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第一話 目覚めたら見知らぬ少女に抱き着かれていた

現在別の作品(コミュ障でやる気のない俺としては平穏がいいのに)を執筆しているのですが、新たにこの作品を思いついて投稿しました。

両作品とも投稿していくので、よろしければどっちも読んでいただけると嬉しいです。


「ますたぁ……、どうして……」


 少女の泣き声と外から聞こえてくるゴロゴロゴロという雷雨のせいで目が覚める。


 ……ここどこだ?

 老朽化している壁と雨で斑点模様になっている窓は見えるんだけど……。

 というか、俺って車に引かれたよな……?痛くないけど……、麻酔でも効いているのか?


 周りの状況を確認したくて体を動かそうとすると、青色の髪の何かに抱き着かれていることに気づく。


 なにこれ?……人か?さっき聞こえてきた声と同じながら女性だよな?

 俺には姉妹もいなければ、お見舞いに来てくれるような友人はいないはずなんだけどな……。考えていて、悲しくなってきた……。

 

「もうマスターがいないのなら……」


 しょうもない感傷をしていたところで、青髪の人が離れて、右手に握っている刃物で自分の胸を刺そうとする。


「ちょちょちょ、待って!?誰か知らないけど、とつぜん目の前で自殺しようとしないでよ!?」


「……マスター?」


 涙で目元を赤く張らした少女が刃物を持っていた腕を下ろし、こてんと頭を傾けてこっちを見てきた。


 かわいいな……。


 少しぼさぼさになってはいるが日本人では絶対にありえないストレートで綺麗な青髪と青い目。

 目元が真っ赤になるぐらい泣き腫らしていても分かるほどの整った顔立ちなせいで、少女が刃物を右手に持っている異常事態にも関わらず見とれてしまった。

 中学生から高校生の境目といった見た目なのでまだ可愛らしさが強いのだが、もうあと数年経てばだれもが振り向くような美女になることは容易に想像がつく。


「マスター!無事だった――、あなた誰ですか?」


 感極まったよろこびの声が一瞬で無機質なものへ変わる。

 右手に凶器を持っているということも相まって、俺の脳がこのままだと不味いと警鐘を鳴らしてきた。


 ……全くもって状況がつかめないけど、なんか不味そうだから目の前の少女がマスターと呼んでいることを踏まえて渋めな声を意識して喋ってみるか。


「いや、私がマスターだよ」


「……マスターは自分のことをマスターなんて呼ばない。マスターを語る不届きもの、死んでください!」


 外では雷雨が降り注いでいる中、親の仇でも見るような目をした少女が刃物を俺に振り下ろそうとする。


「ちょっ、ちょっと待って!!」


 なんて目をして刃物を振り下ろして来るんだ、この子!?雷雨のせいで無駄に雰囲気が出すぎだし!

 というか、マスターっていう人じゃないだけで人殺しをしてくるとか……。

 まあでも、刃物を振り下ろす腕を止めてくれたから、いちおう話は聞いてくれそうではあるか?

  

「何ですか。しょうもないことを言うつもりなら、あなたを殺して私も死にますよ」


「えーと、あの……。まず、君が誰なのか教えてほしいです」


 なにそのヤンデレっぽい発言!?俺と君、初対面だよね!?


 そう思わず言いたくなりながらも、事態は好転しないどころか向こうの機嫌が悪くなるのは分かりきっているので、この混沌とした状況を整理する入り口とするために目の前にいる少女が誰なのか尋ねた。


「私の名前を聞いてくるということはやはりマスターではないのですね」


「……はい」


 肯定する言葉を口にすると、また少女がマスター、マスターと泣き出してしまった。

 

 ……どうしようか。

 俺には思春期の女の子を泣き止ます言葉をかけられるような、語彙力もなければ人間力もないからな……

 いまいち状況がつかめないけど、涙が止まらないぐらい大事な人が死んじゃった中学生ぐらいの女の子に、泣いてないで今起きていることを説明してくれとは言えないし……。

 というか、俺のことをマスターと呼んでいたということは……。


 自分の体を見てみると、怠惰な生活をしていたせいでちょっと出ていたお腹が引き締まっていた。

 顔も変わっているのか気になり鏡の代わりになるようなものはないかと探したら、雨に打たれていた窓があったことを思い出し自分の顔を確認する。

 窓に目を凝らすと、黒髪で童顔の男がいた。

 自分が自分でなくなっていることはなんとなく予想ついていたし、女性に性転換したというわけではないことに安堵する。

 

 少女から情報を引き出すことが難しそうなので、とりあえず自分でどういう状況なのかを把握してみようと思い、辺りを見回した。

 パッとわかるのは廃墟のような場所で、首を吊るのに適していそうなロープが天井からぶら下がっていること。

 他は泣いている少女がいることしか情報になりそうなものが見当たらない。

 

「あなたは誰なんですか?」


 周りを見てもたいした情報も得られなさそうだと結論付けたところで、泣き止んだ少女から質問される。

 それも首元に刃物を突き付けて。


「そのぉですね……。自分は影山慎っていう名前で……、ニートです」


 俺は手をパーにしながら両手を上げ、刃物突きつけられていることにテンパってしまい、特に語ることもない人生なのだが何か言わなきゃというマインドから、パッと思いついたニートであると伝えてしまった。


「カゲヤママコト?意外と素直に名前を答えましたね……。それと、にーととは何ですか?」


「……力を貯める準備期間に入っている人、っていう意味かな」


「……?ますます分からないです」


「いや、分からないならそれでいいよ」


「なら言わないでくれますか。……まあいいです。次の質問はマスターの体を奪って何をするつもりなのか教えてください」

 

「は?」


 体を奪って?何を言っているんだ、この子?

 ……いや、この少女にとってはそういうことになるのか。

 というか、目の前の少女がそういう思考になるということから、体が入れ替わるということが起こりえる可能性があるということが重要なのか?


 中学生の少女がしちゃダメな目つきで見られるが、それ以上に大事なことに気がいく。

 さっきも似たような目を向けられたということもあって耐性ができていたというのもあるのかもしれないが。


「早く答えて」


 当たってる!当たってる!当たってる!


 少しずつどういう状況なのか理解し始めたところで、少女が俺の首にちょっとした切り傷ができるぐらいまで刃物を近づけられる。


「あの!全然、マスターっていう人の体を奪うつもりなんてないというか、奪ってなんかいないです!」


「嘘をつくのはやめてください!実際にあなたはマスターの体を奪っているじゃないですか!!」


「それは多分、あれなんですよ!その、異世界転生ってやつをしちゃったんだと思うんです!」


「イセカイテンセイ?」


「はい!マスターっていう人の体を奪っているのは自分が意図したことじゃなくて、たまたまこの体に宿っちゃったってことなんだと思います!だから、その刃物をどけてください!」


「また、訳の分からないことを!そうやって、理解できないことを言えば騙されると思わないでください!!」


 ダメだこれ!?話を聞きそうにないぞ、この子!?

 元々の性格もありそうだけど、気が動転していて自分の納得できることしか聞く気になれないとかそんな感じなんだろう!

 じゃあどうすれば……いや、落ち着け……。だったら、この少女が心を動かせれば……。


「もしかしたら、マスターさんも俺と同じようなことになっていて、生きているかもしれませんよ」


「……どういうことですか?」


 暗闇のように何も映っていなかった眼に一瞬光が灯った。


 かかった!

 そんな甘い言葉には騙されない、とか言われたらどうしようかと思っていたけど……。

 一安心ではあるがまだ油断は出来ない。むしろ、ここからが正念場と考えた方がいいか。


「まず、俺の説明から始めるんですけど。自分はたぶん異世界人です」


「異世界人……、つまりさっきは異世界転生と言っていたということですか?」


「そうです。なんでそう判断したのかっていうと、自分の住んでいる所には君のような青い髪色をした人がいないからです。探せばいるのかもしれないですけど、いたとしても俺と会話ができない別の国の人であるはずですから」


「……つまり、私のような髪色をした人と会話できていることがおかしい。だから、あなたにとってここが異世界だと」


「はい。実は自分、さっきまで死にそうな目に合っていたところでこの体になっていたので、もしかしたらマスターさんも同じような状況に陥っていると思うんですよ。それでもし、こっちにマスターさんが帰れることになったら戻ってくる器がないと困ると思いませんか?」


 芸人とか営業職みたいな口で生きていくようなことをしたことがないどころか、コミュニケーションを取るようなことがほとんどない人生だったけど……。

 お願いします!届いてください!


「……仮にその話が本当だったとして、あなたが死ぬことになったとしてもマスターと体を入れ替わってくれるのですか?」


「もちろん」


 そんなつもりは一切ないが、怪しまれないように間髪いれずに答えた。内心、生きた心地がしない。

 ただ、納得してくれたのか、無言で刃物を首元からどかしてくれる。


 よかった……。人生の中で一番頭を回したかもしれない。


「グレタ」


「え?」


「私の名前です。マスターが戻って来るまで、マスターのお体を守らないといけないですから。そうなると、お互いの名前が分からないと不便ですし」


「ああ、そういうこと……。ええっと、グレタさん」


 対人経験が少ないから年下にさん付けするのはどうなんだろうと思ったのだが、人に刃物を向けてくるような多感な少女だから、なめられていると感じてキレだすかもしれないし、俺がそもそもちゃん付けしたり呼び捨てするような性格でもないから。


「さんは着けなくていいです。マスターのお姿でそう呼ばれるのは違和感がありますので」


「あ、はい」


「あなたのことは何と呼べば?」


「えーと……、マコトって呼んでもらえれば」


 少女の名前がグレタと苗字らしきものがなさそうので、俺もそれに倣って名前だけがいいと判断した。

 年下の女の子に自分の名前を呼ばれることのくすぐったさはあるが、しょうがない。


「短い間になることを祈ってはいますが、これからよろしくお願いします、マコト」


「……よろしくお願いします」


 これから協力しなきゃいけないわけだし、もう少し取り繕ってもいいんじゃないでしょうか?


 俺はこの目が笑ってない少女と協力していくことを想像して、頬がひきつった。

お読みいただきありがとうございます。


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あと、マイナスなものでもいいので感想をくれると嬉しいです。

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