プロローグ『朝起きてそれはない』
いつも通りの朝。いつも通りの時間に学校へ行き、授業を受ける。そんなつまらないルーティンの中、一度も考えたことのなかった朝。俺のルーティンは、起床した瞬間終わった。
この世界のどこに存在しているかすら怪しいその場所に俺はいる。
「マジで理解が追いつかねーわ・・・。」
ごく平凡な中学校生活を送っていたつもりの僕には、理解し難い光景が目の前に広がっていた。
赤い教室。上には無数の提灯、下を見れば足場を探すのに苦労するほど膨大な数の彼岸花。教室だと思えたのが不思議なくらいだが、一応教室の原型は保っているだろう。そして正面には知らない人。
「そろそろ、ここから出て行ってほしいんだけど。」
人形かと見間違えるほどに容姿の整った少年。黒髪にエメラルドのような翠の目。なんとも古くさい袴姿で、この空間に映える。年齢は少し下くらいだろうか。幼い見た目の割に、やけに大人びた表情をしていた。今は俺に早く出ていけと文句をたれるので、年相応の膨れっ面だが。
この少年が不機嫌になるのも無理はないだろう。この不思議な場所のこと、自分は何故ここにいるのか、今後どうしたら良いのか。既にこの少年は伝え尽くし、俺の反応を待つだけのはずだった。が、かなり長い時間待たせているからだ。
それでも俺の言い分は変わらない。きっと大抵の人が同じ状況でも自分のようになるだろう。だってー
「いや、ほんっとに理解できない!!朝起きたと思ったらここで、急に自分の死亡宣告受け止められるやついるかよ!?」
「は、誰も受け止めろなんて言ってないし。事実なんだよ。あぁ、まあお前みたいなチャラい金髪野郎には、自分の状況把握も難しいのかな。」
人間が未知のものとして恐れる『死』を初めて体験したというのに、鼻で笑った。なんとも辛辣なショタ野郎だ。それだけにとどまらず、俺の外見にまで難癖をつけてきた。だが、やはり少年の言う通り、こんな調子で駄々をこね続けていては何も変わらない。まずは現状の再確認から、と口を開いた。
「俺は死んでここにいる。もう、もといた場所には戻ることはできないんだよな?」
少年の、やっと現実を受け止めたか。と言わんばかりのため息を無言の肯定だと受け取り、話を続けようとする。そう。問題はここからだ。
「そんで今から、もといた世界とは違う、、、異世界?へ転生すると。これだけ聞いたら、あぁ、俺も夢の異世界転生だ!ってなるけど。」
少し深呼吸をして一番の不満点を口にする。
「急なんだよ!現世未練残しまくり、死因不明、なんの説明もなく!どんな場所かもわからない異世界に行けなんて!もっと情報くれよ!」
少年の説明は雑だった。お前は死んだ。だから異世界転生する。たったそれだけだった。思っていた異世界転生の手続きとは程遠い。だから
少年は何も答えてはくれなかった。ただ、俺の方を指差し、一言。
「行けば分かる、全部な。」
と無表情で言ったのを最後に、姿を消した。すると、驚く暇もなく部屋全体が光に包まれた。なんだよ、それ。悪態をつく気も起きない。本能的にこの場所から強制退場させられたんだな、と悟ったのを最後に、意識は途絶えていった。