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die32話 作戦会議

「え⁉」

 スマホのコール音が鳴って、表示を見るとそこに書いてあったのは『お父様』だった。

「誰だったの?」

アヤヤこと亜矢が身を乗り出して訊くが、私はそれには答えず応答のボタンをタップする。

『昨日ぶり、か。響、今大丈夫か?』

「ええ、大丈夫ですが?」

『周りには誰も居ないか?』

「いえ、友達が居ますが、どうしました?」

『スピーカーモードじゃないかだけ確認してもらえるか?』

「はい、スピーカーモードではないです」

 三人は私の突然の敬語に困惑している様子で私をチラチラと見ていた。

『そうか、では、先程のテレビを観たか? リリィに宣戦布告をした男を』

「あぁ、観ました。けど、それが何か? 正直ムカつきはしましたけど」

『なら話が早い。明日長期休みの時、情などが湧いては元も子もないからな。明日、テストをしようと思う』

「テスト、ですか?」

「うん、テスト、だから明日休まないでね~?」

 横から聞こえたアヤヤこと亜矢の声にお父様は少し驚いた声を出した。

『明日、(さかえ)(かめ)市に行ってもらおうとしたのだが、少し厳しそうか?』

「榮亀市、ですか?」

『あぁ、テレビの砂嵐を取り除いたら榮亀市、と言っていた。行ってもらおうと思っていたのだが、学業優先だ。邪魔して済まなかったな』

「お父様……」

 それだけを言ってお父様は電話を切ってしまっていた。

 食事を食べ終わった私達はそれぞれに行く場所に行ってしまった。何も私達は四六時中一緒に居るわけではない。たまにユーユこと友実は休み時間に図書室に行くし、アヤヤこと亜矢は他の友達の所に行くこともある。まぁ、隙あらば私をグループに混ぜようとしているようだが、今のところは全て不発に終わっている。私が三人と一緒に居る方が居心地がいいと言っているからかもしれないが。リリーこと琳はあの三バカと呼ばれているアヤヤこと亜矢、ユーユこと友実、そしてリリーこと琳の中で、リリーこと琳だけはA組ではないので勉強しているらしい。こうちょーによるとA組だけは競争、成績が悪くてもこれ以上落ちることがないから、だそうだ。少しイラっと来る言い方だが、要はB組以上は成績主義なのだそうだ。悪ければ下がるし、良ければ上がるかもしれない。

 そして私は今、こうちょー室に居る。理由は事の顛末をこうちょー、ベレータに共有するためだ。

「と、いうことがあったんだ」

「なるほど、その映像、私も見ました。その男は私と同等、いや、最悪それ以上のハッキングの使い手ですね。だって規模は分かりませんが、最低でも日本全土にあの映像が届いているわけですから」

こうちょーは紅茶を飲みながら冷静に分析していた。

「なぜ、日本全土にはあの映像が流れていると分かるんだ?」

私も出された紅茶で唇を湿らせながらこうちょーの言葉に返す。

 ちなみに、普段私が生徒だからとお茶を出さないらしいこうちょーだが、私が放課後、殺し屋リリィとしての話をしている時だけはお茶を出してくれることがある。

 こうちょーは紅茶のカップをカップの下に敷いてあるソーサーというらしいに置いて言う。

「殺し屋リリィ、この殺し屋は世間一般的には分からないことが多すぎる殺し屋です。男なのか、女なのか、年齢はいくつなのか、どこの都道府県に居るのか、分かっていることと言えばリリィというコードネームと変装のスキル(技能)を使う、ということだけ。それにしても、分からないこと、というか疑問に思うことがあるんですよね。なぜリリィという名前が知れ渡ったのでしょうか?そして、なぜスキル(技能)のことも知れ渡っているのか?」

 確かに、なぜスキル(技能)の一つが知れ渡っているのかについては分からない。名前については……心当たりがあるとも言い切れないのだが……。多分、殺し屋人生に慣れ始めてきて人を殺す快感を覚えだした頃のある仕事の一件で私は、標的(ターゲット)を殺した後にすぐには退散せず、標的(ターゲット)の血ででかでかと壁に文字を書いた。『殺し屋リリィ参上!』と。多分それだ。いや、多分じゃなく絶対それだ。

「もう本人居るし、訊いちゃいますか?」

こうちょーが立ち上がり、鼻息を荒くして迫ってくるが、私はやめろの一言でこうちょーを一蹴する。

「あのな、こうちょー、私はこの一ヶ月で学んだことがある。人の転がし方、と言っていいのか分からんが、断り方、かな? 分からんがとにかく学んだんだ。面倒くさいのを二人も相手しているといやでも鍛えられる」

「分かりませんが、響さんが言いたくないのは分かりました。申し訳ありません。しかし、響さん、いえリリィ様はどうしたいのですか?」

座り直したこうちょーに訊かれたが、私の答えは決まっている。

「無論、行く。私に喧嘩を売ったんだ。どうなるかはもちろん分かっていないといけない」

「そうですか、ですが明日A組は確か理科のテストがあるのでは? 朝の九時までに向かうにしてもテストは受けられません。日程も調整できませんし、これではどちらかを諦めるしかないですね」

 こうちょーはため息を吐いてまた紅茶を一口飲む。

こうちょーを見て私は名案を思い付き、にやりと口角を上げた。

「いや、出来ないこともない。こうちょーが私に変装してテストを受ければいい。そして私は私に挑発した奴を殺しに行く」

「いやいや、簡単に言ってくれますね。それにしても、変装セットもないじゃないですか。それでどうやって変装しろと? そもそもテストは自分でやるから意味があるんですよ」

「どうしてそんな教師みたいなことを言うんだ?」

「実際教師ですから」

こうちょーは腕を組んで堂々と言った。私としては苦笑するしかなかった。

「そもそもボス、あの方は学業優先と言ったのですよね? であれば受けるべきです!」

こうちょーは机をバンと叩きながら力強く言う。

「わ、分かったよ……」

一生徒の私としてはそういうしかなかった。

こうちょーに散々きつく止められた後、明日の作戦会議に移る。

「それでも、私は行きたいけどな……」

私の小さな呟きをこうちょーは聞き逃さなかった。

「は? ダメですよ響さん、私の言うことを聞いてください!」

 またもや散々きつく止められたが、今度は私も譲らない。

「いやだ」

「いやだって、子供ですか。あなたは」

こうちょーはため息をつきながら言う。それに対して私は「子供だが?」と腕を組んでふん反り返ってみせた。

 こうちょーはため息を吐きながら私に提案する。ではこうしたらどうですか、と。

こうちょーが提案したのは、遅刻か、欠席にすること。最も、こうちょーは欠席という手段にだけは走りたくないようだった。

私は遅刻をする。という決断を決め、こうちょー室を出て皆の元に向かった。

 廊下を歩いていると、塔弥という男子生徒とすれ違った。私は話すこともないだろうと通り過ぎようとする。

「ねぇ」

 するが、塔弥という男子生徒に呼び止められた。さすがに無視するわけにもいかないので私は顔だけをそちらに向く。

「選択授業の事なんだけどさ、響ちゃんってなんで「近接格闘技」にしたの?」

「不思議か?」

私の言葉に塔弥という男子生徒は無言で頷く。

「響ちゃんなら友達の居るところに行くと思ったんだ。僕はまだ響ちゃんにとって友達じゃないって思っているから。確かに、響ちゃんが先輩を倒したことは驚いたけど」

「見たのか?」

そう言って私は塔弥という男子生徒を軽く睨む。

「いや僕は人から聞いただけだけど、最初僕は信じられなかったんだよ。だって響ちゃんみたいな華奢な子が先輩を倒したなんて信じられないじゃないか、だけど他の人達がすごいすごいって言うもんだからさ、他の人達が少なくなったら本当なのか訊こうとしたけど、居なくなっちゃったからさ」

 居なくなった。というのは恐らく私がトイレに隠れた時のことを差しているのだろう。

「教室でもさ、訊こうとしたら皆響ちゃんに群がっていたし聞くに聞けない状態だったからさ」

「じゃあ、なんでタイミングはたくさんあったはずなのに今になって訊くんだ?」

「うん、そりゃ授業中は話せないし、訊こう訊こうって思っていたら、何だか響ちゃんにそれを訊いたら後には戻れなくなるような気がして、分かるかな? まるでパンドラの箱を前にしているかのような感覚だったんだよ。本人に言うべきじゃないことは分かっているけど、響ちゃんを見ていると、たまに人間じゃないように思えてくるんだ。本能的な恐怖っていうか……」

「………………」

 本能的な恐怖、か。気を付けているつもりだったんだがな。

「ご、ごめん、謝るから許して」

慌てる塔弥という男子生徒を見て私はクスッと笑った。

「別に、気にしていない。そう感じるときがあるということについては謝る。じゃあ、訊く気にはなったんだな?」

「うん」

 シャキリ。

「「!」」

 その時、塔弥という男子生徒の後ろの角から何者かがスマホだけを見せていた。

あのスマホは確か、ユー…ユ…?

 その角から何者か、ユーユこと友実が出てきてこちらに歩いてきた。

「どうしたの?友実ちゃん? だっけ」

 塔弥という男子生徒がユーユこと友実の名前を言うと、ユーユこと友実は急に口元を押さえ、涙を流した。

「え? え? 僕、何かしちゃった?」

塔弥という男子生徒が困惑している中、ユーユこと友実はぽつりと今にも消え入りそうな声で言う。

「わ、私の名前を覚えていてくれたんですね。嬉しい……」

その後ユーユこと友実は私を睨んで、

「でも、隠れて密会だなんて、しかも誰も居ない校舎で。私言ったよね? 塔弥様は絶対に渡さないって、そりゃあ放課後の校舎は他の生徒が居ないもんね。密会するにはここしかないわけだ」

「え、えっと……?友実ちゃん、僕達は密会なんてしていないよ」

ユーユこと友実は手に持ったスマホを振って言う。

「私は、証拠を持っています。ヒビッチと塔弥様が放課後の学校の廊下で密会していたっていう、言い残すことはありますか?」

ユーユこと友実の冷たい声が私と塔弥という男子生徒に突き刺さる。受けたことないが、取り調べとはこういうものなのだろうか、と私は思った。

「誤解だよ。ほら、響ちゃんも何か言って」

私はため息をこぼした後、

「密会……か。私はこうちょーに用があったんだ。こいつとはたまたま……」

私は塔弥という男子生徒に指を差してその場から退散しようとする。

「じゃあそれを証明してよ。塔弥様もなんでヒビッチにだけ構うんですか!」

ユーユこと友実がそう言ってくるが、私は溜まった怒りやもどかしさをもう我慢できなくなっていた。

「私は……! 傷ついているんだ。もうほっといてくれ!」

 私は気付けばそう叫んでいた。それに気付くと私は寮に全力で走って戻った。


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