第十一話 キー君
出てきた鍋は鶏ガラに長ネギとニンニク、ショウガを入れて煮込んだ自家製の出汁を使用しているらしく、さらに塩を入れて味を調整しているしっかりとした奴だったため、かなり美味しかった。正直、ここ最近使っている食事処なんかよりも。
そんな感じで鍋の味は良かったんだけど、イーデンが肉を八割ぐらい食べたせいで、キースさんがキレるというしょうもない問題が起きた。お前食いすぎだ、みたいな感じで。
そうやってキースさんが怒鳴っている間にもイーデンは無視して肉を食べ続けるので、喧嘩……、イーデンが相手をしないでキースさんが怒っているだけだったから喧嘩とは言えないのかもしれないけど、まあそんな争いがあったわけだ。
そのせいでその場の空気も重い……、セシリアさんはのほほんとしてたしイーデンも我関せずといった感じだけれども、キースさんの機嫌が悪くて居心地が悪いし、悪いのはこっちだから申し訳ない。
「じゃあ、そろそろいい頃合いなので、帰らせてもらいますね」
「分かりました。また来てください」
「はい。また日が合えば――」
「それこそ明日なんかもどうでしょうか?毎日来てもらってもいいですよ」
マジで言ってるのかこの人……。
さっきのイーデンとキースさんのやり取りを見ていたはずだよね?
そう思ってセシリアさんを見返すが、ニコニコしていた。キースさんはどうなのかなと思って見てみると、ものっすごい嫌そうな顔をしていた。
俺に見られていることに気づくと、断れと言わんばかりに圧を掛けてくる。
俺はその圧に負けて……、というかさすがに毎日食事を作ってもらうのは申し訳ないから断ろうと思ったら、
「じゃあ、毎日行かせてもらう」
先にイーデンが答えてしまう。
……こういうときだけ、返事しやがって。
「本当ですか!いつもこういう食事というわけにはいきませんが、楽しみにしていてください」
「ん、楽しみにしている」
口を挟もうと思うのだが、話が進んでしまいどうにも断りづらい。
ただ、明日だけならともかく毎日は流石になぁと思っていたら、
「俺はこいつらが毎日来るのは嫌だから。二食分も材料費がかかるし、手間も増えるし」
いや、ナイスだキースさん!
「そんなこと言わないの。それにお金の余裕はあるし、キー君が大変なら私が料理を作るよ?」
「な!?いや、料理は俺が作るから!姉さんは食べるだけでいいから!」
何この、必死に止めようとしている感じ……。
もしかして、セシリアさんって料理を任せたらヤバいタイプだったりするのか?
「わがまま言わないの。自分では作りたくないけど、姉さんにも任せたくない。じゃあ、どうしたいの!」
「いや、だから、こいつらを呼ばなきゃ――」
「キー君、やっぱり器が小さい」
キースさんがまともなことを言っているはずなのにセシリアさんによってわがままだということにされていたところに、イーデンがぽつり。
「お前がキー君って呼ぶな!」
「やっぱり器が小さい。その程度のことで怒鳴るなんて。さっきも美味しく食事を食べていた時に言いがかりをつけてきた」
「はあぁぁあ!?言いがかりじゃなくて、お前が実際に食いすぎなんだろ!ちょっとは遠慮しろよ!」
「遠慮して全部は食べなかった」
「当たり前だ!!ちびの癖にどこに入っていくんだよ……」
イーデンはむすっとして、
「女性にそういうことを言うのはデリカシーがない、キー君」
「そうよ、キー君。私はキー君をそんなことを言う子に育てた覚えはないわ」
アンタが育てたわけじゃないだろ。……いや、セシリアさんが育てなきゃいけないような環境だったのか?
……今はそんなことを考える時じゃないな。
というか、これはさすがにキースさんがかわいそうだから介入しよう。
「あの、そちらに作ってもらうのにお金まで受け持ってもらうのは申し訳ないので、材料費はこっちが持ちます。あと、私達の分を毎日作ってもらうのもキースさんの負担になってしまうとは思うので、一週間――いてぇ!?」
話している途中なのに腕をつねってきたイーデンの方を向く。
こいつ……、一週間ってのが気に入らないからって思いっきし腕の腹の部分をつねりやがったな……。
「次はえぐる」
えぐる……?
上手い飯が食えないってだけで……?しかも、週一では食べられるって言ってんのに?
想像以上の行動に出ようとしていることに驚愕しながら、えぐるというのがどういうことなのか想像して、熱くなってきた頭が急激に冷えていく。
俺は腕の腹の部分をイーデンに触られていることを意識させられながら、
「五日……三日に一回お邪魔させていただいてもいいですか?」
「はい、いいですよ」
返事をしなかったキースさんに全員の視線が向き、
「……分かったよ。作りゃいいんでしょ」
ふん、と顔を背けた。
かわいそうに……。俺もだけど。
タイトルを「えぐる」にしようと思ったのですが、「キー君」にしました。
お読みいただきありがとうございます




