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P2 ステータス最適化で最強化・・・できません

町に警鐘が鳴り響く中、ムラクモ達は王都へと向かう。

 翌朝、宿屋を引き払い、通りに出た所でカンカンと鐘の音が聞こえてきた。

「大変!」

 アレテイアが慌てた声を上げた。

「何の音ですか?」

 警鐘から八百屋お七を連想し、火事かな?と思いつつ聞いてみた。

「スタンピードのような、町に危険が迫る時に鳴らされる鐘です。何が起きたのか確認しに、冒険者ギルドに行ってみましょう。」

 予想に反してゲームっぽい理由だった!やっぱりゴブリン・キングとかオーガー・ロードとか居るのだろうか?


 冒険者ギルドの前には既に多くの人が集まっていた。冒険者のみでなく、情報を得るために町の人達も来ているようだ。

 ギルドの建物から厳つい顔の男が出てきて言った。

「ドラゴンがこの町に迫っている!」

 ドラゴン!これまたファンタジーの定番!ぜひ見てみたい。

「このままここに居ては丸ごと焼かれてしまう。戦えるものは武器を取れ!戦えないものは森へ逃げろ!」

 オオー!

 集まった者たちの半分は雄叫びを上げ、残りの半分は散り散りに去って行った。

 ドラゴンはどこだろうと首を巡らせるムラクモの袖をアレテイアが引っ張った。

「ムラクモ、早く町を出ましょう。」

「へあっ?!」

 てっきりドラゴン戦に参加するものと思っていたので変な声を上げてしまった。

「ドラゴンに襲われたら町は終わりなのです。早く逃げましょう。」

 え?ドラゴン見れないの?

「アレテイアとソライロならドラゴン倒せるんじゃないの?」

 それを聞いたアレテイアは首を激しく左右に振った。

「無茶言わないで下さい。人間がドラゴンと戦えるわけがありませんよ!」

 ではさっきの冒険者達は?

「町の人達が無事に逃げられるよう、敵の矢面に立ち引き付ける役割をします、マスター。」

 急にドレッドが話し出した。

「ドレッド、何とかできないのか?」

「人間に天候が変えられないように、人間にドラゴンを制御する術はありません。」

 ドレッドの答えは無情だった。

「私もドレッドさんと同意見です。早く王都へ向かいましょう。」

 ここでドラゴンを倒すという選択肢はないようだ。

「ドレッド、マニュアルコマンド。ムラクモのステータスを全てMaxにする。実行(EXE)。」

「ERR2、ムラクモのステータスは存在しません。」

 ドレッドが機械的に言い放った。

「何でだよ!」

「ムラクモさん、何をやっているのですか、早く町を出ましょう!」

 アレテイアがムラクモの手を取り引っ張った。

「待ってください、私がチートでドラゴンを倒せるはずなんです!」


 一瞬周りが暗くなったかと思うと、急に強い風が吹き抜け、あらゆる物が飛び散らかった。

 続いて悲鳴と爆音が轟き、炎と煙が青空に昇っていく。

 石造りの家が弾ける音がして、屋根の上に蛇のような物が姿を見せた。

 先端から裂け目が生じ、中から焰があふれ出た。

 蠢く火炎に触れた物はことごとく燃え上がり、去った後には溶けた地面が溶岩のように光を放っている。

 不意に大きな頭が地面をなぎ、悲鳴が上がった。半分閉じた口からは、火ではない赤が滴り落ちる。

 その姿にムラクモは戦慄した。

 急に脚が言うことを聞かなくなり、しゃがみ込みそうになるところを、アレテイアに手を引かれ、よたよたとその場を離れた。

 そこからは意識がはっきりせず、気が付くと町から離れた所に居た。


 ぼんやりと町の方を眺め、誰に問うでもなく言った。

「あの町はどうなるのでしょうか?」

 アレテイアも町の方に目を向けた。

「大半の人は森に逃げ延びたと思います。でも、町はもう・・・。」

 これがファンタジーのドラゴンか、甘く見ていた。

 これがドラゴン、確かに人間にどうこうできる存在ではない。

 ドラゴン。正に天災ではないか。火山の噴火や津波と同じ、逃げるしかない。

 悔しい。

 チートアイテムのドレッドで何でもできると思っていた。ドレッドを使えば強くなることも、魔法を使うことも、それこそ何でも可能だと。

 ドレッドのせいではない、上手く使えなかった自分のせいなのだ。

「そろそろ行きましょう。」

 アレテイアは心配してくれているのだろう。ムラクモの手を取って歩き始めた。


 王都へ行くには、近くの町から馬車に乗り、領主都市で乗り継ぐ必要がある。この辺りでは定期便が3~5日に1便、領主都市から王都へは1日に1便出ている。

 居住域を取り囲む壁の外側は魔物が跋扈する世界であり、街道の往来に護衛は必須だ。

 徒歩で街道を旅する者はほとんど居らず、街道を移動するには隊商を組んだり、隊商に同行することになる。

 定期便の馬車も隊商と同行し、いくつかの馬車を騎馬の護衛が取り囲む形で街道を進む。

 それにしても馬車の乗り心地の悪さと言ったらひどいものだ。カタガタと揺れるたび、板でお尻をひっぱたかれるような衝撃を受ける。 

 ふと見ると、アレテイアはクッションの上にいるかのように涼しげな顔をしている。

「この馬車揺れがひどいな。アレテイアはどうしてそんなに平気そうなの?」

 アレテイアは小首をかしげた。

「レビテートを使わないのですか?」

 おっと、逆に質問をされてしまった。レビテートというと浮遊だな、

「ドレッド、マニュアルコマンド、ムラクモを馬車の座面から少し浮かせる。実行(EXE)

「実行します。」

 少しだけ浮き上がり、振動を感じなくなった。もっとも、まったく振動がなくなるわけではなく、少し硬めのクッションを敷いた感じがする。

 それでも板よりもかなり良い。

 教えてもらって良かった。このまま振動する板の上に居たら夜にはお尻が腫れ上がっていたことだろう。

 マニュアルコマンドは実際のAC-100と異なり、ワンライナーができるようだ。つまり、コマンドの直接実行ができるということだ。

 複数のコマンドを続けて実行させるにはプログラムを入力するしかないのだろう。まだやってみていないが、恐らくセーブ(SAVE)ロード(LOAD)も可能だろう。

 次にドラゴンのような敵が来た時のために強力なプログラムを作っておいた方が良さそうだ。

 「ロード(LOAD)ラン(RUN)ナーはご自身で作ってください。マスター。」

 いやいや、お前は昭和のゲーマーか?


GOTO #3


無ければ作る。それがムラクモの人生の基本方針だった。

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