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P1 昔社畜で今はヒモ

ムラクモはアレテイアを仲間にした。いわゆるヒモである。


 倒れたアレテイアはデブ猫のソライロが魔法で運んでくれた。さすが精霊、魔法が使えるらしい。

 デブ猫について行くと町に着き、門から中に入ることができた。

 デブ猫は何食わぬ顔で町中を歩き、宿屋に入って行った。

 慌ててその後をついて行くと、びっくりしている宿屋の女将さんに出くわした。

「アレテイアちゃん、どうしたの!?」

 すでにちゃん付けで呼ばれる仲らしい。

「ヴォーパルバニーに出くわしました。今は治療して眠っているだけです。」

 しゃべれないデブ猫の代わりにムラクモが答えた。

「あんたは?」

 女将さんはジロジロと訝しげな目を向けてきた。

「森でアレテイアさんと出くわして、話しているところを魔物に襲撃されました。彼女が倒れてしまったので、この猫がここまで連れてきてくれたのです。」

 女将は少し思案した後、部屋の鍵を取り出した。

「まあ、悪人ではなさそうだし。早く部屋に運んであげな。」

 運んでいるのはデブ猫なのだが。

 ムラクモは鍵を受け取ると、歩き始めたデブ猫の後を追って階段を上がった。


 部屋の中はベッドと机、それに椅子があるだけでガランとしていた。

 ベッドの上にアレテイアを下ろしたデブ猫は、顔の横に陣取り、頬を一舐めしてから丸くなった。

 その様子を見て、ムラクモはそっと部屋を出た。

 階段の下で女将さんの心配そうな顔が見上げている。

「よく眠っています。時々様子を見てもらえますか?」

 アレテイアが目を覚ました時に人がいた方が良いだろう。 

「もちろんだよ。あんたはどこへ行くんだい?」

「少し用事を済ませてきます。済んだらまた顔を出すのでその時に部屋と食事をお願いします。」

「そうかい、分かったよ行っておいで。アレテイアちゃんの事は見とくから。」

 ムラクモは頭を下げて外に出た。


 あたりを見回して人がいないことを確認すると、ドレッドに声をけけた。

「なあドレッド、町に入ったらまず何をすれば良い?」

「お金が必要だと思います。」

 おっと、聞きたい答えではないものの、確かに重要なことだ。

「お金持ってたりしないよね。」

「ヴォーパルバニーが冒険者ギルドでお金に変わります。」

 ほうほう冒険者ギルドとは、何ともRPGっぽい単語じゃないか。

「場所は分かる?」

「マスターが知っています。」

 何か変な答えだなぁ。

「ドレッド、PROモード(MODE1)プログラムエリア0(SHIFT0)クリア(CLEAR)、10 冒険者組合の建物を検索、20 IF 検索結果=見つからない; END、30 目的地=検索結果、40 目的地までの安全なルート検索。RANモード(MODE0)P0実行。(SHIFT0)

「実行します。」

 ドレッドがそう言うと、目的地までのルートが頭に浮かんだ。

「よし、では行ってみようか。」

 歩いていくと、大きな建物の前にたどり着いた。

「意外に大きい!ここが冒険者ギルドか。」

 やたらと大きな扉を開けて天井の高いホールのような場所に入った。

 正面には窓口が5つ並んでおり、右側2つだけ開いていた。ホールに人は居るが、窓口に並んでいる人は居ない。

 とりあえず右端の窓口に向かい、中に向かって声をかけた。

「すみません。」

「はい、どうしましたか?」

 中から女性の声が聞こえた。不意に学生時代に映画館でチケットを買った時のことを思い出した。あの時は学生証を忘れてて・・・。

「ギルド証をお見せください。」

 だから学生証は忘れたって・・・じゃない!

「あ、初めてでギルド証は持ってないのですが。」

「それでは作成するので、こちらにご記入ください。」

 紙とペンが窓口から差し出された。

 へぇ~、中世風なのに紙が気軽に使えるんだ。

「文字が書けなければこちらで代筆しますよ。」

 衝立が邪魔で顔が見えないが、おそらく笑顔で対応してくれている。

 紙を見ると、文字が問題なく読めたので、名前を書いたが、そこで筆が止まってしまった。

「この『住所』には何を書けば良いですか?」

 住所不定・無職だ、今の私は。

「記入しなくても大丈夫ですよ。この町にお住まいなら書いて頂いています。」

 良かった。住所不定でも良いらしい。

 後見人なし、貴族でもない。

 最後にアピールポイントを書くようになっている。

 剣が使えるとか、猟師で弓が得意とか書くんだろうな。

 自分はというと・・・何もない。フルスタックエンジニアですなんて、ここではイミフですよね。

 ポケコン使えます!使えてないよな。むしろドレッドに良いように使われてるんじゃなかろうか?

 ペンが止まっているのを見て、受付嬢が助け舟を出してくれた。

「最初はアピールポイントがなくても大丈夫です。依頼をこなすうちに評価がつきますから、今は何もなくても大丈夫です。」

 うーん、アピールポイントがない=取り柄がない、ではないだろうか?ちょっとへこむなぁ。

「書けましたらお預かりします。少しお待ちください。」

 そう言うと、受付嬢は席を外した。


 ホールの中には机と椅子が並んでおり、酒を呑んでいる人がちらほら見える。まだ昼前でさすがに食事をしている人はいないようだ。

 しばらく経ってから受付嬢が戻ってきて、窓口に金属製のプレートを置いた。

「ムラクモ様、こちらがギルド証です。なくさないように鎖が付いているので、必ず首からさげておいてください。」

 金属は鉄だろうか?錆びないように手入れが必要そうだな。

「最初はFランクからです。ギルドへの貢献度に応じてランクアップします。1年間貢献なしと見なされたり、ギルドへの敵対行動を取るような事があるとランクが下がるので覚えておいてください。」

 ランクダウンがあるのか、まあ、当然か。荒くれ者を制御するにはアメとムチが必要なのだろう。

「私に受けられる依頼はありますか?」

 無一文では困るので何かしないと食事ができない。

「常設の依頼として、町周辺の魔物駆除はいかがでしょうか?ホーンラビットなら初心者でも狩りやすいですよ。」

 ご一緒にポテトはいかがでしょうか?のノリで魔物駆除と言われても・・・まあ、できるかな?

 そこまで考えて、はたと気付いた。

「ここに来る間に倒した魔物があるのですが、素材として買い取ってもらえますか?」

 そういえば、ヴォーパルバニーを持ってた。

「常設依頼なので、先に狩っていても大丈夫ですよ。」

 スマイル0円。なぜか受付嬢の姿がファーストフードの制服姿に見えた気がした。

「ここに出して良いですか?」

「買取窓口は左端なので、そちらでお願いします。」

 そう言うと、奥に向かって担当者を呼んでくれた。

 左の方へ行くと確かにそこだけ何もないカウンターが広がっている。

 そこへ奥の方からスリムな男がやってきた。

「獲物をカウンターに出しな。」

 ぶっきらぼうな物言いに反して、小綺麗な格好をしている。

「GET」

 ヴォーパルバニーを念頭に置いてコマンドを実行すると、期待した通りカウンターの上にウサギが現れた。

 男はウサギを見て一瞬驚いたような仕草を見せて言った。

「ホーンラビットが出てくると思っていたが、これはヴォーパルバニーじゃないか!」

 おや?アレテイアが噛まれて大変なことになったとはいえ、簡単に殺せてしまったので驚くほどのものではないと思っていたのに。

「騎士団でも大きな被害なしでは済まない奴だぞ。」

 知ってて当然だろと言わんばかりの口ぶりだ。

 なるほど、幻獣うさちゃんを倒すにはホーリー・ハンド・グレネードが必要なんだな。

「運がよかったんですよ。」

 あまりしゃべるとぼろが出そうなのでなんとなくぼかしておいた。

「こいつは外傷がないし、首の骨が折れてる。本当に運がよかったんだな、すごいスピードで突っ込んでくるから硬いところに突っ込んで自滅したというところか。」

 おお、うまいこと解釈してくれた。

「そうです。そうです。」

 ここは乗っておこう。

「全部買取で良いのか?」

 いや、むしろ買い取ってもらえないと困るのだが。

「ええ、お願いします。」

 男はニカっと笑うとコインを3枚カウンターに置いた。

 ムラクモは相場がわからないので取り合えずコインを受け取り、お礼を言って冒険者ギルドを後にした。


「ドレッド。」

「何でしょうマスター。」

 そういえばギルドの中では何も話さないし、周りもドレッドのことを気にしていなかったな。

「コインを3枚もらったが、これは相場か?」

「ヴォーパルバニーの牙は1G(ゴールド)、皮は傷がなければ1G、残りの1Gは骨やその他の分とおまけだと推定できます。」

 ん?おまけ?

「おまけって何だ?」

「本来の品物に対して付加される物やサービスです。」

 意味を聞いたわけじゃないんだけどな。

「骨やほかの分とおまけ、とさっき言っただろ。そのおまけは何のことだ?」

「本来ならば1Gもしないのですが、恐らく外傷がないため少し多めにお金をサービスしてもらえたようです。」

 なるほど、獲物の状態次第で金額が変わるのか。

「1Gの価値はどれくらい?」

「さあ?分かりません。」

 え?そんな回答あり?

 釈然としないがとりあえずアレテイアが気になるので宿屋へ向かった。


 宿屋の入口の扉を開けると、そこには誰も居なかった。

「すみません。」

 声をかけるが返事がない。

 とりあえずアレテイアの居る部屋へ向かう。

 扉を開けようとしたが開かない、鍵がかかっているようだ。そりゃそうか、開けっぱなしじゃ物騒だものな。

 扉をノックをしたところ、中から返事があった。

「先ほどお話ししていたムラクモです。お加減はいかがですか?」

 鍵を開ける音がして扉が開くと、アレテイアが顔を出した。

「先ほどはどうも、話はソライロからうかがっています。中へ入って下さい。」

 言われるまま中に入るとソライロがベッドの上からこちらを眺めていた。

「実はあなた達を探しに行こうとしていたのです。そちらから来てくれて良かったぁ!」

 思いもよらぬ歓迎だ。ちょっと怪しく思ってしまうぞ。

「まずはお礼を言わせてください。命を助けて頂きありがとうございます。」

 アレテイアが頭を下げた。

「それでですね、あなた達はとてもユニークなのです。研究したいので私とともに王都まで来ていただけませんか?というか、来てください!!」

 アレテイアは腕をつかみ、話さないとばかりにしがみついた。

 う~ん、どうせ何をすればよいのか分からないし、ここで会うたのも何かの縁、遊んで行ってくんなまし、ではなく、ついて行くのも悪くはないか。

「ついて来てくれれば路銀はすべて出しますし、食費も私が持ちます!」

 黙っているのを逡巡していると思ったのか、アレテイアが好条件を持ち出した。

「はいよろこんで!」

 条件反射的に言ってしまったが、全部持ち、ただついて行くだけなんて、働かなくてもいいの?

「いわゆるヒモですね。」

 ドレッドがツッコミを入れてきたが、アレテイアには意味が通じていないようだった。


GOTO #2

かくして、ムラクモはアレテイアに連れられ、王都へと向かうことになった。2人と1匹と1台の旅がこれから始まる。


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