悪くなり、十分だという嘘をつく。


 ……というかコイツ。俺が食べているサンドイッチのことをずっと見てたけど、一応悪いとは思っているんだな。

 そう思うなら、食いづらいからこっちを見ないで欲しいんだけど。


「イーデンさん、マスターの進捗状況はどうなんでしょうか?」


「最初のころに比べれば全然まし。五等級ぐらいにはなってる」


 イーデンが口にした五等級というのは、強さの指標みたいなものだ。

 一等級から六等級までランクが分かれていて、一等級が一番上なのだとか。四等級と呼ばれるぐらいの実力があれば一人前と言えるレベルだとグレタは言っていた。ちなみに、前マスターは四等級だったらしい。


 だから、前世よりも体も軽いし前だったら絶対できないような逆立ちなんかも余裕で出来たから、ちょっとした全能感に酔いながらイーデンからの指南を受けたんだけど……。

 まず模擬戦をやるということになって、ちょっと子供っぽいところはあるけど加減ぐらいはしてくれるだろうと期待していたら、いきなり姿が消えたと思ったら懐に潜ってきてボディーブローを食らわせてきたのだ。

 そのあとは声が出せなくなり、待ってくれ!とも言えなくて、意識が失うまでぼこぼこにされて……、正直あの時は本気で殺されるのかと思った。

 そのあとはグレタがやりすぎだとイーデンに注意してくれたらしく、基本的に体を鍛えるような走り込みとか柔軟体操とか主な修行内容となっている。

 この時はじめて、グレタに心から感謝したと思う。

 まあ、そんな要因を作ったのがその少女であることを思い出して、感謝なんてものはすぐにかき消えたが。


「ただ、実践がまったく足りてないのが問題。前々から臆病だなと思ってたけど……。このままだったら、実力に見合った依頼だったとしても即死」


「一つ訂正するべきところがあります。マスターは臆病なんかではなく、お優しいだけでということです」


「そう……?」


 イーデンはこてんと首を傾げる。


 こいつ、なんで火に油を注ぐんだよ……。性格的に純粋に思っていることを口にしただけなんだろうけど、それが逆に油を注ぎそうだし。


「いいですか、マスターは――」


「あのさ!」


 グレタが前マスターについて長々と話し始めそうな不穏さを感じて、喋りを遮った


「……なんですか」


「いや、何というか……。足りてない実践をどうやって補えばいいのかなということを聞きたくて」


 目を細めるグレタから初めて会った時ナイフを握っていたあの時のような恐怖が蘇るが、臆して何も言わない方が不味いと判断して質問する。


「そんな難しいことじゃない。実際に魔物を討伐したり、盗賊の相手をすればいい」


「いやまあ、そうなんだろうけど……。どこでそんな経験を積めば――」


「依頼を受ければいい」


 ……そりゃそうか。クランなんだから依頼があるはずだよな。

 ここ一週間、依頼をするような人を一度も見たことがないからここがクランだということを忘れてたわ。

 ……というか、こんな辺境っぽいところに依頼人なんて来るのか?


「クラン協会に行きましょうか」


 クラン協会?何それ?

 知っていないとおかしいものだったら、クラン協会がなんなのか聞いたらイーデンが不審に思われるだろう……いや、なんとなく大丈夫なような気もするけど、後でグレタに聞くのがよさそうか。


お読みいただきありがとうございます

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