胡散臭げな男商人
「いや実は情けない話で、俺旅商人なんだけどね?この辺にある街に行こうとしたんだけど、道を間違えちゃってね。日暮れまでにこの村についたはいいんだけど泊まる場所に難儀しててねぇ。」
「いやぁ〜困った困った」たははと男は笑う。掴み所が無さすぎてホントに困ってるのかこいつ?
そうは言ってもヒイロが物言いたげにこちらを見ている。助けてあげたいのだろうが、さっきのナンパみたいな絡み方されてちょっとビビっている。
まあ僕としてもヒイロにこの得体の知れない男商人を任せるわけにもいかない。であれば。
「家の納屋を一晩貸してあげよう。」
「ホントですか!?」言い寄ってくる男を「只し!」と制する。
「宿泊費として何か商品をいただこう。」
「なるほど。」
男はすんなり納得すると荷台を漁り始める。
「いや、あとででいい。まずはこいつを家に送るほうが優先だ。」ヒイロを指差す。
「わかりました。せっかく止めていただけるのです。送迎もサービスいたしましょう。」
そういうと男は荷台に入り込むとガタガタと何かしたあと、左手だけ荷台後方から出してこちらに振る。
「どうぞ〜。」
ヒイロと荷台後方の入口、男が手を出していた方にまわる。
馬車の荷台から漏れる光に触れるかと思えば、 後ろにぐんと引かれ身体が一瞬宙に浮く。
「ぐえっ!」
胸から地面に叩きつけられた。 痛いよりも苦しいが強い。数瞬うまく息ができない。
すぐさまヒイロを探す。馬車の近くにはいない。なら僕を引っ張ったのはヒイロか?
身体を起こし振り返る。誰もいないが、地面に引き摺った跡がある。
「商人!!」
大声で男を呼ぶ。
「何ですかぁ? 遅いですよぉ。夜が更けるまえに馬ちゃんを休ませてあげたい...」
困り顔で顔を出してきたが、こちらを確認するとこちらに駆けよって来る。
「何が?」
男が身体を支える。大丈夫と掌を向ける。男は身体を支えるのを止める代わりに身体中に付いた埃を落とした。
「多分、ヒイロが連れ去られた。賊か、獣かは 分からないが...」
「ふむ...この辺の街道で獣の情報は聞いたことがありません。」
「僕もだ。だから暫定的に賊、大穴で魔物だ。」
「それで、どうするんで?」
男は僕に尋ねる。答えはもちろん決まっている。
「救ける。当たり前だろ。」
「お手伝いは必要ですかい?」
見上げたシアンと男の目が合う。
シアンは一瞬悩んだ。出会って十数分かそこらの男商人を信じるべきかどうかを。
しかしそれは10年来の幼なじみを確実に救けるのに繋がるのであれば、そんな思考の靄が留まる理由にはならなかった。
「あんた、強いのか?」
商人が馬車を連れているのはこの世界では成功の部類です。最初は手押し車や大八車みたいに人力です。
多分この先説明回があります。たぶん。