die25話 三者面談も波乱の予感
教室に入り、こちら側にはお母様と私、向かい側には井上教師とあまり見ない副担任が座っていた。
井上教師は頬を赤くしていたが、副担任に横から肘で突かれたことで我に返る。
「え、えぇっと、響さんは転入して来てからというもの授業態度は良くも悪くもないですが、少しだけ自由にしている点が見受けられますね。現在の授業態度は少しずつではありますが改善してきています。体育は良い成績を残していると聞いています。ただ、他の授業同様少し自由な点が見られるようです。成績は始めの頃は余裕で赤点でした。でも、吞み込みが早いので徐々にではありますが、成績も伸びています」
ここまではお父様にこうちょーが報告していたことと一緒。
「あと、授業態度以外だと休憩時間にはお友達と仲良く過ごしています。ただ、A・A組の友実さんとはよく言い争っているようです。まぁ、思春期ですからね。皆には喧嘩をしても最後には仲良くなってほしいものです」
お母様は黙って頷きながら井上教師の話を聞いていた。
「そして、まだまだ先にはなりますが、高校はこちらの高等部をご希望でしょうか?」
「えぇ、そうですね。本人とはよく話し合ってはいませんが、私的には花崎学園の高等部に入ってほしいと考えています」
お母様が教室内に入ってきてから始めの失礼します以外に発言した。
「分かりました。では最後です。始め響さんが転入してから、お父様から届いた書類を確認させて頂いたのですが、小学校を中退したと書かれてあったのですが、何かあったのですか?」
井上教師はそんなことを訊いた。お父様そんなことが書いてある書類を学園に渡したのか。お父様は私をどうしたいのだろう。
そう思ったら思わず涙が出てきた。それを悟らせぬように私は下を向いた。
「はい、私はよく知らないのですが、実はこの子の実の両親が亡くなってしまい、それで今は主人に引き取られていて、私は主人と再婚しました。本人にはとても辛い思いをさせていたと思います。それで今の今まで学校に通わず、主人の仕事の手伝いをして生きさせていたと、主人からは聞いています。本人は両親が死んでからというもの、そういう話を聞かせるのは初めてだと思います」
そう言ってお母様は私の頭を撫でた。
お母様はなぜ私の出自をこうもべらべらと言うのだろう。殺し屋にとって情報は弱みになるというのに。
「………分かり、ました。思ったよりも重い話で驚きましたが、色々と納得がいきました。それで…全く関係のないお話なのですが、加奈芽さんですよね?握手してください!」
井上教師は勢い良く立ち上がってお母様に握手を求めた。
「あらあら先生、私はただ娘の三者面談に来ただけなのですけれど?」
お母様がそう言うが早いか井上教師は隣の副担任に思い切り足を踏まれていた。
副担任がこちらに早く行け、と言っている気がしてお母様が私の手を引いて教室を後にした。お母様は退室前に「失礼しました」とお辞儀するのを忘れない。
「あの……」
教室を出たところで私はお母様に話しかけた。
「お母様はなぜ私の出自をこうもべらべらと話したのですか?お父様も、私の出自の書かれた紙を送って…私を…どうしたいのでしょう?」
お母様は少し困った表情をして、言った。
「私達としては響ちゃんには社会復帰して欲しいと思っているわ。でも、私達の立場がそうさせないの。だから響ちゃんと世純が仲良くしてほしいか、っていうのと同じく微妙な感じね。あいまいでごめんね」
それを聞いた私は笑って。
「それを聞いて少しだけ安心しました。けどお母様達も安心してください、私は必ず戻ってきます。なのでお父様にそう伝えてください。お母様」
「そう、じゃああの人に伝えておくわね。あ、そうだ。響ちゃんこれから帰らない?久しぶりに」
お母様は急にそんなことを言ってきた。
「え、でもお父様が極力帰ってくるなって……」
「そう、あの人がそんなことを……。でも、極力なんだから別に一、二回なら大丈夫だと思うけど、それでも気にするなら私の家に帰る?」
暗い私の顔を見てそう提案した。私は顔を上げて。
「はい、そうします!」
私は笑顔で言った。
「あ、でも、車が……」
そう、そうなると問題が一つあった。それはここに来るために突っ込んだベンツ。
「あ~、ま、まぁ、校長先生にレッカー手配してもらえばいいでしょ」
そして結果は。
「は?ダメに決まっているでしょう。ここは自動車学校じゃなくて普通の学校なんですけど。っていうか相変わらず車の運転荒々しいですよね。あなたは」
こうちょー室に行って直談判するや否や帰ってくる言葉がそれだった。
「あ、あのね。私はそんなに毎日毎日車をぶっ壊すわけじゃないの。本職の時は普通に安全運転で運転するんですけど⁉」
「だったらいつもその普通に安全運転を心掛けてくださいよ」
こうちょーから正論を喰らったことでお母様は言い返せずに居た。
「はぁ、レッカーくらい自分で何とかしてくださいよ。本職のタレントと殺し屋の二重でお金があるんですから」
こうちょーはそう言ってお母様と私をこうちょー室から追い出した。
「で、どうしよう?」
「知りませんよ。では私はいつもと同じで寮に行きますから」
私が寮に歩き出そうとしたらお母様が後をついてきた。
「何のつもりですか?」
「響ちゃんがいつも過ごしている場所を見てみたいなぁって」
それに私はため息をついて手で大きくバツを作る。
「ダメです!」
「えぇ?何で?」
お母様が首を傾げながら言ってくるが、私は表情を全く変えず言い切る。
「目立つからです」
と。
「昔から響ちゃんって目立つの嫌がるわよね」
そりゃあ、殺し屋は目立ってはいけないとお父様に昔たくさん言い聞かせられたからな。
「まぁ、そりゃあ親が芸能人だと嫌っていうものです」
「うーん、それじゃあ何とかして帰らないとね」
そう言ってお母様は私の手を引いて出入口(お母様が車で突っ込んで出来た穴)に向かって歩き出す。
そこには業者に扮した機関の人間が数名待機していて、横には彼ら彼女らが乗ってきたと思われる車があった。
「それじゃあ、これ、乗って行っていい?」
お母様はその車を指差して彼らの返事を聞かず、車に乗り込んだ。
「ほら、響ちゃんも早く」
運転席の窓から身を乗り出して手招きまでする始末。
私はため息を吐いて、荷物を取りに行ってきますと言って寮に戻り、着替えを一日分持ってもう一度そこから出る。
私は周囲の視線に気付かないふりをして助手席に乗り込んだ。
「安全運転で頼むぞ」
シートベルトを閉めながら言った。
「任せて!」
そう言いながらお母様はアクセルを思い切り踏んで猛スピードで走らせた。
「安全運転で頼むといったはずだぞ!」
私はそう叫ぶとお母様からハンドルを奪った。




