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die1話 初めての友達 初めての学校生活

 一週間後、私は花咲学園に向けて、足を運んでいた。そして、何分か歩いた後、一際大きい建物に目を向ける。

 花咲学園には、学園に隣接している高級マンションのような高い建物がある。これが学生寮の様だ。私は今日からここで暮らすことになる様だが、今一度実感が湧かない。

「ここが、花咲学園か」

私は「よし」と、自分の頬を叩いて学園内に侵入する。いや、違うな、学園内に入る。

 さてと、まずは職員室と呼ばれる場所に行くんだったよな。と、心中で呟きながら、私はその職員室と呼ばれる場所を探していた。その時、背後に何かの気配を感じ取った私は、振り返り気配の主に向かって手を突き出す。

 その気配の主は驚きの表情を浮かべ

「ど、どうかしましたか?」

相手は動揺の声色を隠せてはいない様だった。

 私はどうしてしまったのだろう。最低限のマナーも守れないなんて…一応、殺し屋にもマナーというものが存在する。

罪なき一般人を殺さない。攻撃しない。威嚇(いかく)しない。この三つのマナーのもと、私が所属していた機関の殺し屋は動いていた。

「す、済まない」

とりあえず私は謝罪をする。私は、敬語ができない人間なので、敬語を使えと言われてもどうすることもできないのが現状だった。

「あ、あの……見ない顔ですが転入生、だったりしますか?」

「あ、はい、(ひびき)と…いいます……」

 まぁ、この響という名は偽名だ。そもそもとして私は、本来の名前を一切覚えていない。私は機関にいた時、ボスのことをお父様と呼んでいた。だがボスは、私の実の父親ではない。だがまぁ、育ての親であるため一応はお父様ということには間違いないだろう。

「あ、自己紹介が遅れましたね。僕の名前は井上といいます。一年A・C組の担任です」

「い、一年…A・C組?私の…教室……」

「え、えっと響さんでしたっけ?一年A・C組はあなたの教室ではありませんよ?あぁ、なるほど――」

 その井上と名乗る男は何か分かった様子で頷き、私の手を引き、どこかへ向かおうとした。

「響さん。一年A・Ⅽ組はこっちです」

「その…私、教室に行きたいんじゃ……」

「では、どこに行きたいんですか?」

井上と名乗る教師はそう()いて、ようやく私の腕を離した。

「しょ、職員室……」

「え、職員室なら、ここですが」

 私が辺りを見渡すと目の前の教室には職員室と書いてあった。私は恥ずかしさのあまり死にたくなった。

 だからと言ってここには武器すらも持ってきていない。機関から追い出される際に武器はいろいろ取り上げられ、持ち出すことさえも許されなかったからだ……。

私は井上と名乗る教師に案内され職員室に入った。

「では、本校を志望(しぼう)する理由を教えてください。本来ならば保護者にも来ていただいて質問するのですが、生憎(あいにく)とお忙しい様なので、響さんのみにお聞きしますね」

え、死亡(しぼう)?普通の学校ってそんなこと聞くのか?全然普通じゃない。

「し、志望(死亡)理由……?」

 刺殺…とかでいいのかな?と、私はそんなどうでもいいことを考えていた。井上と名乗る教師は少し悩んで

「志望理由を……えーでは、質問を変えましょう。本校に入るにあたって大事だと思うことを教えてください」

「え、えぇーっと……」

 今度はちゃんと答えないと…そう思うほど言葉が出てこないのが身に染みて分かる。えーっと、大事だと思うこと、何だろうか

「他の人と仲良くすること…とか……?」

その言葉が咄嗟(とっさ)に出てしまった。まだ殺し屋をやっていた時、機関の人間と共に任務をこなすこともあった。その時に必要なのは多少の〔チームワーク〕と昔お父様に教え込まれたのを思い出しての発言だと思う。

「…はい、分かりました」

「いや、教えてくれないのか?」

「はい?」

「あ、済まない……」

 どうやら口に出ていたようだ。本当に死にたい……

「え、えー。時間短縮のため、質問はこれで終わりです。それでは教室に行きましょう。もうすぐHR(ホームルーム)の時間です」

 ホームルーム?英語だな。家の…部屋…?と私は、またもや恥ずかしいことを考えていた。ホームルーム?英語だな。家の…部屋…?と私は、またもや恥ずかしいことを考えていた。

 もちろん私にはその自覚は無かったが、他人から見るとそういう風に見えるのだろう。 

「あ、そうそう、これからは先輩や先生方に、きちんと敬語を使ってくださいね?」

「す、済まな…ごめんなさい」

「はい、よくできました」

そんな会話をしながら、しばらく歩くと一年A・C組と書かれた教室にたどり着いた。先に井上教師が教室に入る。

 私は、教室の扉に聞き耳を立てる。聞こえてくるのは生徒の騒がしい話し声だけ

井上教師は、一度咳払いをして

「えー、いきなりですが、今日は転入生が来ています。入って来て良いよ」

 井上教師はそう紹介する……が。

「あの…響さん?」

 そう言ってこちらの様子を(うかが)う様にして顔だけを教室の扉から外に出す井上教師

 その時、私は呼ばれているのだと察する。私は「あ、はい……」と、小さく返事をして教室に入る。

「え、えぇーっと……ひ、響……です。これ…から……よろしくお願いします……」

私がそうたどたどしく自己紹介をすると

「うん、よろしくね~響ちゃ~ん」

 と、クラスの女子生徒の一人が馴れ馴れしく私の名前(偽名)を呼んだ。

「えーっと、それじゃあ、響さんは塔弥くんの隣の席に座ってくださいね。ほら、あそこの手を振っている男子生徒。あそこですよ」

 辺りを見回すと、確かに井上教師が言っていた通りこちらに手を振っている男子生徒の姿があった。さらによく見てみると、その隣の席が空いていた。私がそこに座ると、何やら周りの視線が一斉にこちらに向いてきた気がした。

 視線に慣れない私をなだめるように。

「ハハハ。大丈夫だよ。まぁ最初は慣れないかもしれないけど、徐々に慣れてくるはずだから」

 殺し屋は裏の仕事。視線に慣れないのは当たり前

「あ、ありがとう。何とか…頑張ってみる……」

私の言葉に笑顔を返す塔弥と言われた人物

 そうしていきなり始まった社会歴史という名の授業。授業内容は、はっきり言ってほとんど覚えていない。だが、殺し屋はほとんどが地獄耳。だから全てが聞こえていた。そして、私が特殊なのか覚える事と忘れる事をきっちりと整理できた。

 何かの呪文にも聞こえる授業を軽く聞き流す。ふと、隣を見ると真剣に教師の話を聞きながら黙々とノートを取っている塔弥という名の男子生徒の姿がそこにはあった。

それはまるで、昔の私…任務に明け暮れる私を見ているようで、どこか懐かしい気持ちになった。

そうして塔弥という名の男子生徒を見ているだけでその授業は終わってしまった。

 授業の休憩時間、私が次の時間の用意をしていると、私の前に人だかりができる。

「ねぇねぇ、響さん。どこからきたの?」

「あ、あぁ…と、遠くの方から……」

「好きな食べ物は?」

などといった質問が飛んでくる。私に質問をしている人間達の間から一人の女子生徒が顔を覗かせる。

「響ちゃ~ん。これからよろしくね~私は亜矢(あや)だよ~」

 その亜矢という人物は先程私に馴れ馴れしく私の名前(偽名)を呼んでいた人物だった。

「響ちゃ~ん。困ったことがあったら私に何でも訊いてね~」

 その亜矢と名乗る人物はそう言いながら胸を張る。この人間は多少なりとも信用できそうだな。あ、いかんいかん。殺し屋は誰も信用してはいけない。いつ裏切られるか分かったもんじゃないから……それはそうと、機関の人間は多少信じなければ任務はやっていけないが……。っと、今はそんなことはどうだっていい。私は、その考えをかき消した。少なくとも今は、殺し屋ではないのだから……。

 これからは少しずつ他人を信じていこう。それが私の今後の目標となった。

さて、他人を信じるのが今後の目標となったことだが、正直何から始めればいいのか分からない。

「ねぇねぇ、友達になろうよ」

「と、友…達……」

 するとその亜矢という少女はいきなり友達になろうと言い出したのだ。いきなり過ぎて正直、ほんの一瞬だけ私の思考が止まってしまった。

「うん、友達~。響ちゃん、引っ越してきたばかりで、まだ友達いないでしょ~?」

 友達…何か言葉だけは聞いたことがあるような…気がしなくもない……か?

まぁ、何はともあれ目標に、少し近づいてはきているのかもしれない。

「あぁ、友達だ……」

 私は、ここ最近やったことがなかった笑顔を作り、そう言った。大丈夫かな、私は今、ちゃんと笑えているだろうか?

 終始心配になりながらも……、しかし私は、笑顔を崩さない。あれよあれよと、いつの間にか、昼食の時間帯になった。

「ねぇねぇ、響ちゃん一緒に学食食べに行かな~い?しかも学食はタダ、もう行かない選択肢はないでしょ~?」

自分の席でボーっとしていると亜矢という女子生徒が私を学食に誘ってくれた。そしてその亜矢という女子生徒の両隣には二人の見知らぬ女子生徒がいた。

 ちなみに私は、ただボーっとしていたわけではない。相手を油断させておきながら、こちらもすぐに臨戦体勢に入れるよう準備を――――あ、いかんいかん。つい、殺し屋の時の癖が出てしまっていた。

この癖いつか直さないとな…。

『いつか』と思っているあたり、私はダメな奴だと、そう自分の中で結論付けて亜矢という女子生徒の背中を追うのだった。

 道中、本当に何も警戒してないんだなと思い、私は試しに彼女の肩に触れてみる。

「ひゃあ、な、なに?」

「いや、何でも…たまたま私の指がお前の肩に当たっただけだが……」

 これで本当に何も警戒していないということが分かった。そもそも私の噓すらも気が付かないなんて、本当に同じ人間なのだろうか…?

「むぅ、私はお前って名前じゃないよ~」

 その亜矢という少女は、頬を少し膨らませながらグイっとその幼い顔を私に近付ける。

「すまんすまん、私が悪かった」

「ふふ~ん、まぁこの天才亜矢ちゃんなら許してやらないこともないよ~」

亜矢という少女は胸を反らしながら言う。やれやれ、この人間、いつか悪い人間に騙されないか心配になってくる。

そして、数十秒後、何やら開けた空間に出る。


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