die21話 選択授業の後で
こうちょー室に入るとお父様を含め、選択授業の講師がこうちょー室でくつろいでいた。
まぁ、お父様が居るからか他の皆はぎこちない感じになっているが。
「皆様、今日もお疲れ様でした」
するとこうちょーがそう語り掛けた。
「はぁ、相変わらずあなたは無謀というか、勇敢というか、まぁ、私達は本部で仕事をしていますからボスの威厳、と言いましょうか、は大丈夫ですが彼女は支部勤務でしょう。ガチガチに緊張しているじゃないですか」
サレックの言う通り私の所属していた機関を含め多くの殺し屋の機関は一つの本部と少なくとも二つ以上の支部に分かれて殺しを行う。今は引退したが私とサレックとこうちょー、もといベレータは本部で働いている。要は幹部クラスしか本部に出入り出来ないことになる。
「へぇ~、こいつは支部なのか」
私はちゃっかりお父様の座っている隣を確保した。
「あ、リリィ様……」
「良い良い。リリィ、ここでは順調か?」
ベレータが何か言おうとしたが、ボスがさっき選択授業の時の厳しめな声ではなく優しめの声でそれを遮る。
「それで、君も順調か? タガエロ。私は支部の方までは支部長の報告しか聞いていないからな」
タガエロ、それが目の前の緊張している女のコードネームか。しかし、一体誰がどうやってコードネームを考えているのだろうか。とても気になるがお父様に訊いても教えてはくれないだろう。
「は、はい、色々と」
タガエロはガチガチに緊張して声が裏返っていた。選択授業の時に見せていたカッコイイような雰囲気はどこへやら。
「リリィが「近接格闘技」のコースで一般人をヤッたと聞いたがその子は大丈夫なのか?」
「うっ」
私はソファーのはしっこで小さくなる。
「はい、今では元気ピンピンでリリィ様に対してライバル意識を燃やしています。あのボス、その言い方だと語弊が」
「そんなことはどうだっていいのだ。リリ、いやここは響と呼ぼう。なぜ端で小さくなっているのだ? 響だってわざとではあるまい?」
お父様は私の方を見てその膝に乗せてくれた。
「親バカってやつですか? ボス」
「ベレータ! はぁ~、申し訳ありません。ボス」
サレックがどこかニヤニヤしているベレータを怒り、代わりに謝る。
「ねぇタガエロちゃん、近頃本部に移転だったっけ?」
そのベレータは気にした様子もなく、タガエロに話しかける。
「あ、えと、予定、ですが」
「そっか、リリィ様が教えていた私が教えたんだから、きっと大丈夫」
こうちょーは私にお茶を出しながらそう笑っていた。
「それはリリィさんに失礼じゃないですか?」
「響よ。ケーキ食べるか?」
「あ、ダメですよ。響さんは今はうちの学校の生徒なんですよ。勝手に甘やかさないでもらっていいですか?」
ベレータはそう言ったが当の私と言えば。
「あ、あの、私のこと、嫌いじゃないんですか?」
と、上目遣いでお父様に言ったのだった。
「なぜだ? あぁ、授業の際の私の態度か? 済まぬな響、私達の関係は誰にも知られてはならない。だがお前は寂しかったのだな。済まなかった」
そう言ってお父様は私を抱きしめてくれた。
「お父様、ケーキください」
私は飛び切りの笑顔で可愛い娘全開でお父様におねだりした。
お父様は笑顔を返してショートケーキを切り分けて私の口元まで運んでくれた。
「ダメです」
いきなり横から手が伸びてきてお父様からケーキのお皿を取り上げた。
そちらの方を見ると未だおじいさんの変装をしているサレックがそのお皿を再びお父様の前に置いた。
「サレックの言う通りです。うちのやり方というものがあるのですからそれに従ってもらわないと。いくらリリィ様が響さんだろうと特別扱いはできません。例えあなたの娘さんだろうと」
こうちょーはサレックに続いてお父様に対して机をドンと叩いて言い返した。
最悪の場合殺されるぞ。と思ったのだがお父様の反応は。
「申し訳なかった。私も響に会えて浮かれていたのかもしれないな。済まぬ響、一般人を機関に入れるわけにはいかないのだ。だから次会う時はいつになるか分からない。あぁ、そうだ。話は変わるが長期休みの件だが、まだ難航していてな。決まるのはかなりギリギリになるかもしれない」
お父様は申し訳なさそうに私の頭を撫でた。
それに対して私は「大丈夫ですよ」と笑ってみせた。
「そうか、いい子だな響は。気晴らしにお前の報告を聞こうか」
お父様の言葉に私は首を傾げる。
「大丈夫だ。では代わりにベレータ、報告してくれるか?」
お父様に言われてベレータは「はい」と言って立つと報告? を始めた。
「リリィ様、響さんはボスの指示通り現在中等部一年A組に在籍しています。クラスはこちらで勝手に決めさせていただきました。彼女の担任からの話によりますと、転入当初の授業態度は良くも悪くもない。でも悪い寄りかな、と言っていましたが、現在の授業態度は少しずつ改善してきているようです。体育は当然良い成績を残していると聞いています。ただ、少し自由な点がみられるようです」
うっ、そんなことをしていたのか、ベレータの奴。
私がそう思っている間にもこうちょーの報告は続いていた。
「成績は始めの頃は余裕で赤点でした。でも、吞み込みが早い。ここはあなたとお友達の影響が大きいのでしょうね。徐々にではありますが、成績も伸びている。と聞いています」
「うむ、拾った頃から殺しの事しか教えていなかったが、ここに転入してからたった一ヶ月ちょっとでここまで勉強についていけているとは、私も正直少し驚いているよ。しかももう友達もできているとは、機関では大人に囲まれて育ったからな。同世代の子供達に囲まれることは響にも良い経験と影響をたくさん与えてくれたのだな」
私はお父様に拾われた時の話をしているところを聞いたことがなかった。多分昔お父様に散々言ったことを気にして今まで言っていなかったのだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「申し訳ありませんでした」
「ん? どうしたのだ? いきなり謝って」
私が謝るとお父様はそんな風に言ってきた。
「私が機関に来た当初、お父様に……ひ、ひどいことを言ってしまった件です」
私が言うとお父様はその伸びたままの無精ひげを触りながら考え込む。
「あぁ、あれか。あの時お前は一般人と言っても良かった。だからあの反応は当然だろう」
そう言ってお父様はあの時は懐かしかったなと笑った。
それを聞いて私もほっと胸を撫で下ろした。
「あの、リリィ様のその時のお話、聞きたいです」
ベレータが急に話に割り込んで来た。
「ベレータ! すみません」
サレックが謝るがお父様は少し考えこんで。
「私は別に良いが、当の本人が良いと言わなければ私の口からも言えないからな」
「あ、あの、私も聞き、たいです」
お父様が私の方を見て言う。するとタガエロも遠慮がちだが聞きたいと申し出た。
「どうだ? もちろん強制はしないからお前の意見を聞かせてくれ」
お父様が私の頭を撫でながら言った。
「私は……」
目をキラキラさせながら近づいてくる二人を手でガードしながら、私はため息をこぼしながら頷いた。
「それで、お父様どっちが説明します? 私はお父様に拾ってもらう前の事は覚えていないんですけど」
「いいのか? お前にとっては辛いことを思い出してしまうかもしれないぞ?」
男の方はというと、私が来る前はどうか分からないが、少なくとも私が来てから緊張からかずっと下を向いて動かない。いや、時々お茶を飲んではいるのだが、今の今まで一言も喋っていない。
「決めた。私が言おう。響よ、お前はこんな所で喋っていていいのか?やることはないのか?ないのならいいが」
「そうですね。響さんは今日中に提出しなければならないプリントがあったはずです」
お父様が言うとベレータがそれに続く。
「そうですね。では私はこれで、失礼しました」
私は一礼してこうちょー室を出る。
「では、説明しよう。リリィに聞かせないのは記憶を思い出して我々を裏切るのを防ぐためだ」
最後にお父様はそんなことを言っていた気がした。




