die20話 選択授業⑤
そうだ。亮真だ。亮真。思い出した。確か世純先輩の執事兼ボディーガードの元殺し屋の家系の奴だったような。
「あ、いえ、知り合いというほどじゃなくてですね。あの時お嬢様がお料理を取りに行っている時に少しお話をしただけでして」
世純先輩は試合中だったようでマット内にもう一人体操着を着ている女生徒が居た。
彼女は試合中に私という部外者が入り、不機嫌そうだ。
「せっかくのお嬢様と模擬戦中だったのに……」
と、口を尖らせている女生徒。
「陽南、わがままを言わない。僕達は世純お嬢様の護衛なんです。その僕達がわがままを言ってしまうとお嬢様が困ってしまいます」
「じゃあもう戻るわね。陽南、続きよ続き。今度は手加減じゃなくて本気で来なさい」
そう言って世純先輩はマット内に戻る。
それを聞いて、陽南と呼ばれた女生徒は驚いたように目を見開く。
それを横目で見ながら私は見学に戻った。
「ところで響さん、先程からずっと気になっていましたが長袖で暑くないですか?すごい汗ですよ」
そう、私の服装は長袖体操着だった。だから私は顔中から汗が噴き出ていた。
「だって肌なんてそんな無防備な箇所を見せるバカがいるか……」
「そうだとしても、今は夏も終わりに差し掛かってはいますが、まだまだこれからも暑くなりますよ。熱中症なんかにでもなってしまったら私は一体どう責任を取ればいいのですか⁉」
こうちょーがそのように慌てだしたので、私は仕方なく長袖の体操着を脱ごうとしたところで思い出す。
「そう言えばこの下普通にシャツだ……」
私がそう言うとこうちょーは急いで私を更衣室に連れ込んだ。
「はぁ、なぜ下に半袖短パンの体操着を着ないのですか?まぁ普通こんな時期に長袖長ズボンなんて着ないんですけどね。下に着るなんてもってのほかですが……ほら、着替えを手伝って差し上げますから急いで戻りますよ」
更衣室でため息を吐きながらこうちょーは私の着替えを手伝ってくれた。
何分かして私の着替えが完了し、体育館に戻ってきた。
そして、見学に戻ろうとしたところでこうちょーが体験を提案した。
そう、体験だ。他の所でも一通りは体験をしている。まぁ「野外訓練」はユーユこと友実のせいでまともに見ることもできなかったが。
担当だという女は驚いたような顔をしていた。
「ど、どうぞどうぞ」
一方こうちょーはきらきらした顔で私を見つめていた。
「では響さんはフリーのマットでやりましょうか。あ、ほどほどでお願いしますね」
こうちょーが最後何か言っていたが、私はこうちょーが指し示したマットに向かって歩いて行く。
「ここでいいのか?」
私はこうちょーが言った場所だと思うマットの横に立って訊く。
「そうです、そこです。よね?」
こうちょーが横に居る女に訊く。
急に不安になってくるのだが大丈夫なのだろうか。
そしたらこうちょーが腕を使って大きく丸を表現した。良かった。合っていた。
私がそこに行くともう人が一人立っていた。
「君が新入生で見学者でしょ。校長先生そういうところあるから、でも手加減はしないぜ。先輩としてのプライドってのがあるんだからな。君も遠慮なく来ていいよ。まぁ絶対に俺が勝つだろうけど」
その先輩は高等部だと教えてくれた。私は知らなかったが、どうやら花崎学園では「近接格闘技」の種目では先輩がまず先輩として新人の後輩をボコるのが昔からの風習らしい。こうちょー大丈夫か?
「よろしくお願いします」
先輩がお辞儀をする。とりあえず私もそれを真似してお辞儀をした。
「俺は空手でいくけど、君は何でもいいよ。それじゃ先生、合図をお願いします」
恐る恐る女が前に立って開戦の合図を出した。
合図が飛んでから先輩の方を見るとその場から動かず、余裕の笑みを浮かべていた。
なるほど、まずは様子見か。私の出方を見ているのだろう。
私はゆっくりと先輩の方へと歩いて行く。先輩は首を傾げていたが私は先輩の前に来るとその腹に容赦なく拳を叩き込む。そして次に跳んで相手の顔面に回し蹴りを決め込んだ。
すると相手は軽く吹っ飛んで頭から床に着地した。
軽く手加減したつもりだったが、かなりまずかっただろうか。
「あ、あの、響さん?」
振り返ると女は開いた口が塞がらない様子で、こうちょーは苦笑いをしながら私から目線を外した。
周りの生徒は女と同じで開いた口が塞がらない様子でこちらを見ていた。
「す、すげぇ!」
誰かがそう言うと徐々に皆も状況が理解できて来たようで、歓声を上げる者、先輩の心配をする者など各々違う反応していた。
「と、とりあえずこの人は医務室に連れていきます」
女は男を立たせると共に医務室に向かった。
「響さん……これは……」
やり過ぎた? もしかして。
「すごいです! 今までの歴史を覆すほどの成績ですよ!」
思っていた反応とあまりにも違い過ぎたので私は今、とても困惑している。
「…………」
「ねぇねぇ、今のどうやったの?」
「あの先輩を吹っ飛ばしたよね?」
こうちょーとの会話が終わるとたくさんの生徒に囲まれていた。助けを求めるようにこうちょーの方を見た私だがこうちょーは笑顔でどこかへ行ってしまった。あとで覚えてろよ。
選択授業の時間が終わってから十数分後、私は地獄の受け答えから解放された私は、急いでトイレに逃げ込んだ。
他の人が居なそうな時を狙ってトイレから出た私はたまたま(恐らくずっと私が出てくるのを待っていたのだろうが)近くを通ったこうちょーに案内され、こうちょー室に向かった。




