die2話 食堂での一幕
「っと、ここが食堂で~す」
正直な感想を言おう、広い。この一言に尽きる。ここでは悪いことをしたらすぐにばれそうだ。私はそんなどうでもいいことを考えていた。ちなみに、その悪いこととはもちろんのこと、殺しであった。
「響ちゃん、ここには色んな物があるんだよ~。カレーや定食……他にもた~くさ~ん」
「ほう…本当にいろいろあるんだな……」
「そうなんだよ~。それで響ちゃんは何頼むつもりなの?」
私は辺りを見渡し、そしてある料理が目に付く。
「私は、あれにしようかな……」
私は、一人のある女子生徒が持っている料理に指を指し、言う
「あ~あれか~。あれは先輩だから許されるというか~。何というか~、とにかくあれはやめたほうがいいって~」
「どうしてだ……?」
私は亜矢という女子生徒が言っていることの意味が分からなかった。
「アヤヤ、あたしら先に注文して、席取ってくるね。響ちゃんにいろいろと教えてあげて」
「うん、分かった~。注文を取り次第すぐ向かうからね~」
亜矢という女子生徒は、他の人と話し終えた後、自分の好物や家族構成など、本当にいろいろと私に教えてくれた。
やれやれ、こんなにもすぐに自分のことを言いふらすのか。本当に同じ人間だと思えない。
「あ、そうだ~!私のおすすめ教えてあげるね~。ここはね~焼きそばが美味しいんだよ~。響ちゃんもそれにしようよ~」
「それじゃあ…まぁ、私もそれにしようかな……」
「分かった~。おばちゃ~ん、焼きそば二つ~」
亜矢という女子生徒におばちゃんと呼ばれた人物はニコニコしながら厨房の中へと消えていった。
「それにしても、アヤヤって……?」
「ん?私のあだ名だよ~。あ、そうだ~せっかくだから、あだ名で呼びっこしようよ~」
「は、はぁ~、まぁ、いいけど……」
私は、ため息混じりで肯定する。
「え、ホント?じゃあ、響だから…ヒビッチ。ヒビッチも私のことアヤヤって呼ぶんだよ~」
「わ、分かった……えっと…アヤ…ヤ……?」
「う、噓……。何この可愛い生き物……。尊すぎ……」
「あ、あのな……」
すると、アヤヤこと亜矢は、そのままそこでうずくまってしまった。
すると、席を取ってくると言っていた女子生徒達が戻ってきた。
「取り終わったよ。って、えーっと、アヤヤ、そんなとこで何やってんの?」
「はわわわわ~。ヒビッチ尊い。ヒビッチ尊い……」
「ひ、ヒビッチ?」
「なんか、よく知らんが…こいつがあだ名で呼び合おうって言って、あだ名で呼んだらこうなった……」
私がアヤヤこと亜矢に指を指して言う。
「あ~なるほど。アヤヤ可愛いもの好きだから…っていうかアヤヤ立てる?」
「あ~ありがとう、キャプテ~ン」
「誰がキャプテンだ、誰が。まぁ、否定はしないけど」
なるほど、キャプテンと呼ばれているこの女子生徒は、少し短気なところが見受けられる。
その後、キャプテンと呼ばれた女子生徒がアヤヤこと亜矢に軽く平手打ちをし、出来上がった料理を持ってキャプテンと呼ばれていた女子生徒達が取っていた席に座り、そこで私達はようやく昼食を食べる。
腹は減っては戦はできぬというが、この言葉は本当だった。殺し屋時代で過去に一度、腹の音で敵に気づかれ、重傷を負わされたことがある。まぁ、それでも標的を殺しているのだから私の仕事は、ほぼほぼ完璧と言えるだろう。
「いただきます……」
いただきますと言ったのは、何年ぶりだろうか。正直な話全く覚えていない。
私は、一口焼きそばを口に含み、そのまま咀嚼する。
「いや、ヒビッチ、焼きそばすすってないじゃ~ん」
アヤヤこと亜矢は、私にそうツッコんだ。
殺し屋は食事の最中にも標的のことを警戒しておかなければ自分の命が危なくなる。機関の他の人間はそういうことがあったようだが、私はそのような任務を引き受けたことは無かった、だが一応練習しておいて損はない。その時の癖がまだあったとは、その練習をし始めたのは、割と最近だったと思っていたのだが、もう自然に出来る様になっていたとは……
そして、私は何かそこまで重要ではない何かを忘れていた。まぁ、そこまで重要ではなかったら、思い出さなくても良いのだろうが、それでもモヤモヤしてしまう自分がいた。
「ねぇ、あたしもヒビッチって呼んでもいい?」
その時、アヤヤこと亜矢にキャプテンと呼ばれていた女子生徒が食事中にも拘わらずわざわざ私に話し掛けてきた。
食堂に入ってきた時から何やら視線を感じる。慣れないといけないのだろうが、私にはいつまでたっても慣れそうになかった。
「ま、まぁ、別に良いが……」
私は別に断れない性格というわけではない。では、なぜ断らないのかというと、私の今の目標の為でもある。
私の今の目標は他人を信じること。だから友達を作って損はないと考えたのだ。
「あたしの名前は琳。あたしのことはリリーって呼んで。アヤヤじゃないけど、あだ名で呼び合うのは名案だと思うから、あ、さっきアヤヤがあたしのことキャプテンって呼んでいたでしょ。あたしね、陸上の中学部のキャプテンなんだ。
だから、よろしくね」
「あ、あぁ、よろしく……」
そうして私はリリーこと琳と握手を交わした。
リリィ、それは私のコードネーム。同じくリリーと呼んでほしい琳という女子生徒、それがどうしても気になってしまう。多分、私の考えすぎだろうが……
「ねぇねぇ、ヒビッチ、ここの焼きそばどう?美味しいでしょ~」
アヤヤこと亜矢が私にそう聞いてきた。
「あ、あぁ…普通に美味いな」
私としては食べられれば何でもいいのだがな……殺し屋は欲を言ってはいけない。欲を殺せ、と昔お父様から教え込まれたから……
「あれ?君達もここにいたんだ。相席してもいいかな」
私達がしばらく食事をしていると、見知った顔が顔を覗かせた。
塔弥という男子生徒だった。
「おいおい、塔弥、塔弥もその転入生に興味があるのか。ファンに殺されても知らねぇぞ」
「と、ととととと塔弥様!?どうぞどうぞ、こちらからも相席お願いします」
リリーこと琳でもアヤヤこと亜矢でもない、三人目の女子生徒が塔弥という男子生徒達を受け入れた。
「と、じゃあ遠慮なく」
そうして塔弥という男子生徒は私の隣、その連れは他の人の隣の席やら私の前の席やらに座った。
「これ、なんかお見合いみたいだね」
塔弥という男子生徒がそう言うとアヤヤこと亜矢がそれに続くようにはにかみながら言う。
「だね~私達、別にそういう年齢じゃないのにね~」
「じゃあ、せっかくだからやっちゃう?お見合いごっこ」
塔弥という男子生徒がそう提案すると、次々とそれに賛同した。
「ねぇねぇ、ヒビッチもやろうよ、絶対楽しいって~」
「ま、まぁ、皆がやるって言うなら私もやるが……」
「じゃあ~決まり~やろやろ~」
「………」
私は、特に何も言わずチビチビと水を飲んでいた。
まぁ、私に何か言われることもないだろうし、気配でも消していればいいだろう。そうして、私が気配を消そうとしたその時のことだった。
「響ちゃんはさ、ここに転入するまで、何していたの?いろいろ教えてよ。僕の事も教えてあげるからさ」
塔弥という男子生徒は人好きのする笑顔で私に訊いてきた。
本当に緊張感がないな…私が見てきた世界とは大違いだ。ここは本当に同じ国なのか?まるで異世界にでも迷い込んでしまったかのようだ。
「えぇ~、私達の方が距離感近いよね~、ねぇヒビッチ~」
「……あ、あぁそうだな。えっと、アヤ…ヤ……?」
「アハ~呼んでくれた~。残念だったな男子よ~私達の方が距離感が近いことが証明された~」
「ハハハ、まぁ、別に僕は気にしてないよ。それよりも響ちゃん、僕の過去は知りたくはないかい?」
「ま、まぁ、多少は……」
「え~、釣れないな~」
「はいはいはーい!私は興味しかありません!」
そこで塔弥という男子生徒達を入れ込んだ女子生徒が叫んだ。




