die26話 世純先輩とお母様
その後、無事無理矢理安全運転にさせてお母様が普段過ごしているマンションに着いた。
私とお母様はマンションに入り、お母様の部屋に行く。
中に入ると私はリビングの床に寝転がった。
疲れた……。
「それじゃあ私は車を返してくるわね」
お母様はそう言い残し、また出かけて行った。
とりあえずスマホの通知を一つずつ確認していく。マナーモードだったため三人から返信が来ていたのに気付かなかった。
『三者面談どうだったヒビッチ? っていうか今日の授業参観すごかったよね! あれって確かかなめだよね? グラビアの
っていうかまた学生寮に居るの?』
これはアヤヤこと亜矢からの返信。
『それ聞いた響ちゃんって言っていたんだって? あの時世純先輩の帰りに遭遇した時あたしかなめのこと話したよね? その時どういう気持ちで聞いていたの? 三者面談お疲れ様ヒビッチあたしは明日だから寮の部屋に居るんだけどなんで寮に顔出さなかったの? 心配したんだけど
とまぁヒビッチを束縛するのも良くないのは分かっているんだけどさ暇だったんだから』
これはリリーこと琳からの返信。
『ヒビッチ塔弥様って何時からの面談か知っている? 私もうずっと前に終わっているんだけどさ一向に現れないんだよね』
これは確認しなくても分かる。もちろんユーユこと友実だ。っていうか彼女だけはお母様の話スルーなんだ。
『いいえ、今日はもう帰っています。お母様が来ました』
こういうメッセージ系のアプリを使うと私は事務的な事しか送れないのだから自分に嫌気がさす。それは恐らく私がメッセージ系のアプリを報告にしか使っていないことによる名残だろう。
『wwww ヒビッチのやつやっぱツボだわ wwww』
アヤヤこと亜矢がそう返信をして来た。
『そうですか。心外です。アヤヤ』
『ヒビッチってさこういうアプリ内だとアヤヤって呼んでくれるよねなんで?』
『確かにあたしも思ったそれ
でもお母様がかなめなのはもっと驚いたんだからね』
アヤヤこと亜矢とリリーこと琳から返信が来る。
確かに私はメッセージだとあだ名を気兼ねなく使うことが出来る。多分顔を合わせていないからだと思うけど。
『なんででしょう?』
さすがに顔を突き合わせていないから、とは返信しない。少し前だと目の前に居たとしても思ったことを言ってしまうと思うが。
『そっか…ヒビッチも分からないなら分かんないだろうね』
そう意味不明な文章を送ったのはユーユこと友実だ。
『そうだね』
『うん、ヒビッチも分からないならいいや』
しかも他の二人もなぜか納得しているし。
私はまだまだメッセージが来ているスマホを手放して、ソファーベッドに座りテレビを付けた。
テレビを付けるとそれはニュースで、有名な実業家が殺害されたというニュースが流れた。
それが果たして機関がやったのかそれとも関係ない第三者が殺したのか定かではないが。
いかに殺し屋と言えども誰が誰を殺したのかは情報屋と依頼主に対応した者(大体はその機関のボス)しか知らないが、もしくは殺した奴を探し出し、吐かせるかだが、普通はボスにしか報告しないため、それは難しいだろう。
丁度その時、扉がバタンと閉まる音がした。私はテレビを見つつも警戒を高める。
「あぁ、それね。私がやったのよ」
何者かはいきなり私の耳元でそう囁いた。
「そうか。ご苦労だったな、レーニス」
その何者か―――レーニスは私に後ろから腕を回して「なんであの人みたいなこと言うのよ」と愚痴を言う。
「私はあの方の娘だ。似るのは当然だと思うが?」
正直、機関に居る時にほぼ四六時中お父様の近くに居るレーニスに嫉妬を覚えたことがないわけではない。むしろ嫌いな部類に入るだろう。私には珍しく妬むこともしばしば。私もレーニスみたいな大人の女性になってお父様にくっついてみたいな、と思う。
お母様は私の隣に座って一緒にテレビを見て私と雑談していた。
「それで、響ちゃんは学校でお友達とどんな会話をしているのかしら?」
お母様は急にそんなことを訊いてきた。
「どんなって……」
私は記憶をたどるが、クソみたいな会話しかしていなかったように感じる。ユーユこと友実はいつもいつも塔弥という男子生徒のことに関して突っかかってくるし、アヤヤこと亜矢は私によく話しかけてきて授業が終わるとすぐ私の机でぐったりしてくるし、リリーこと琳はこの二人よりかは常識人寄りで面白い話ができない私の話にも笑顔で頷いてくれるし。私に関わって何がそんなに面白いのだろうか。と以前までの私は思っただろうが、なぜか今はその変なことに楽しいと感じるようになっていた。
この話をお母様にしたところでユーユこと友実の話には特にニヤニヤしながら聞くだけだろう。
「まぁ、至って普通の会話ですよ。普通の、クソみたいでバカみたいな。でも、私はその会話が好きなんです」
私の話にお母様は黙って聞いていた。
「そう、良かったわね。でも、長期休みに一時的に仕事に復帰するんでしょう?その浮かれている気持ちが足枷にならないといいわね。私は表向きで浮かれ過ぎて殺されたり捕まった人を何人も見てきたわ」
それに対して私はきりりと表情を作って。
「それは気を付けます。それはそれ、仕事は仕事ですから」
お母様はため息を零して言った。
「あのね響ちゃん、そうやって死んでいった人っていつもそう言っていたのよ。仕事だから。切り離して考えられます。って」
「そうなんですか。気を付けます」
「まぁ響ちゃんはまだまだ子供なんだから、助けられるなら私達が命を懸けてでも助けるし守ってあげる」
そう言ってお母様は私を抱きしめた。
「やめてください。それは」
ぽつりとそんな言葉が私の口から漏れ出した。お母様は身体を離して私の目をまっすぐ見る。
漏れ出たと気付いてからはもう遅かった。だから私は最後まで言葉を絞り出す。
「私が子供だからとか、命を懸けて守るとか、自分の命を投げ捨てようとするのはやめてください。お父様もそんなことは望んではいないと思います。それに、私は自分でこの道を選んだんです。確かに、ここに始めに来たことは私自身も望んでいなかったかもしれない。だけど、それは昔の私であって今の私ではない。長期休みに活動すると決めたのは紛れもない今の私。だから、それで死んだら今の私の責任です」
私の言葉にお母様は頷いて。
「分かった。でも、一応心配だけはさせて。今のあなたはもうあの人とあなただけの命じゃない。今のあなたを待っている人達が居ることを覚えておいてね」
そう言ってお母様はパンと手を叩いた。
「さぁ、こんな暗い話はこれでおしまい。響ちゃんの学校の話、もっと聞きたいな?」
お母様はさっきまでの心配そうな表情はどこへやら、今は笑顔になっている。
お母様、コードネーム レーニスはこの笑顔で標的を籠絡し、人気のない暗闇に連れ込み、そして殺す。その手法を使う殺し屋。スキル(技能)を一つしか持たないにも関わらず、一瞬にしてお父様の秘書的存在まで上り詰めた。彼女には怪しげな経歴があるらしいが、私はそれを気にしていなかった。正確にはよく知らなかった。何せ今は裏切っているから、だそうだ。お父様から直々に心配するなと言われたからだ。
「お母様、教えてください。世純先輩ってどんな人なんですか?」
私の言葉にお母様は首を傾げ、そして言った。
「いいけど、なんで?」
「私はその先輩から急に下駄箱に手紙を入れられました」
お母様はまぁ、とあら、を繰り返している。私はそれを気にせずに続ける。
「世純先輩は急に私のことを記憶喪失と一目で見抜きました。蓮山グループの社長を殺したときに変装したショウという人物、彼の事を調べている時に色々と気になる点がありました。教えてください。お母様、世純先輩とショウという緑山高校一年生、そして梓紗という世純先輩の幼馴染の事を」
私がそう言うとお母様は上を向いて目のマッサージをすると。
「そう、世純は私に似て察しがいいというかよく人を見ているのね。いいわ。教えてあげる。しかし、さすが情報屋いらずね。普通にハッキングして出てこないことも出してしまう力量に敬服しちゃうわ。世純の事だったわね、あの子には知っているとは思うけど、昔から蓮山家に仕えている山羊嶋という一家が居るの。それが亮真君と陽南ちゃん。その二人とは別に私の仕事の付き合いから神野と姫霧、姫霧は、っていうか阿須香は元々家に仕えていた山羊嶋家の人間で周囲の反対を押し切って女優になって、姫霧さんという俳優と結婚した。まぁ、響ちゃんが聞きたいのはそこじゃないわよね。その二つの家の子供がショウ君と梓紗ちゃんよ、この二人は世純の幼馴染。それで梓紗ちゃんの両親は今から十年前くらいに交通事故で亡くなった。トラックの飲酒運転だったらしいわ。その時はまだ私は蓮山の人間だったから知っているの。話を戻すわね。そのことがショックだったのでしょうね。梓紗ちゃんは記憶喪失になってしまった。世純も心配しているのでしょうね。二人はよくケンカしていたから」
「おい、いいのか?それ」
思わず話に割り込んでしまう。
「ん?それって?」
「いや、だからケンカ」
「あぁ、大丈夫。ショウ君を巡った女の戦いだから。響ちゃんも時が来たら女の戦いを経験するときが来るかもね」
なら、多分私はいつもレーニスとしているだろう。お父様。その方を巡って私はお母様と女の戦いをしている。
「あぁ、響ちゃんが女の戦いをするならどんな子をめぐって、どんな相手と戦うのかしら……?」
お母様は私の思いを知ってか知らずかそんなことを言っていた。
「お母様、話の続きを」
私が催促するとお母様は自分の世界から戻ってきた。
「要は亮真君と陽南ちゃん兄妹と梓紗ちゃんは従妹同士だということね。でも、梓紗ちゃんはそんなことも忘れているみたい」
「世純先輩とはどうなんですか?」
私はふと訊いてみただけなのだが、お母様は表情に影を落とした。
「世純とは……まぁ、そこそこ仲いいとは思うわよ?でも響ちゃんもさっき見たでしょ?山羊嶋家の皆は私のことを裏切り者だと考えているみたい。でも、あの家には今は稼ぎの半分くらいお詫びとして入れているんだけどね。世純とは、たまにだけど連絡を取り合っているの」
お母様は、ほらこれ、と言ってスマホの最新のメッセージ画面を見せてきた。それは何と昨日だったので驚きである。
『今学校とかどう?』『最近面白い子が転入して来て一瞬で亮真と意気投合したの
あの男意味不明なんだけど仲良くなれるあの子響って言ったかしら彼女も結構変わり者よね』『明日学校に行くわ。明日、三者面談なんですって?』『え?何で知っているんですか?』『新しい再婚相手の子がね。あなたと同じ花崎学園に通っているのよ。多分あなたが言っている子がその再婚相手の子だと思う』
と、メッセージが続いている。しばらくすると次のようなメッセージが送られてきた。
『お母様今日ホントに居たわね山羊嶋達に止められて話せなかったけど』『あの転入生本当にお母様の新しい娘さんだったわねっていうかお母様相変わらず運転下手くそね』
そのメッセージを見てお母様は苦笑する。




