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die23話 ユーユとの仲直りと「近接格闘技」の勧誘

 席に戻るとユーユこと友実がこちらを見て立ち上がった。

「「ごめんなさい!」」

私とユーユこと友実はほぼ同時に頭を下げた。

「え?」

ユーユこと友実はそう素っ頓狂な声を出した。

 私は料理を置いてからもう一度ごめんなさいと頭を下げる。

「ほら、ヒビッチも謝っているんだから許してあげたら?」

アヤヤこと亜矢が言うとユーユこと友実は「むぅ」と言いながら口を尖らせるが、やがて少し笑って。

「うん、私もごめん、塔弥様の事で頭がいっぱいでひどいこと言っちゃった」

ユーユこと友実が言い終える前に私はもうそばをつゆに入れてすすっていた。

「え?ねぇねぇ何してんの?」

「ん?何って、食べているんだ……」

私はそう言ってもう一口そばをすする。

「ね、ねぇねぇヒビッチ、まだ話終わっていない内から食べるのやめた方がいいよ」

アヤヤこと亜矢が私をツンツンとつついて言った。

「そうか、ごめん……」

私は口の中のそばを水で流し込んで謝る。

「ねぇヒビッチ、さっきの口調、塔弥様に絶対にしないでよ?」

「ん?それは先生にしかするつもりはないが……」

私が言うとユーユこと友実がホッと息をついた。

「良かったーーーーーーーーーー‼」

「うるっさ」

その後にユーユこと友実はそう大きな声を出して、アヤヤこと亜矢に耳を塞いだまま言われていた。

 私とリリーこと琳は完全に他人のふりをして黙々と食べ進める。私は普通に黙って食べていただけなのだが、恐らくリリーこと琳は違うのだろう。

「ごほん!」

 その時ふと咳ばらいをする声が聞こえたのでそちらを見ると、制服の袖に何かを付けている眼鏡をかけた女子生徒が立っていた。

「さすがにうるさいので、退室するか、黙って食べるか、どちらかにしてもらえますか?友実さん、ここ最近騒ぎすぎだと思います」

「まぁまぁ、鵜飼(うかい)さん、そこまでに……」

 鵜飼さんと言いながらその生徒の後ろから出てきたのは、私達とほぼ同じ背丈のいい年した大人のこうちょー、ベレータだ。

「校長先生、あなたは生徒に対して甘すぎます。そんなんだから生徒にロリババア校長先生と舐められるんです」

「うっ、鵜飼さん、言っていいことと悪いことがありますよ」

「はぁ、それを言う前に何とかしてくださいよ」

「何とかなるならもっと私は高身長なんですよ!」

 そのままこうちょーと鵜飼さんと呼ばれていた生徒が二人で話し出した。

「まぁ、この話はまた後日、友実さん、分かりましたら騒がず食事をしてください。あなたのお姉さんはそんなことしませんでしたけれど、唯一あるとするなら、そう、彼氏がどうとか言っていた時と同じですね。では」

そう言って鵜飼さんと呼ばれていた生徒は眼鏡をカチッと動かした後、こうちょーとどこかに行ってしまった。

「あの人、誰だろう?お姉ちゃんのこと知っているみたいだったけど……」

「校長先生に訊いてみたら分かるかな~?」

 鵜飼さんと呼ばれていた生徒が見えなくなると、ユーユこと友実とアヤヤこと亜矢は二人して首を傾げていた。

 その状況でも私は動じず、黙々とそばをすすっていた。別に殺し屋時代を意識しているわけではないが、面倒な事や予定外のことなどには無意識に気配を消してしまうようだ。これは反省。

「これ、食べにくいね。夜にすべきだったかも……」

 リリーこと琳がそう言うと同時、アヤヤこと亜矢の持つ端末が完成を告げるブザーが鳴った。

「えぇ~、やだな。私も失敗したかも~」

アヤヤこと亜矢はそう言って料理を取りに行った。

「私は見ているだけでもうお腹いっぱーい」

ユーユこと友実はテーブルで伸びている。

それを見てリリーこと琳は笑っていた。

「うーん、これ、食べられなくはないけど、ちょっとやり過ぎたかもな」

「へぇ~、一口食べたいけど食べられないからな。でも、一口だけならいいかも?一口ちょうだいリリー」

 ユーユこと友実は口だけ開けてまるで小鳥の様にしていた。

リリーこと琳はため息をついてレンゲに赤いスープと麵を入れてユーユこと友実に差し出した。

「?」

ユーユこと友実は首を傾げていたが、リリーこと琳はそれにまたため息をついてレンゲを差し出した。

渋々といった感じでレンゲを受け取り、意を決したようにそれを口に含んだ。

 あぁ、ダメだな。毒でも塗られていたら……と以前までの私は思っていただろう。

 口に含んだ後、ユーユこと友実は急に涙目になり、奇声を上げた。

「そんなになのか?私にも一口くれ……」

「え?あ、うん。友実でも一口で駄目だったんだよ。気をつけてね」

「私を誰だと思っている……?」

 それが私の最後の言葉だった。

 おかしい。私は元殺し屋リリィ、どんなものも訓練されていたはずだったのに。心は一か月で変われても、味覚など長年にわたり訓練されてきたものはたった一ヶ月で変われるはずもないはずなのに。所詮私は子供舌だったということか。さすがに自分の本来の舌まではごまかせないらしい。変装している時は不思議と食べられるんだけどな。

「あれ?二人共、大丈夫?殺人現場?」

「あぁ、アヤヤ、これヤバイ。一口食べただけで二人共こうなっちゃった。明らかヒビッチのは一口じゃなかったと思うけど」

「えぇ~、リリーは大丈夫だったの?」

「あぁ、うん、家でよく辛いお菓子食べているからかな。でもあたしでも食べきれるか分かんないよ。さすがに」

「えぇ~、食べるの怖くなってきちゃった」

 そこで私は復活した。

「はっ、ここは……」

「あ、ヒビッチ復活した~」

アヤヤこと亜矢の声で私は今の状況を理解した。

「ここまで記憶が飛んだのは去年の初め以来か……」

 ここまで呟いたところで私は自分の失言に気付いた。恐らく私の呟きが聞こえていたのだろう。二人の目の色が変わったのが分かった。

「ア、アヤ…ヤ…は食べなくていいのか……?」

「ん?食べるよ~でも、ヒビッチ、何か面白そうなこと言っていたし、それを聞きたいな」

「早く食べないと伸びちゃうぞ」

私がそう言うとアヤヤこと亜矢はヤバイ!とか言って食べ進めた。

 ふぅ、アヤ…ヤ…が簡単でよかった。

 私はホッと息を吐いた。さてと次は。

「人には誰だって言えない秘密のようなものを持っている。それは私にだって例外じゃない。それを無理に訊くのはいかがなものかと私は思うが……?」

それに対してリリーこと琳はごめんねと謝った。

 ここに一か月近く居てこいつらの転がし方と言うかが分かってきていた。アヤヤこと亜矢は単純だから目の前のことに集中させてやれば良い。対してリリーこと琳は割と常識人なので、正論を言ってやれば大体折れることが分かった。そしてこいつらを含めて見知らぬ人にはこちらが折れて、というか弱みを見せてやれば相手の懐に入り込みやすい。以前は自ら弱みを見せるなんて……と驚いていたが、今は殺し屋うんぬん関係なく人間関係を築くにおいて大事なことだと思った。

 私達が食べ終わって席を立つと、なぜか私達の周りにわらわらと人が集まってきた。私は思わずアヤヤこと亜矢の後ろに隠れる。当の本人は「ヒビッチかわいい……」と上を向いて魂が抜けたかのように固まっていた。

「えっと…あたし達に何か用?」

リリーこと琳が警戒気味に言った。これは分かる。一般人でも警戒するレベルだろうから。

「あっと、ごめんね。私達はその響って子に用があるの」

 その中の一人がそう言った。

「私?」

私は自分を指差して首を傾げる。

「そう、君。お願い、「近接格闘技」に入ってください!」

リリーこと琳を警戒させた女子生徒が頭を下げた。

他の人達もその女子生徒に続いて「お願いします!」と頭を下げた。

「ダメー!」

女子生徒に続いて他の人達が頭を下げた途端、いつの間に復活していたユーユこと友実がいきなり声を荒げた。

 その声に私とアヤヤこと亜矢とリリーこと琳以外がビクッと驚いた。

「ヒビッチは「近接格闘技」以外を選ぶの!塔弥様と一緒なんて許さない!」

「そう言えば塔弥君がユーユのことかわいいって言っていた気がする」

 急にアヤヤこと亜矢がそんなことを言った。

そしてそれを聞いたユーユこと友実は目をキラキラさせながら食いついた。

「ホント⁉」

「う、うん、気のせいだったらごめんね」

アヤヤこと亜矢が目を泳がせながら言った。ユーユこと友実は見えていなかったようだが。

 それにしても塔弥という奴、そんなこと言っていたのか。と思ったがすぐに嘘だと気付いた。目が泳いでいたし。ユーユこと友実は基本的には塔弥という男子生徒の話題にしか食いついてこないので、それだけ気を付けていれば安全なのだが、なぜか私にだけは会う度に何かと因縁をつけてくる。アヤヤこと亜矢とリリーこと琳の話では今までも塔弥とかいう男子生徒に近付く生徒を牽制していたようだが、私のように会うたびに因縁を付けてくるのは初めてのようだ。どちらにしろ面倒くさいのは確かだし、これは私にはどうにもできない。

 教室に戻っても「近接格闘技」を選択しているというクラスメイト達が私の席に群がって必死に「近接格闘技」のアピールをしていた。

 そして私は押しに負けて用紙に「近接格闘技」と書いて提出したのだった。


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