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die28話 お母様とお出かけ

「響ちゃんってバカになったわよね。前はもっと現実主義というか、ともかくお友達に影響されたのよね」

「終わった……」

 宿題がようやく終わってようやく一息吐ける……じゃない!まだ国語のドリルがあった。漢字はさっぱり分からないけれど文法は密かに自信あり。だから国語を最後に残しておいたのではないか。

 数学のドリルをカバンに仕舞い、国語のノートと文法のドリルを取り出した。

ノートの一部にまで書かれてある漢字をノートいっぱいに書く。時間がかかるだけでそこまで難しくはない。

 更に数分後に漢字が終わり、続いて文法に移る。

 文法は昔、殺し屋時代に大きくお世話になっていた経験がある。学歴の高い人物にも変装する機会があるので生半可な付け焼刃な知識じゃすぐに見抜かれる。だから当時の私は小学生や中学生の問題を全てすっ飛ばして有名高学歴大学の受験内容を勉強していた。当時はこの頭に入っていたが、今はさっぱり覚えていない。そもそも頭の中に入っていただけで、なんでそうなるのかは分からなかった。

 そのおかげもあってか、私の今の成績の中で文法だけはずば抜けて高かった。

 更に数分後のこと、私は全ての宿題を終わらせた。時間を計っていたわけではないが、文法のドリルだけは他よりも早く終わった気がする。

「響ちゃんの宿題も終わったんだし、何か食べに行きましょうか。もうそろそろいい時間だし」

 ずっと私の勉強を隣で見ていたお母様が壁にかかっている時計をちらっと見て言った。

現在の時間は夕食の時間にも少し早いという時間だった。

私が首を傾げるとお母様は急に私に抱き着いてきた。

「もう、響ちゃん可愛い。この私を誘惑しているの?」

お母様は私を離したかと思うと、こう言った。

「夕食、近くにいい店があるのよ。歩いて二十分くらいだから今の時間に行かないとすぐ混んじゃうのよ。行こ?ね?」

お母様は鬱陶しいくらいにくっついて私に行こ行こ言っている。

私は折れて「いいですよ。行きますよ」と言った。

 それにお母様はよしっ、とガッツポーズをしていた。

「じゃあ、準備してくるから待っていてね」

そう言い残してお母様はリビングダイニングから出ていった。

 しばらくしてお母様が戻ってくる。

「あら、響ちゃん、制服のままで行くの?まぁ、それも案外ありかもしれないけど、汚さないでね」

お母様はそう言って私達は家から出る。

 私はチラッとお母様を横目で見る。

お母様の服装は授業参観に着て来た下手で怪しげな雰囲気の変装スタイルではなく、地味な色合いな服装に伊達メガネをかけたザ・芸能人の変装スタイルだった。

当然ながら車は無く徒歩のため、通行人達がお母様とすれ違うと振り向く。私は当然お母様の後ろにくっついていた。

「フフッ、ほら見なさい響ちゃん、道行く人達が私達を見ているわ」

「いえ、皆お母様を見ているんだと思います。ただでさえ目立つ体系をしているんですから」

私が言い返すとお母様はフフッと笑い返して。

「いいえ、皆響ちゃんを見ているのよ?今や名門校の仲間入りとなった花咲学園の制服を着ているんだもの。まぁ、確かに半分以上は私が視線を独占しているのは否めないけどね?だけど半分以下はあなたよ。響ちゃん」

「いや……」

「いや、あなたよ。響ちゃん」

否定しようとしたらお母様から真っ先に否定が入った。

 お母様だ響ちゃんだという言い合いをしていると、一軒の店の前に居た。

「ここよここ、頼も~」

お母様は慣れたようにその店の敷居をまたぐ。

私も肩身を狭くしながらお母様に続いて店に入る。

 ここはお母様行きつけの飲み屋だそうだ。

「いらっしゃーい加奈芽ちゃーん」

 不意に店の奥側からそう言う声が聞こえた。もう四十いくつくらいのお母様をちゃん付けとは。

お母様は気にした風なこともなく、「また来たわよー」と吞気に返していた。お母様はお座敷の席に通される。私は一歩離れた後ろからそこに入る。

「うーん、やっとゆっくり出来るわね。響ちゃん?なんで気配を消しているの?」

 お母様はお座敷の中に座り、うーん、と伸びをしながらお母様の対角に座った私に小首をかしげて訊いてくる。そうすると胸がより強調されるから目立つ、目立つ。

まぁ、ここには同性の私しか居ないからリラックスしているんだろうと思っておく。

 お母様はメニュー表を見ながら言った。

「どうする?今日は私のおごりだから。気にしなくてもいいわよ?」

そうウインクをするお母様。お父様も顔には出さないだけでお母様にはデレデレしているのだろうか。そう思うと私は思わずムッとした顔をしてしまう。

「おっ、その顔、ポイント高いわね」

「あなたの娘、世純先輩とは違うんですね?」

私はお母様の言葉をスルーして言った。

「ん?世純とは違うってどういうこと?」

「いえ、世純先輩に初めて会った時、食堂だったんですけど、おごらないわよって言っていたなと」

私は「おごらないわよ」を当時の世純先輩を再現しながら言った。

「まぁあの子、昔から知らない人には警戒心丸出しだったしね。知っている人にも結構強情だったけど、知らない人にはいいのよ。誘拐なんかも一度もなかったし、まぁそれは亮真君と陽南ちゃんのおかげ……いや、これはショウ君のおかげかな?でも、知っている人にも、私やあの男、両親にはよく懐いてくれていたけれど、それ以外には強情だったからね。そっかそれが響ちゃんにも向いたのか」

「世純先輩はその時以前にも会った、いやあの時はすれ違ってもいなかったですね。アヤ…ヤが世純先輩を急に話に巻き込もうとして、その時は態度が大きかったですからね。見ず知らずの後輩相手にもあんな態度だったんですね」

私が言うとお母様はため息を吐いて。

「ごめんね響ちゃん、一応母親として謝罪しておくわ。さて、そんなことはどうでもいいのよ。ここってね始まるのも早ければ閉まるのも早い店でね、ざっと二時間ぐらいですぐ閉まっちゃうのよ。だからほら」

お母様はそう言ってもう一つのメニュー表を渡してきた。

「はぁ」

私はメニュー表を受け取るとそれを開いてしばらく眺めていると。

「響ちゃんは何にするか決まった?私はとりあえずツマミたいかな。ほらこういう仕事しているとどうしてもストレスが溜まるじゃない?どっちにしたって」

お母様は私の意見を聞かずに呼び出しボタンを押した。

 しばらくして店員が来る。初老っぽい男だった。

「おお、加奈芽ちゃーん、来てくれてありがとうね」

 どこかで聞いたことのある声だと思ったら、私達が店に入った時、お母様に声を掛けたあの声だった。

お母様は私に構わず自分の注文をしていた。

「響ちゃんはどれにする?」

お母様が言うと男はようやく私の存在に気付いたようで、(私が気配を消していたのを解いただけなのだが、男はそれを知るはずもなく)「ごめんね」と謝った。

「あ……じゃあ――」

 そうして私はだし巻き卵とごはん、そしてお母様と同じおまかせ焼き鳥の六点セットとぶどうジュースを頼むと、店員は厨房に戻っていく。

「響ちゃん気配消してちゃ注文のしようがないじゃない」

お母様は店員が去った瞬間にそう怒られた。

「ごめんなさい」

私は謝る事しかできなかった。

 飲み物が来た時は怒るのは終わり、今まで殺し、関係を持った人達への愚痴に変わっていた。

「でさぁ、下手の何の。こっちはわざわざ地獄の前の天国を与えてやってんのに……あ、どうもありがとう」

店員は複雑な表情をして飲み物を置いて出ていった。店員が出た後もお母様も複雑な表情をしていた。

私は持ってきてもらったぶどうジュースを飲みながら適当に相槌を打っていた。

 なぜぶどうジュースなのかと言うと、ワインみたいで、というかほぼワインなので好きだからだ。 

 その後は私の仕事の愚痴も交えて、私達の飲み物のスピードは上がる一方だった。

 特にどんなセキュリティが突破するのが難しかったか、や、私はお母様の様に色仕掛けを仕掛けることもたまーにあるので、男女関わらずキモかった奴の話など、本当に多種多様な話をした。

 どちらともなく熱くなっていたのに気付いた私達は、おまかせ焼き鳥六点セット二つが来たと同時に恥を隠すため、飲み物を飲み干して二杯目を注文する。

 私のおまかせ焼き鳥六点セットにはモモ、レバー、つくねの定番の他、(せん)()だったり羽子板、ベラといった聞いたこともない部位も入っていた。

 食べたことのない焼き鳥の感想はこうだ。線胃は味は結構淡白で、ムチムチとした不思議な食感があった。羽子板は脂が少なめでこちらも淡白な味わいをしていた。ベラは砂肝と似た味で弾力があった。

 お母様の方を見てみるとこちらも定番の串が三本、マイナーなやつが三本だった。

「うーん、美味しいわね」

と、お母様は破顔していた。これでかなり様になるのがムカつく。

 更にしばらくしてごはんとだし巻き卵、私の頼んだすべてが届いた。

「響ちゃんってさ、変わったわよね。前まではこんな他所で出てきた食べ物なんて警戒しながら食べていたのに」

 あぁ、確かにそんなこともあったな。今では仲間を、ベレータを――もとい花咲学園のことを完全に信じ切っているのかもしれない。

「まぁ、それがいいことなのかと言われたら、分からないけどね」

お母様は酔っているのか(多分酔っていない)行儀悪くテーブルに腕をつけてそれにあごを乗せて言った。


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