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P0 目覚めたらポケコンしかなかった件

異世界転移したムラクモは、ポケコンと少女とデブ猫に出会う。

 私は樫乃木鈴鳴(かしのきすずなり)60歳。本日をもって定年退職し、これから好きなことをして暮らそうと思っている。

 などと自分で自分に自己紹介してしまうほどパニクっている。

 ここはどこだ?


 辺りには木々が生い茂り、枝葉の間から覗く空は青空。そこを一羽の鳥が悠々と飛んで行く。

「カラスとは違うな?首が長いからサギの類か?」

 下草のガサガサという音が聞こえた。何気に目を向けると、一羽の白いウサギが居た。

「お!ウサギ、可愛いな。」

と思った次の瞬間、ウサギが牙を剥いて飛びついてきた。

 とっさに両手で顔をかばったが、ウサギは首筋に牙を突き立ててきた。

 ガキーン!

 およそ生き物が立てると思えない音が耳元で聞こえ、ウサギがポトリと足元に転がった。

 目を回しているようだ。

「ヴォーパルバニー!?」


「よくご存知で。」

 近くで声が聞こえた。

「誰ですか?どこに居ます?」

 周りを見回しても誰も居ない。声はすれども姿は見えず、ほんにお前は・・・。

「あなたの手の中に居ます。」

 その時になって初めて手に硬い物を握りしめていることに気付いた。

「ポケコン?」

 高校時代に使っていたポケットコンピューターのAC-100が手の中にあった。

「私の名前は、オールパーパス・カリキュレーター、 エーシー・ワンハンドレッド。親しみを込めてドレッドと呼んでください。」

 どっかで読んだような自己紹介だなと思いつつ、思わず天を仰いだ。


 異世界に転生してはみたものの

   手にはポケコン何ができよう


 思わず短歌が浮かんできた。短歌なんて社会に出てから一度も詠んだことなどないというのに。

 あれ?転生?転移?神様教えて。

「このウサギ、お前が倒したのか?」

「マスターの生命の危機を検知したのでプロテクトを実行しました。」

 プロテクトって実行するものか?なんとなく日本語がおかしいような気もするが、とりあえずスルーしよう。スルー力は社会人の重要なスキルだ。

「何が起きた?」

「攻性防壁を展開し、侵入者に対して攻撃を行いました。」

 ん?

「ウソだね。」

「バレましたか?」

 ウソをつくコンピューターなんて・・・AIが平気でウソをつくのは当たり前の事か。

「プロテクトの魔法でマスターの周囲に障壁をはりました。参考までにどこが間違えていましたか?」

「攻性防壁は世界観が違うからな。」

「訂正ありがとうございます。」

 AIなんだか生物なんだか分からなくなってきたな。

「このウサギ、何かの役に立つ?」

「街の冒険者組合で買い取ってもらえますよ。」

「冒険者組合、まさかと思うけど、ここってファンタジーRPGの世界?」

 いつの間にかバーチャルに入り込んだのか?

「答えはノーです。あなたは追い出し会の後、帰宅途中に暴走トラックと出会い、はねられそうになっていた子猫を助けようとして交通事故で死にました。」

「追い出し会言うな!」

いちいち日本語がおかしいが、つまり異世界転生テンプレでイマココというわけか。

「ステータス・オープン!」

 何も出てこない。

「何恥ずかしい事してるのですか?マスター。」

 けなされた気がするが、ここもスルー。

「ステータス見れないの?異世界転生の定番でしょ?」

「人生においてステータスが見れた事があるでしょうか。」

 反語かな?まさかAIに人生を語られるとは思わなかった。

「では私は何ができるの?」

「人間はこうと決めれば何でもできるものです。」

 根性論頂きました。

 このままではらちが明かないのでとりあえず街を目指そう。

「ここから一番近い街を教えて。」

「一番近い街は、ウツロノマチです。」

「え!?本当!」

「そう言うとマスターが喜ぶと思って言いました。」

 このAIどうなってるの?またウソつかれたよ。


「こんにちは。」

 不意に女性の声が聞こえた。そちらを向くと、今度は少女が現れた。

 革製のブーツを履き、飾り気のないワンピースにズボン、そして、フード付きのマントを付けている。どうやらこのような地形を歩き慣れているようだ。

「あれれ?話し声は2つだったと思うのですが?」

 フードを外すと、シアンの髪と藍色の瞳を持った少し幼さを感じさせる顔があらわれた。

「こんにちは、話していたのは私とコイツです。」

 言葉遣いのおかしいAIなんてコイツで充分。

「はじめまして。私の名前は、オールパーパス・カリキュレーター、エーシー・ワンハンドレッド。親しみを込めてドレッドと呼んでください。」

 このくだり、毎回やるのだろうか。

「はじめまして、私は魔法研究者のアレテイアです。そしてこちらは精霊のアマイロです。」

 アレテイアの後ろから空色のデブ猫が現れた。瞳はサファイア、いかにも少女と一対の存在と感じさせる。

「精霊様のお導き、か。」

 死因となった子猫が頭をよぎった。

「ニャ〜」

 可愛いは正義!

「私はケンキ・ムラクモ。ムラクモが名前です。迷子になってしまったのですが、街への行き方を教えていただけませんか?」

 思わずハンドルネームが口をついて出てしまった。中学生の頃から長く使っている名前だし、真名を隠すのはセオリーだしな。

「それなら・・・。」

「お話中お邪魔して申し訳ないのですが。」

 アレテイアのとの会話をドレッドが遮った。本当にお邪魔だな。

「先ほどのバニーが目を覚ましました。」

 ん!?死んでたんじゃないのか!

 ふらふらと立ち上がったウサギが、アレテイアを目がけてジャンプした。

 あっ!

 声を上げる間もなく、少女の首筋が赤く染まり、押さえた手の隙間から血が滴り落ちる。

「ドレッド!なんとかしろ!」

「ERR2、正しいコマンドを入力して下さい。」

 デブ猫のアマイロがウサギに飛びかかり、喉笛に噛み付いて息の根を止めた。

 これでウサギを気にする必要はなくなった。早くアレテイアの止血をしないと失血死してしまう。

 ポケコンならプログラムが必要なのか?!

「ドレッド!PROモード(MODE1)プログラムエリア0(SHIFT0)クリア(CLEAR)、10 アレテイアの傷口の止血、20 消毒、30 傷を修復。RANモード(MODE0)P0実行(SHIFT0)。傷跡を残すなよ!」

「実行します。」

 見ている間に血が止まり、傷が癒え、呼吸も穏やかになった。

「ニャ〜」

 頬を舐められたアレテイアは、目を開いてソライロを見ると、そっとその頭をなでた。

 ソライロはゴロゴロと喉を鳴らしてアレテイアに身体を擦り付けている。ちょっと羨ましいぞ。私にももふもふさせて欲しい。

 それにしても、とっさに命令してみたが、ドレッドはやればできる子なんだなぁ。

「アレテイアをもふもふしたいのですか?マスター。」

「違うわ!フェイクニュース飛ばすな!」

 評価を上げた途端にボケをかますとは、このボケコンが!

 鬱蒼とした森の中、少女は不思議な少年とマジックアイテムと思しき器物をぼんやり眺め、やがて暗闇に落ちていった。


GOTO #1

これからムラクモの冒険が始まる・・・よね?

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