P3 バグ技でドラゴンを撃破・・・できたらいいな
王都へ向かうムラクモ達、三食昼寝付きの待遇で何事もなく・・・済むはずもなく。
道、といっても土が盛られて少し高くなっているだけだが、それ以外は荒涼とした場所を馬車は進んでいく。
道自体はよく整備されているようで、大きな凹凸がなく、タイヤがとられることもない。
しかし、それでも揺れるものは揺れる。
しばらくすると休憩のために馬車が止まった。
乗客達は馬車の近くに腰を下ろし、それぞれ持参した携帯食を食べ始めた。
ムラクモ達も馬車を降り、その近くに座った。
「ムラクモさん、はいお食事です。ドレッドさんは・・・食べますか?」
アレテイアに差し出された食事を見たムラクモは驚いた。
「なんか、思ってたんと違う~。」
こういう時は固いパンと干し肉、せいぜいドライフルーツがあるくらいで、飲み物も水だろう。
しかし、差し出されたのはどう見てもカツ丼とお茶だ。入れ物もどんぶりと湯のみじゃないか!
「カツ丼、嫌いでしたか?」
アレテイアが困った顔で伸ばしていた手を引っ込めた。
ムラクモが答えようとするのを遮ってドレッドが声を発した。
「私に食事は不要です、アレテイア。」
アレテイアがどう対応して良いか迷っているようだ。
ドレッドの空気の読めなさに心の中で悪態をつきつつ手を伸ばす。
「好きですよ、カツ丼。定番ですよね。」
丼と湯のみを受け取ると、ニコッと笑みを作った。
「無理していないと良いのですが・・・。」
無理はしていないが、カツ丼の存在の方が気になる。
「馬車の旅で丼が出てきたので驚いただけですよ。」
さすがに箸ではなくスプーンだったが、カツが一口サイズに切られていて食べやすくなっていた。
「美味い!」
思わず言葉が口をついて出てしまった。
この世界に鰹出汁があるのだろうか?出来立てサクサクのトンカツをツユに浸けて卵を乗せ、トロトロのタイミングで出したかのごとく美味しい!
「お口に合ったようで何よりです。私の手作りだったので・・・。」
ナント、手作り!いつの間に用意していたのだろう?
「ほんとうに美味しいですよ。お店で買ったものかと思いました。」
褒め言葉に照れたのか、アレテイアの頬に朱が差した。
「ありがとうございます。」
どこからかまた丼と湯のみを取り出すとソライロと分け合って食べ始めた。
猫はかつ丼食べて良いんだっけ?精霊だから良いのか?精霊ってかつ丼食べるんだっけ?
とりあえず疑問はそのままに食事を済ませた。
馬車は何事もなく進んでいた。
何事もなく、おかしいな、こういう時は魔物とか襲ってくるんじゃないのか?
「飛行物体が接近中です、マスター。」
噂をすればナントヤラ。
「何かわかるか?」
嫌な予感しかしない。
「先日のドラゴンです。」
ドレッドの感情のない声が恐怖を呼び起こす。
「ここに向かっているのか?」
違うと言って欲しい。
「こちらを目指しています。」
「何でだよ!」
天を仰いで呻いた。
「私を確保しようとしていると予想します。」
何だって?
「ドラゴンに嫌われているため、排除しようと追ってきていると考えられます。」
何をしたんだお前は!?
「その個体には何もしていません。」
それ以外には何かしたのか?
「ドラゴン種のま・・・」
「来たのです!」
アレテイアがドレッドの言葉を遮った。
炎が車列を襲い、直後に衝撃波がやってきた。
ソライロが魔法で車列を保護したが、馬車を引いていた馬の数匹がパニックを起こして暴走を始める。
暴走した馬車の一台が横転し、馬が転倒した。
ドラゴンの足が横倒しになった馬の頭を踏みつけ、胴体に食らいつく。さらにもう一つの足で馬車を踏みつけて馬の胴体を食いちぎった。
転倒した馬車に赤い雨が降りかかった。
中からアレテイアを先頭にソライロ、ムラクモの順に飛び出して駆け出した。
ドラゴンの意識が食欲に染まり、周囲に散らばった人間を手当たり次第に捕食する。
ソライロが先頭に立ち、アレテイアがドラゴンの様子を気にしつつムラクモの手を取って静かに進む。
「ドレッド、マニュアルコマンド。ドラゴンの生命力=0。実行。」
「ERR2」
「ドレッド、マニュアルコマンド。ドラゴンは死ぬ。実行。」
「ERR2」
「ドレッド、マニュアルコマンド。ドラゴンのマナ=0。実行。」
「ERR2」
「何だよ、使えない!」
「ムラクモさん走って!早く!早く!」
アレテイアが腕を引っ張る。
「ドラゴンすべては殺せません。」
ドレッドの言葉にハッとした。
「ドレッド、マニュアルコマンド。ここにいるドラゴンの生命力=0。実行。」
「実行します。」
やった!
ドラゴンが一瞬動きを止めたかと思うとヨタヨタし始めた。
「アレテイア、ちょっと待って!」
「待てません、逃げるのです!」
先を走っているソライロと少し離れてしまった。デブ猫は走るのに夢中で続く人間のことなど忘れているようだった。
ムラクモ達が離れるにつれて、ドラゴンが元気を取り戻し、辺りを探すように首を巡らせた。
一瞬こちらを睨んだ気がしたが、すぐに翼をバタバタとさせて飛び上がり、あっという間に去っていった
「助かったのか?」
「あのドラゴンの生命力は大きいため、0になる前に逃げられました。」
ドレッドの乾いた声が戦いの終わりを告げた。
今度は撃退できた。コマンドさえ間違えなければドラゴン・スレイヤーも夢じゃない。
「ドラゴンのステーキは美味しいそうです。」
二人と一匹は同時にドレッドを見た。
美味しいのか、それはぜひ食べてみたいが・・・人間食べてたよな・・・。
GOTO P4
ドラゴンを撃退したムラクモ。どんな原理なんだ?という疑問は置き去りにして、旅は続くのであった。