die19話 選択授業➃
ふと、ボスがこちらを見たことで、私は正気を取り戻した。
そして、これは今気が付いたことだが、私はどうやら殺気が微量だが、漏れ出ていたようだ。
そして心なしか、ボスは私を睨んでいた気がする。
私が一番前に来ると周りから注目が集まった。
未だ視線に慣れない私だが、何とか今はそれを意識の隅に追いやり、拳銃を的へ構えた。
周りが息を吞む中、私はそのゆっくりと引き金を引く。
バン!という大きな音がして周りは大きく口を開くだけで、何も言わない。
撃ってみて分かったが、どうやら弾はゴム弾のようだ。まぁ、実弾では誤って人に撃ってしまえば殺しかねないからそうならないための処置だろう。
その時テンポはゆっくりではあるが、拍手が聞こえた。
私がそちらの方を向くとボスが拍手をしていた。
私は思わず泣きそうになったが、グッと堪えて「ありがとうございます」とお辞儀を返した。
ボスはゆっくりとこちらに歩いてきた。
その時、リリーこと琳がボスに質問をした。
「ヒビッチから聞いたんですけど、ヒビッチのお父さんは自衛官をやっているって聞きました。どの部署なんですか?」
本人からしてみれば小さな疑問だったのだろう、だが私からしてみればボスがそんな質問なんかに口を開かないということを知っている。
「誰から聞いたのかね?それは、だが私は自衛官の履歴は持っていない。正しくは元軍人だ。そんなことはいいから早く並びなさい」
結果はまさかの普通に答える、というものだった。これはちょっと予想外だった。
「なーんだ。ヒビッチ、自衛官だって勘違いしていたんだ」
するとリリーこと琳は言って笑った。
あぁ、これは死んだな。と私が思う中、ボスが「いいから黙って並んでいなさい」と声を上げた。
「はーい」
と、リリーこと琳は元気のない返事を出して黙って前を向いた。
私はそれに驚いた。
そして私は、いくつかの銃などを試した後、こうちょーにそろそろ時間だと言われ、その場を後にした。
なお、こうちょーとボスは私が列に並んでいたり撃っていたりしていた間、二人で何かを話していたが、夢中になっていた私がそれに気づくことはなかった。
次の「近接格闘術」の種目は体育館でやるらしく、私達が移動している時にこうちょーが話しかけてきた。
「あの方から伝言だそうです。選択授業の後、校長室に来るようにと。何が始まるかは私も分かりませんが、絶対ろくでもないことですよ。それかリリィ様案件でしょうか?」
「分からないが、あの方が言うのなら行こう。久しぶりにお話したいし……」
つい私はこうちょーから目線を外してぼそっと呟いた。
それにこうちょーがくすくす笑ったので私は軽く睨む。
体育館に行くには、まず校舎の中に入らければならなかった。少し遠回りにはなってしまうが、確実な道だ。ちなみに外からでも入れるらしいが、内履きもない状態で入ることになるので結局玄関まで戻って内履きを取ってこなければならないため手間だ。
殺し屋時代でも遠回りだが確実な道をよく取っていた。近いからといって急ぐとターゲット(標的)に感づかれてしまう恐れもあるし、何よりそれ以上に危険が伴うからだ。
学園から支給された運動靴から内履きに履き替えると、体育館に向かった。
体育館は広く、今はマットが所々に敷かれていた。私もたまに体育で使ったことがある。
マットを二枚つなげてある一組のエリアの中で二人一組で蹴りや殴りで戦っていた。
体育館の中にあるエリアは等間隔にざっと十以上置いてあり、それぞれの上で裸足になって戦っていた。どうやら見たところ、エリアの外に出ると問答無用で負けになるらしい。エリアの外に押し出されたり、足が出ると参りました。と礼をするのだ。
「「近接格闘術」の種目はその名の通り……近接格闘術を学ぶことができる種目です。……はい」
こうちょーは少し考えた後、何かを放棄したかのようにそのままの説明を終えた。
「お勤め、ご苦労様です」
少し歩いた私達だが、こうちょーは腕を組んで壁に寄りかかっていたジャージ姿の女に声を掛けた。
「え? ふええ、お疲れ様です」
その女はこうちょーの言葉から数秒後に反応し、すこし驚きながらも返事を返した。
「彼女は私の部下でして、私と違って実行犯なんですよ」
そうこうちょーは自分のことの様にノリノリで説明を終えた。
「あ、あの、さすがに一般人の前でそういう説明は」
「そうだぞ。聞かれていたらどうするんだ?」
女と私はほぼ同じタイミングで同じようなことを言った。
「大丈夫です。いざとなれば……むぐぐ」
その時、女はこうちょーを後ろからその口をふさいだ。
こうちょーは女の手をぺちぺちと叩いて解放を望んでいた。
「ていうか、一般人ってあなたですよ。生徒さん」
こうちょーを解放しながら女は私の方を向いて言ってきた。
私が周りを見渡してもそれらしい奴は見つからなかったので、私は首を傾げる。
私が首を傾げるのを見て、女は、はぁ~、とため息をつく。
「その方はリリィ様ですよ」
女にこうちょーが小声でそう伝えた。
「え?噓?」
女は明らかに様子がおかしくなった。
「さ、さて、見学させていただきますね」
こうちょーはそんな女をスルーして私の手を引いて見学を始める。
「なぁ、ここではあいさつしなくていいのか?」
こうちょーに連れられている間、私はふとそんなことを訊いた。
「確かにそうですね」
私は苦笑いを浮かべ、手を叩いて声を上げた。
「では皆さん、集まってください」
私の女の声を完コピした声に組手をしていたり、休憩していた奴らが中断して続々とこちらに集まってくる。
「えっと…この人は新入生の響さんで…」
それに気が付いた女は軽く慌てて、でもすぐに落ち着いて、でもちょっと緊張かまだ少し慌てているのか声がちょっと上ずって、声を一つずつ絞り出していく。
女はちらりと私を見て、私はため息をついた。
「響です。よろしくお願いします……」
さすがに三回目ともなれば慣れてくる。私は背筋をピンと伸ばしてあいさつをした。
すると、前から拍手が送られる。
「で、では、リ…響、さんは「近接格闘技」のことはこの人から聞いておりますか?」
やけに緊張している女は私にそう訊いてきた。
「いや、あまり」
正直に答えると女は緊張しながらも、「近接格闘技」のことについて教えてくれた。
どうやらこの「近接格闘技」はただ殴る蹴るしているわけではなく、きちんとエリアを複数に分けてそのエリアにあるマットごとに型があるようで空手や柔道、キックボクシングなど、様々な競技をしているそうだ。私にはまったく違いが分からないが、そういうものなのだろう。更に「近接格闘技」に配属される者は何かしらの競技の経験者という共通点があるらしい。
そういった説明を受けた私は相槌を打つ。
「他の二つでは体験もして来たそうなので、ここでも体験、してみます?」
女はぎこちない笑顔を浮かべて言った。
私が適当な所に入ろうとしたところ、声が掛かる。
「あれ、そう言えば響ちゃんは見学だったね。良かったら僕を見ていてよ。知っている人を見ていた方が響ちゃん的には正直楽でしょ?」
その声の正体は塔弥という男子生徒だった。
「そうだな。だが少し考えさせてほしい……」
塔弥という男子生徒にそう言って私は体育館をぐるっと一周することにした。
こうちょーは黙って私に付いてくる。
そして更に見知った顔を見つける。
「げ…」
そのように私に対して怯えた顔をしている彼は、私が来た初日の夕食の時ユーユこと友実の髪を引っ張った奴である。
(誰だっけ?)
まぁ、私自身は忘れていたのだが。
私は首を傾げる。
その彼は私をチラチラと見てはいるが、目の前の相手にも集中しているようで、勝敗は未だ付かずといった感じだ。
ここに居る見知った顔はもう一人、今は体操服に身を包んでいるが、相も変わらず胸部の主張が激しいのは世純先輩である。
「お久しぶりです」
世純先輩の近くの壁を見るとこれまた見知った顔があった。気配を抑えているのか、それとも別の理由があるのか周りの人達は彼に気付いた様子はなかった。
名前は確か……。
「どうしたのよ亮真、その子と知り合いだったの?」




