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P5 天災にはローリングストックが大事です

天災は忘れた頃にやってくる。または、ロマヌス帝国の災難。


フェリシア達は外交のために諸国を回っており、今はガルリア王国の首都に向かっていると話してくれた。

10人の護衛と2人の侍女が居たが、ドラゴン騒ぎではぐれてしまったらしい。はぐれた時は訪問先で合流するようになっているとのこと。

生きていれば、の話だ。

何とも物騒な世界に転移してしまったものだ。

「イワノナカニイル。」

ドレッドが変なことを言っているが無視無視。

当面の行き先は同じなので、護衛として同行することにした。

というか、アリシアの話では、お姫様の『お願い』を断ると最悪首が飛ぶそうだ。物理的に。

「ブロッケン伯爵。」

いちいち反応してくるな。人工無脳との会話を思い出すよ。

「くるみちゃん」

本当にどっからそんな言葉を持ってきているのか・・・。


「アイセン王国の第二王女ネッサン殿下でいらっしゃいますね。」

アレテイアの言葉に反応して、フェリシアが顔を上げた。

「私はガルリア王国魔術師団特務士官のアレテイア・インディシウム・コロールです。」

マーガレットの顔から警戒の色が消えた。

「コロール公爵家の方でしたか。これはまったく気付かず失礼致しました。」

マーガットが頭を下げるとフェリシアが話始めた。

「名前を偽り申し訳なく思います。ご存じと思いますが、ロマヌス帝国に追われる身ゆえ今後も偽名でお願いします。」

「承知致しました。こちらも帝国と事を荒立てたくはないので、私は何も知らなかったことにします。」

アレテイアさん、あなたは知らなかったとしても、私は聞いてしまいましたよ?今、ここで!

「ドレッドさん、ムラクモさん、ふたりとも今の話は忘れてください。」

ええ~!忘れろって?

「メモリーから削除します。」

そんなあっさり!?

「ドレッドのように記憶を削除できないよ。」

「聞かなかったことにしておかないと、拷問されるかもしれませんよ?」

アレテイアが脅してくるよ。

「分かりました。私はフェリシアさんが何者か分からないし、知りません。」

もっとも、この世界のことが全く分からないので、帝国だの王国だのと言われても本当に何も分からない。

アレテイアはフェリシアに向き直って深く礼をして言った。

「ご両親のこと、お悔やみ申し上げます。」

それを聞いたフェリシアは、顔を伏せると、ぽつりと漏らした。

「帝国は許せません。」

その顔をマーガレットが見つめる。

馬車の中に重苦しい空気が漂った。

「今のところ空気の質量に変化はないようです。」

ドレッドの声にみんな一斉にこちらを見た。

「確かに空気が重くなってたけど、そういう意味じゃないからね。」

一応フォローしてみたが、みんなの頭の上に?が見える。

アレテイアがフェリシアに向かって言った。

「護衛に付くのは良いのですが、旅の目的はガルリア王国への支援要請でしょうか?」

応えかけたフェリシアを遮ってマーガレットが答えた。

「姫の保護をお願いしたい。」

「マーガレット!」

フェリシアに亡命の意思はなかったようで、マーガレットに詰め寄った。

「私も共に戦います。あなただけを戦場に送るなんてできません。」

う~ん、話がどんどん重い方に向かっているなぁ。

「話に重量はありません。」

ドレッドさん、話は重かったり軽かったりするのですよ。


突然、馬車が止まった。

地響きと共に小刻みな揺れを感じる。

「ん?地震かな?」

しばらくして馬車が激しく揺れ始めすと、悲鳴を上げてアレテイアがしがみついてきた。

見るとフェリシアはマーガレットにしがみつき、マーガレットはフェリシアを大切そうに抱えている。

ソライロはムラクモの頭の上に飛び乗ってきた。

「痛い、爪を立てないでくれ。」

ムラクモは地震大国日本で生まれ育ち、大きめの地震も体験している。

「ドレッド、マニュアルコマンド、隊商の全方位に結界を展開。実行(EXE)

「実行します。」

ドレッドから光が球状に広がり、揺れも音もしなくなった。

外を覗くと、もうもうと上がる土煙の中、隊商だけが静止している。

直後、上空から木や岩などが降ってきたが、結界がそれらをはじいている。

「何が起きた?」

思わず独り言が漏れた。

「時空震・・・。」

アレテイアが上を見て小さく言った。


馬車から首を出して前の方を見ると、隊商のリーダーが指示を飛ばしている様子が見えた。

周りにいた人が駆け出し、伝令を伝えて回る。

「馬車の中に入ってください。状況が確認できるまでここで待機します。」

それを聞いて席に戻ると、アレテイアが話し始めた。

「これほどの規模の時空震は初めてです。」

じくうしん?地震じゃないの?

「一年前に大きな時空震があり、街が一つ消えましたが、今回は規模が違います。」

街が消える?それよりも大きい?

マーガレットが口を開いた。

「馬車の後ろから衝撃波が来たように見えた。」

フェリシアがそれに続く。

「まさか帝国?」

ええと、話が見えないんですけど。

「ちょっと待って、何の話をしているのか説明してもらえるかな?」

アレテイアがムラクモを見て言った。

「異世界から人や物を呼び寄せる術があるのです。」

なんと!もしかして、それ俺?でも、1年前ならちがうよな?

「この時、出現した物の位置に元あった体積分の空間が押しのけられて、衝撃波が周囲に伝わります。」

つまり、爆発が起こったようなものかな?

「この時、衝撃波は空間そのものが振動しているのであらゆるものが破壊されます。」

空気が押しのけられたわけでなく、空間が押しのけられた、と。

「ムラクモ殿が結界を張ってくれなければ私たちは馬車ごとバラバラになっていたと思います。」

「バラバラ殺人事件。」

「ドレッド、ちょっと黙ってて。」

周りを見ると見渡す限りの荒れ地と化している。

いまだにパラパラと落ちてくるものがあるが、原形をとどめているものはなかった。

道もなくなってしまい、次の目的地の方向さえ分からない状態だ。

「結界を張ってくれたのはあなた方か?」

声の方を向くと、そこにいたのは隊商のリーダーだった。

「こちらのドレッドさんが揺れに気づいてすぐに張ってくれました。」

ちょいとアレテイアさん、そこは『ムラクモさん』じゃないのかな?

「素早い対応に感謝する。こちらの魔術師では間に合わないところだった。」

隊商の護衛に魔術師いるんだ。どんな人だろう?やっぱりとんがり帽子?それともフード付きローブ?

「結界はまだ持ちそうか?余震がくるかもしれないから一晩維持してもらいたいのだが。」

「ドレッド、どう?朝まで持ちそう?」

「・・・。」

ん?

「ドレッドさん?どうしたの?」

「黙るよう指示されたので黙ってました。」

そんな、Z世代みたいなことを。

「しゃべって良いから答えて。」

「何日間でも大丈夫ですが。」

んん?『ですが』だって?

「何か問題があるのか?」

「酸欠で全滅します。」

おいおい!なんとなく息苦しかったのは気のせいじゃなかったのか。

「ドレッド、マニュアルコマンド、結界を無害な空気が通るよう変更。実行(EXE)

「実行しました。」

ふぅ。

「これで朝まで大丈夫です。」

「そ、そうか。ありがとう。」

隊商のリーダーは何か言いたげだったが、それだけ言って前の方へ戻っていった。

それにしても時空震に余震なんてあるのかな?どんな原理なんだろう?


急遽夜を明かすことになったが、食料は大丈夫なのだろうか?

そんな心配していると、アレテイアが深皿を差し出してきた。

「夜食です、どうぞ。」

何とも食欲をそそるスパイシーな香り・・・カレーじゃないか!?

「これはおいしそうだ。」

ひきつる笑みで器を受け取る。

かつ丼に続いてカレーライス、いったいどうなっているんだ。

「サラダと飲み物もどうぞ。」

サラダにかかっているのはカレー屋さんおなじみのオレンジ色の謎ドレッシング。

飲み物を少し口に含んでみる。

「マンゴーラッシー?」

何だろうこの安定の違和感。異世界なのに地元、みたいな。

まあ、慣れないものを食べさせられておなかを壊しても困るからありがたいんだけど。

「フェリシアさん、マーガレットさん、お二人も一緒にいかがですか?」

二人は一瞬目を合わせ、マーガレットが口を開いた。

「ありがとうございます。こちらは自分たちで用意した物があるので心配いりません。」

一瞬フェリシアが目を輝かせたが、がっかりした様子で後ろを向いてしまった。

「そうですか。ソライロ食べよ。」

デブ猫がタタッとフェリシアの膝の上に駆け上がり、早くも食べる体制に入っている。

猫にカレーはダメなはずだが、ソライロに嫌がる様子はみじんも感じれらえない。

この災害、王都ではどうなっているのだろう?道がなくなってしまったのものも心配だ。

「ロード・ランナー。」

またドレッドが変なこと言い始めた、とりあえず無視、と。

「ごちそうさま、アレテイアさん、美味しかったよ。」

「お粗末様です。」

アレテイアは空の器を受け取るとポイポイとストレージにしまっていく。

洗い物はどうするのかな?

「一年前は、何が召喚されたのですか?」

「召喚?ああ、ちょうどムラクモさんと会った場所に街が一つあったのです。私はその調査をしているのですよ。」

だからあそこに居たのか。

「見事に何もなくなっているので、呼び出されたものも吹き飛んでしまったと考えています。」

それは大変だったろうな。私がそうならなくて良かった。

「最近は時空震なかったの?」

「ありませんね。あれば、どこかで観測されるはずなので。」

では、私の時は時空震が発生しなかったのかな?

デブ猫はアレテイアの膝の上ですでに丸くなっている。そのまま寝るつもりのようだ。

「マスターも膝の上で寝たいのですか?」

何言ってるんだコイツ!

「そんなん無理だよ、猫じゃないんだから。」

「確かに猫なら膝の上で寝れますね。」

視線の先に笑顔のアレテイアがいるが、そっと視線を逸らすムラクモだった。


GOTO #6


風が帝国の異変を知らせる。

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