die5話 私の気持ち みんなの気持ち
私のさっきの言葉は、全て本心。機関にいた頃は本心を口に出してはいけなかった。初任務の際、私は『行きたくない』と声を荒げて言った。そしたらお父様は、私を殴り蹴り、私が『分かった……』と言うまで、散々痛めつけられた。
それから私は本心を声に出さない様にしていた。少なくともお父様の前では……まぁ、今では自分から仕事を見つける程には、この穢れ仕事に慣れきってしまったのだが。
だから、本心を声に出したのはあの時以来だった。
そして結局、あの時私はどうしたかというと、一緒に仕事をする機関の人間に連れられ、初任務に向かった。私という足手まといが居ながらも、そいつは殺しも撤退も、スムーズに行なった。あの時は見る物も見られなかった。当時一般人、そしてまだ子供だった私は見てしまったのだ。あまりにも悲惨な現場、そして、そいつの狂気的な笑みを。
まぁ、私の過去話は置いておいて
「なんだ冗談か、驚かさないでよ。それに、君って面白いんだね」
私は面白いと言われたことがなかった。まぁそれもそのはず、殺し屋は裏の仕事、どちらかと言えば、嫌み嫌われる役目なのだから。
「面白い……か……私は面白くなんてない、絶対にな……」
そうして、私は教室に戻ろうとしたその刹那。
「あ、いたいた~、ヒビッチ~」
突如として、アヤヤこと亜矢の声が背後から聞こえた。
馬鹿な、私に気配を悟らせず、近づいてきたなんて……しかも三人も。
「も~ひどいですよ。ヒビッチとデートなんて、ということで罰です。塔弥様は次、私とデートしてください」
「いや、ユーユが塔弥君とデートしたいだけなんじゃ」
冷静にツッコミを入れるリリーこと琳。
「こほん、そうとも言う」
「ユーユは塔弥君にぞっこんだもんね~」
それに対して、アヤヤこと亜矢は、ユーユこと友実をからかっていた。
「ちょっ、アヤヤ、塔弥様にばれるから、シー、シー」
「あははは、もうばれているよ。様付けの時点でね」
「そんな~どこで計算間違えたんだー。まぁ、ばれても問題ないんですけど」
「ユーユ、正直だね」
「正直じゃなければどうすればよいのだ、リリー君。正直だけが私の取り柄なのだよ」
この二人は、どうしても読めない。それは亜矢とかいう奴と塔弥とかいう奴も例外ではないのだが。
「むぅ、ヒビッチ羨ましすぎじゃ~ん、塔弥様とデートなんて」
でえと?なんだそれ?と私が首を傾げると。
「とぼけないで、塔弥様はぽっと出のあなたなんかには絶対渡さないんだから!」
何を言っているんだ。こいつは。
「あ~ごめんね~ヒビッチ、ユーユ、塔弥君への愛が強すぎて時々暴走しちゃう事があるんだ~。ほぼ毎日だから、嫌でも慣れると思うよ~。相手が塔弥君に恋愛感情を抱いてなくても、さっきみたいに暴走しちゃう事があるんだよ~全く困った子だよね~」
「ちょっ、離してよアヤヤ、私にはまだやるべき事が~」
ユーユこと友実はアヤヤこと亜矢に捕まりながら、手足をジタバタさせている。
「ふ~ん、一応訊いておくけど~ヒビッチに何をするつもりなのかな~」
「それは…アヤヤ達には関係ない」
この空気耐えられなかった私は、走って教室に戻る事にした。
「ちょっ、ヒビッチ~」
何やら背後からアヤヤこと亜矢の声が聞こえたが、私はそのまま廊下を走り続ける。
はぁ~、結局一人で教室に戻ってきたが、やはり皆と一緒に戻った方が良かっただろうか。
その時、教室の扉が勢い良く開いて。
「はぁ~、はぁ~速過ぎるよ~ヒビッチ。はぁ、はぁ……」
「それは、その、済まなかった……」
「響ちゃん、廊下は走っちゃいけないんだよ」
アヤヤこと亜矢から少し遅れて、塔弥という男子生徒は教室に入ってきた。
「それは済まなかった。あれ?他の二人はどうした?」
辺りを見渡してみると、リリーこと琳とユーユこと友実の姿が見当たらない。
「あぁ、二人は別クラスなんだよ~」
アヤヤこと亜矢は、少し寂しそうな声音で答えた。
もちろん私は、最初この教室に入った時から二人がこのクラスの人間ではないことを知っていた。
そして、塔弥という男子生徒は自分の席に座り。
「それで、響ちゃんは好きな人、いないの?」
と、訊いてきた。
「お~、アヤヤもヒビッチの恋バナ、聞きた~い」
「別にいいが、なぜ私の……それに、私が言えることはほぼないぞ……」
「え~つまんな~い。なんかないの?塔弥くんみたいに初恋の人とか~」
「うーん、いたような、いなかったような……?」
「ヒビッチ、曖昧過ぎ~」
アヤヤこと亜矢が笑いながら言った。
「済まない……」
「あ、そうだ~。話ずれるんだけど、この前学園に入ってきた不審者、超不気味だったよね~」
「あ~、分かる。あの時は放課後だったから良かったけど、僕あの時喉乾いて、手洗い場まで行こうとしたんだけど、先生に止められちゃって、大変だったんだ」
アヤヤこと亜矢と塔弥という男子生徒はずっとその話で盛り上がっていた。
「………不審者って……?」
「あ~ヒビッチは、知らないんだっけ~?この前この学園にね、不審者が出たの。先生達が協力して追い払ったらしいんだけど、まだちょっと怖いな……」
アヤヤこと亜矢は腕をさすりながら言った。
その不審者とは、間違いなくあいつらのことだろう、機関の人間が数名、最近密かにどこかに行っていたようだったが……なるほど、ここに来ていたのか。
「ヒビッチ……何で笑っているの?」
アヤヤこと亜矢は、涙目でそう訴えた。
「あぁ、済まない、少し昔のことを思い出していてな……」
「昔の…こと?」
アヤヤこと亜矢はまたもや涙目で、そう訴えた。
「……お前には関係のないことだ。気にするな……」
「え~、すごく気になるよ~、気にするなと言われたら気になるのが、人間の性っていうものじゃ~ん?だから、教えてよ~ヒビッチ~」
アヤヤこと亜矢は、先程の涙は噓かのように私に取り入ってきた。まぁ、私はずっと無視し続けていたが。
「響ちゃんが、困っているよ。友達なんでしょ、だったらやめてあげようよ。外野の僕が言うのもなんだけどさ」
「ごめんね~ヒビッチ~無理に聞こうとしてさ~」
と、アヤヤこと亜矢は私に頭を下げて謝った。




