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反撃開始

セミが鳴いている。

もうすぐ夏休みだと告げてくれているようで私には嬉しかった。

部活動もやっていない私にとって夏休みは学校に行かなくていい素晴らしい期間だ。

私はあと何日で夏休みだ、とカウントダウンしていた。


放課後、帰ろうとしている私に向かってクラスメイトの一人が外にある水道からホースを伸ばしてきて水をかけてきた。

私は頭から水を浴びる形になってしまい、ビショビショになった。

その姿をスマホで撮影された。

クラスメイトたちは笑いながら走り去って行った。

私はリュックのスマホやひみつ道具のペン型カメラが心配で走って帰った。


帰ってすぐに居間のテーブルの上に出してタオルで拭いた。

「なにしてんの?」

カナさんが慌てている私をみつけてテーブルまでやってきた。

「壊れちゃったらどうしよう。」

私は泣きながら濡れた機械たちを拭いた。

「いや、それよりあんたビショビショだけど?!」

「私はいいの。でもカナさんにもらったものが…」

私は拭き終わったものたちが動くか確かめた。


スマホは大丈夫だった。

ボイスレコーダーもそんなに濡れていなかった。

しかしペン型のカメラが動かなくなっていた。

「どうしよう…壊れちゃった…」

私はその場でわんわん泣いてしまった。

大事なものを壊されてしまった。

カナさんは「そんなものいいから!早く着替えな!」と言った。

「写真撮って。」

私はビショビショの姿の写真を撮ってもらってから着替えた。

「急だったから録音できなかったんだ。」

カナさんは私の頭をタオルで拭きながら、

「そんなのいいよ。リュックの中は大丈夫かな?」

私はリュックの中を出してみた。

防水設計のリュックだったので中は濡れていなかった。

「大丈夫だった。よかった。でもペン型のカメラが…」

私が泣きながらそう言うとカナさんはそれを分解し始めた。

「こういうのって中が乾くと直ったりするのよ。」

ドライヤーを持ってきて風をあてている。


「お小遣いで弁償します…」

カナさんは「バカだね、子供はそんなの気にしなくていいんだよ。」と言いながらドライヤーの風を私の頭に向けた。

小さい頃にお母さんがこうやって髪の毛を乾かしてくれたのを思い出した。


「さすがに我慢できなくなってきたよ。」

カナさんは分解したカメラを元に戻しながらそう言った。

「夏休み中に訴えるよ。」

「え?」

カメラは直った。

カナさんは手先も器用だった。

「もうその手の裁判が得意な弁護士さんみつけてあるんだ。」

「でも…そういうのってお金かかるよね…」

「子供はそんなこと気にしなくていいの!これは私の戦いでもあるんだから!」


それから私とカナさんは証拠をまとめた。

日記と照らし合わせて写真を貼ったりした。

こんなものが証拠になるのか怪しいところだったが、カナさんはなんでも出してみようと言い、些細なことも細かく報告書に書いた。


────


夏休みに入る直前に学校から家に電話がかかってきた。

教頭からだった。

『実はお宅のユラさんが出会い系サイトに登録しているという報告があったのですが。』

「は?うちのユラがそんなことするわけないでしょう?」

カナさんは電話口で大声で怒っていた。

『しかし名前も写真もユラさんのようなんですよね。』

「ユラ!あんた誰かに写真撮られた?」

私は水をかけられたときのことを思い出した。

「学校で水をかけられたときに撮られたかも。」

「写真ってビショビショになってるやつですか?それならクラスメイトに撮られたそうです。」

『あぁ、そう言われてみればその写真かもしれませんね。ではなりすましということでしょうかね。』

「当たり前でしょう?ちゃんと調べてから電話してきてもらえますか?それよりも誰からの情報ですか?その情報をチクってきたやつが怪しいと思いませんか?そいつの名前教えてもらえませんかね?」

カナさんは最初からスピーカーにして録音していた。

『申し訳ありません。個人情報保護の関係でお教えできません。』

「それではそちらで解決してくれるんですかね?」

『いやぁ、そこまでできるかどうか…』

「ではうちから警察に相談したらいいですかね?」

『こちらで調べられるところまでやってみますので、今のところはお待ちいただけますか?』

「こちらもできることを調べてさせてもらいますね。」

カナさんはそう言うと電話をガシャンと切った。


スマホで教頭から聞いた出会い系サイトを確認してみると確かに『ユラ』という名前でビショビショになった制服姿の私の写真が掲載されていた。


カナさんはそのページのスクショを撮って弁護士さんに送った。

すぐに弁護士さんに電話をして、「投稿者の開示請求とか民事訴訟とかできますよね?」と聞いていた。


カナさんは電話を切ってニヤリと笑った。

「始まるよ。」


────


夏休み前に学校に行くと例の出会い系サイトのスクショ画面を印刷したものが黒板に何枚も貼られていた。

すぐにその写真をペン型のカメラで撮影した。

それから私はリュックから使い捨ての手袋を出してはめて、クリアファイルにその紙を全部剥がして入れた。


クラスメイトたちはクスクス笑いながら「援交は犯罪でーす。」と言っていた。

私はその様子を録音した。

先生がやってくるとクラスメイトたちは静かになった。

先生は教卓に何かあるのに気がついてそれを出して見た。

黒板に貼ってあった紙だった。

教卓にもあったのは気がつかなかった。

「誰がこんなことをしたんだ?」

先生はみんなにその紙を見せながら聞いている。

私はずっと録音していた。

クラスメイトたちは「知らなーい」と言いながらクスクス笑っている。

その紙を半分に折って持っていたファイルにしまった。

「こういうイタズラはやめるように。」

それだけ言って先生はいつもどおり朝のホームルームを始めた。


────


その日の放課後、私は職員室に呼び出された。

「これはお前だな。」

「その写真は私ですがそのサイトに登録したのもそれを印刷したのも私じゃありません。」

「犯人はわかっているのか?」

「私はわかりませんが教頭先生は何か知ってるかもしれません。」

私がそう言うと「もういい、帰れ。」と言われたので私は職員室を出てきた。

もちろん今のやり取りも全部録音した。

私は急いで家に帰った。


帰るとカナさんと女の人が家にいた。

「ユラ、おかえり!弁護士の笹川先生だよ。」

私はその女の人と目が合った。

優しそうな見た目でお父さんと同じくらいの年齢に見えた。

「ユラです。よろしくお願いします。」

「笹川です。ユラさん、大変だとは思いますが一緒に頑張りましょうね。」

笹川先生はそう言ってニコッと笑った。

私はリュックからクリアファイルを出してカナさんに渡した。

「手袋はいたから私の指紋はついてないよ。」

そう言うと笹川先生はフフッと笑った。

「完璧な証拠ですね!」

「うちの子、できる子なんですよ。」

カナさんはドヤ顔をしていた。


「出会い系サイトの方は投稿者の開示請求はしましたので判り次第相手側を刑事告訴します。」

笹川さんはカナさんと難しい話を始めた。

日記や写真、音声データなどを確認して、

「これだけ証拠があれば逃げられないと思います。合わせて学校の対応も問題がありますのでこちらも訴えますね。。学校はイジメがあると報告された場合な調査をしないといけません。しかし全く動いていませんね。」

「学校にも教育委員会にも言ったけど何もしてもらえなかったよ。」

カナさんは思い出したようでまた怒っていた。


「あとは私にお任せください。相手側からの電話やメールなどもすべて私に回してもらって構いませんので。」

笹川さんはすべての証拠を受け取り微笑んでそう言った。

「どうぞよろしくお願いします。」

カナさんと私は頭を下げた。


────


出会い系サイトから私のなりすましのプロフィールは削除されていた。

運営が削除したのか投稿者が削除したのかはわからない。

笹川先生から投稿者がわかったので刑事告訴と民事訴訟に持っていきますと連絡があった。

その子は写真を撮った子で首謀者だと私が感じている女子生徒だった。

同時に学校も訴えたと言っていた。

すぐにうちの電話は鳴った。

「申し訳ありませんが今後の対応はすべて弁護士さんを通してください。」

カナさんはそれだけ言って向こうの言葉を聞かずに電話を切った。


「校長、すんごく慌ててたよ!」

カナさんは嬉しそうにそう言った。

私もニヤニヤしてしまった。

夏休み中には終わらないと笹川先生には言われている。

長期戦になるかもしれないとも言われた。


それでも私は2学期が始まれば学校へ行こうと思っている。

学校に行くことだけが私に今できる反撃だからだ。

いじめるならいじめればいい。


私は負けない。

負けるつもりは1ミリもない。


────

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