3分の戦い②
シアンを投げ飛ばしたあと、男は再び揺れる地面にふらつく。
「おっとと。あぶね。」
男は体勢を立て直し分析する。
『恐らく地面を揺らすあれは足止めが目的。しかしシアンくんを投げ飛ばしたのにそれに見向きもしないということは、足止めはあくまで僕に対するものだろう。
あの場から動かずに地面を揺らしてばかりなのは時間稼ぎだからだけ?犯罪において痕跡を残さないことはなにもよりも重要なはず。こんな化け物を残して行くのはリスクが大きすぎる。だからそれなら僕らを殺した方が楽に事を進められるはず...。
ならば現時点で導ける回答は...。』
男は靴に魔力を籠める。男を中心に大気が流れ始め、それは強さを増していく。
太腕はまた地面を殴る。しかしその振動が男に届くことはなく、草花を揺らしただけであった。
太腕が追うように空を見上げる。信号弾の光が途切れ、夜闇と混じるその場所に男は立っていた。
男が浮いた矢先、少し向こう、シアンを投げ飛ばした方向で閃光が瞬いたのが見えた。
「閃光筒。始まったみたいだね。」
『袋には替えの武器が2本、閃光筒、それと薬が数本。うまく使えれば十分に時間が稼げるが、シアンくんは武器以外判別方法がない。薬にはラベルがあるものもあるが、効果を具体的に知らないにとってブラックボックスであることに変わりない。彼が臨機応変に動けることと、救援があいつなら希望はあるだろう。』
男が再び太腕をみると、それは大きく振りかぶり、その下の地面が少し抉れていた。
男が気づいた答え合わせの如く、太腕は抉った地面を投擲する。
早くに気付けた男は投擲方向から大きく移動し容易く回避した。先ほどまでいた場所を凄まじい速度の土塊、石、砂が通りすぎて行った。
「当たれば死ぬな」と思いつつ男は次々と飛んでくる塊、破片をふわりふわりと避け続ける。
『依然妨害を続けてくるな...。ということは考えられるのは接近戦で勝てる算段がない...ワケがない。あんなパワータイプですって見た目しといてフツーの人間の僕に力比べで負けるイメージが湧くわけない。だから』
男は太腕に一気に近づく。纏わりつく羽虫のようにブンブンと飛び回る。太腕はそれを追うように、次第に無闇矢鱈に腕を振り回す。
暫くそれを続けた男は上空へ急上昇、少し距離を保った所で静止しフードを深く被る。それを待ちわびたかのように、太腕は地面を抉りとる。
「時間はかけられない。勘もさほど鈍ってなかったみたいだしね。」
太腕の眼前に落下してきた筒状のそれは、激しく光を放つ。
視界を奪われてもなお抉りとった地面を投げてきたが、それはもう明後日の方へ落ちくだけ散った。
こちらを認識出来なくなった太腕の懐へ男は接近する。
『こいつも見ておきたいが、こいつだけを残した保険がきっとあるはず。その保険を確かめる!』
さらに靴に魔力を籠め、右足を振り上げる。太腕のアイデンティティとも言える屈強なその右の腕が、二の腕の真ん中でバツリと落とされた。
たまらず残された腕で断面を抑える太腕。男はすかさず反対側に回り込み右足を薙ぎ払い、左足を落とした。即座に崩れ落ちる太腕。
『あと40秒ってところか。加勢に行こう。』
そうしていつの間にか幾つかの壁が反り立つ、少年を投げ飛ばし、閃光が弾けた場所へ飛び出した。
男は25歳です。先に名前を出しとけば良かったなと思っています。分かりづらいかも。