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第二話 廃道を歩きながらの説明


 このままあの廃墟にいても仕方ないという話になり、雨が降りやんだタイミングで誰もいない壊れた家屋が立ち並んでいる場所を俺たちは歩いていた。

 住んでいた東京ではありえない廃道であるため、改めて別世界に来たことを実感する。嫌な実感の仕方ではあるが。


「いろいろと考え結果、マコトには守ってほしいことがあります」


 俺の前を歩いていた青髪の少女――グレタが足を止めて、こっちに振り向いた。


「守ってほしいこと?」


「はい。今から言うことを守ればマコトの身を守ることになりますし、マスターの体を守ることにも繋がることにもなります」


 マスターの体を守るためにもなる、か。

 グレタとしては俺のことなんてどうでもいいだろうけどマスターの体は重要なはずだから、しっかりと話を聞いた方が良さそうだ。


「約束してほしいことは、マスターらしく振舞って周りにばれないようにしてほしいということです」


「……いや、そう言われてもマスターさんのことを俺は知らないから真似しようがないですけど」


「大丈夫。そこは私がサポートしますから。拠点に着く前までにマスターがどれほど素晴らしい方なのかをみっちり教えてあげますから」


 言い方からしてグレタの主観が入った余計な情報が多めに長々とした話を聞く羽目になる予感がするけど、情報がないことには真似しようがないからなぁ……。

 異世界から来た人間と入れ替わったという話を周りに伝えるとなると、色々とややこしくなりそうだから、マスターの真似をするというのは賛成ではあるんだけど。

 ただその前に、


「グレタの口ぶりだと、拠点にいる人たちにもばれちゃいけないって聞こえますけど?」


「その通りですよ」


「え?でも、拠点にいるのは同じ仲間でしょうし、むしろばらした方がいろいろと都合がいいのでは?」


「普通はそういった方法も取れなくはないんですけれども……。まあ、私が言いたいことはのちに分かります」


 何その不穏な言い方……。


「そういうことなので、私含め私達クランメンバーにはため口で話してください」


「はい、わかり――分かった」


 グレタが、お前は話を聞いていたのか、という目で向けてきたので言い直す。


「というか、クランメンバーっていうことは、俺たちは何かしらクランに所属しているってことでいいのか?」


「そうです。……そもそもクランとはどういうものか分かりますか?」


「……クランっていう概念は向こうにもあるから分かるとは思うけど、ここではどういうものをクランっていうのかは分からないかも?」


「……つまりは分からないということでいいですか?」


「まあ、そうだね」


「はぁ……。なら見栄を張らずに、分からないと言ってください」


「……すみません」


 十歳ぐらい下の少女にため息をつかれながら説教されていることに、自分の人間力の低さを痛感してしまう。


「……まあいいです。クランとは、利害関係や血筋などといったもので繋がりがある人達が集まったものです」


「なるほど……。クランのメリットとしては、依頼が舞い込んできたり、その依頼を受けるのに適している人材を選べるというのがあったりするのかな?となると、クランごとに戦闘が得意とか、護衛が得意とか、武器を作るのが得意みたいな特色があったり?」


「その通りですけど……」


 グレタは俺のことを意外そうな目を向けてくる。

 

 ……反応から俺のことをどういう風に見ていたのかよく分かるな。

 まあ、この世界でのクランってものがどういうものか分からなかっただけで、ゲームとかアニメでクランっていうもの自体は知っていたから、頭の回転が速いってわけじゃないけど。

 

「他にもいろいろな要素はありますが、それだけ分かっているならとりあえずの認識としては大丈夫です」


「そうなんだ。……だったら、次はクランメンバーについて教えてくれない?」


「……ダメです」


「え?なんで?」


 否定されるとは思わなかったので、思わず聞きかえす。


「私から余計な情報を与えるよりも、直にあってみてどういう人間かを知った方がいいですから」


「……いやまあ、そういう面もあるかもしれないけど。教えてくれた方がこっちとしてはやりやすいと思うんだけど。まず初対面のクランメンバーと会ったとき不審に思わないようにしなきゃいけないわけだし」


「別に教えてなくても特に不審に思われないので大丈夫です。マコトが入れ替わったと言いだしさえしなければ」


「……それって、クランが出来たばっかりでお互いの面識が薄いからとか、関係が冷え切っていて基本的に干渉し合うことがないから別にばれないっていうようなこと?」


「はい。マコトが後半に言ったことが主な理由です」


 まじか……。

 碌に人間関係を築けたことがないのに、そんな冷えっ冷えの関係の中でクランマスターをやるとか、ハードル高すぎるというか無理だけど。

 ……バレなそうなのは唯一のプラスポイントではあるが。

 

「……だとしても、というかだからこそ、どういう人がメンバーなのか教えてくれないとやりにくいよ」


「……分かりました。ですが、他に説明することはいろいろとあるので時間が余ったら、話します」


 俺としては一番教えてほしいことなんだけど、と言いたくなりながらも、言っても変わらなそうなので、無駄に時間を浪費させないように黙って話を聞くことにした。


お読みいただきありがとうございます

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