die18話 選択授業③
現在「野外訓練」の行われているこうちょー所有の裏山の頂上に私は居る。
ベレータの殺気は私などの実行役には遠く及ばないものの強かったとは思う。
「え、えっと…「野外訓練」とは言いますが、簡単に言うと、まぁキャンプのようなものと考えていただければと」
私はそれを聞いて殺戮訓練を思い出していた。
殺戮訓練とは、殺戮と物騒な名が付いているが、私の所属していた機関で不定期で機関が仲良くしている国外の会社が運営している国外で行うオリエンテーションのようなものだ。オリエンテーションとは言っても共に訓練や任務を行うだけなのだが。たまに皆でバーベキューなど娯楽のようなこともすることもあるが、主には訓練や任務を共に行うもの、と考えてくれていいかもしれない。
「で、では、一通り見て回ったと思うので、響…さんにもやってもらおうと思います。皆いいですか?」
こうちょーの殺気に気づかないふりをして相手は続ける。
が、緊張からか恐怖からか声が小さく、生徒達全員に無視されていた。
「え、えーっと、皆さーん、響さんにもやってもらおうと思うのですが、よろしいですかー?」
今度は届いたようで生徒達が手で大きく丸を作る。
「では、二班に響さん、は入ってください。二班は一番手前の…右から三番目の班ですね」
私は三~四人班の中で二つある三人班の一つを指差された。その中にはユーユこと友実が難しい顔をして鍋に何か食材を入れているところだった。
それに私は近付いて「何をしているんだ?」と言った。
それにユーユこと友実含む三人は、背後に居た私に目をぱちぱちとしばたたかせるばかりで質問には答えない。
その静けさを真っ先に打ち破ったのはユーユこと友実だ。
「何しに来たの?」
ユーユこと友実は敵意を隠そうともせず訊いてきた。
私はその敵意を真っすぐ一心に受けながら返す。
「何しにって選択授業だが……?」
私の答えが気に食わなかったのか顔を俯かせて肩を震わせるユーユこと友実は、次の瞬間顔を上げたかと思えば目をぐわっと見開いて私を睨んできた。そんなものちっとも怖くないが。
「だから!私達の班に何しに来たのか?って言っているの!」
これはさすがにまずいと感じたのか担当の奴とこうちょーが止めにかかる。
「離して、離して!」
私を殴ろうとしたのか、顔を真っ赤にして拳を振り上げたまま大の大人二人掛かりで止められるユーユこと友実。
ガタイが良い担当の奴はまぁいいとして、背が小さいこうちょー、もといベレータは止められているかは不明だが。
最初は担当の奴の腕の中でじたばたと暴れていたユーユこと友実だったが、無駄だと悟ったのか今は大人しくなっていた。
「気絶させるか?」
私はユーユこと友実を取り押さえている担当の奴に訊ねると、それに担当の奴だけでなくこうちょーも顔色を悪くさせて必死に首を横に振っていた。
ユーユこと友実が文句を言って暴れたせいで、私は「野外訓練」の場所を後にすることになった。
そして、帰りの車の中で私は「野外訓練」の内容をこうちょーから聞かされていた。
「「野外訓練」はまぁあの人が言った通りキャンプのようなものらしく、軽くあそこでお昼を食べることもあるそうです」
私は首を傾げながら分からないところをこうちょーに聞いた。
「お昼、というのはさっき鍋で作っていたもののことか?」
私の疑問にすぐに反応してベレータは答える。
「はい、今回はカレーライスを作っていたようです。どう考えても軽くではないと思うのですが、本人達が「軽く」と言うので今はもうそれでいいと思っています」
「おいいいのかそれで」
と、私はツッコミを入れる。
「そのお昼を食べたら食堂でまた食べるのか?」
私が訊くとこうちょーは「あぁ、それはですね」と前を向いたまま教えてくれた。
「どうやらあそこでお腹いっぱい食べる生徒が大人数居て、食堂で食べ直す生徒は数える程しか居ないそうです」
「数える程とは言え、食べ直す奴も居るには居るんだな」
手を顎に添えてそんなことを呟く。
「そうですね。私は始めの時、山頂でたくさん食べたのにまた食堂で食べる生徒が居ることに驚きでした」
裏山から帰ってきた私達はグラウンドに移動した。
グラウンドで行われているものは、「射撃」という項目で、グラウンドの一角にいくつか的がずらっと並んであり、その前に人が立って的を撃ちぬく、というものだった。
だが、的の前に立っている人間の手元は弓だったり銃だったりと様々だった。
私は隣に居るベレータに訊ねる。
「そう言えば「(こ)射撃」(こ)は確かリ、リー…とかいう奴が居るんだよな」
「私は誰がどのコースに居るのかは全く理解していませんから…あら?」
ベレータは不意にある一点を見つめた。
私も目を向けると、そこには眼鏡をかけた背の高いスーツ姿の無精ひげを生やした筋肉質の男性が静かに佇んでいた。
「あれ…ボスですよね?」
ベレータは声を潜めて私に言った。これには私も声を潜めて返した。
「気が付かないふりをしていたというのに、お前は……はぁ~」
私がため息を吐くと同時、お父様、否、ボスがゆっくりとこちらを見た。
「ひっ!」
ボスがこちらを見ると、ベレータが私の後ろに隠れてしまった。
ボスは眼鏡をカチャッとすると重々しい声を発した。
「君達、いつまでもそこに居ないでこちらに来たらどうだい?」
私はボスの元へ歩き出す。ベレータがくっついているせいで少し歩きにくいが。
私の中で、というよりどの殺し屋でもボスの言うことは絶対、このことに例外はないだろう。
「あ、あれ?あなたがどうしてここに?確かここには女性の講師が来る予定ではなかったでしたっけ?」
聞けば、ベレータは選択授業の前に、ボスから電話でどのコースにどの講師が来るのか聞いているらしかった。
「あぁ、彼女は急用で来られなくなったらしくてね。代わりに私が来たということだよ」
ボスは淡々と言葉を言う。
ベレータは緊張して全身がガチガチだったが、その声色にはそんな緊張を感じさせないように必死に言葉を絞り出していた。一般人ならこうちょーが緊張していることなど全く感じさせなかっただろう。
「お久しぶりです。お父様」
私は胸の前に握りこぶしを作って、少しだけ声を高くして、いわゆるかわいい娘全開で、ボスにあいさつをした。が、ボスから返ってきたのは。
「ん?私は君の父ではないが」
返ってきたのはそんな言葉だった。
胸の前から握りこぶしを離して、頭を下げる。
「あ、はい、申し訳…ありませんでした……」
他の二コースと同じように、私は皆の前であいさつをする。
「ねぇヒビッチ、あの人がこの前言っていた新しいお父さん?お父様って呼んでいたよね」
他の二コースと同じように、私が皆から少し離れた所から見学していると、リリーこと琳が私に話しかけてきた。
「あぁ、そうだな。だが、今は仕事モードに入っているが、ああいう所、憧れる」
私は尊敬の眼差しでボスを見ていた。
「あ、そうなんだ……」
と、リリーこと琳は私を見て若干引いていた気がする。
一方こうちょーとは言うと、私の一歩後ろで完全に小さくなっていた。
「そこ、列に並ぶ!」
ボスは急にこちらを見ると、リリーこと琳に指を指して注意した。
「はい、すみません」
リリーこと琳は大人しく列に並ぶ。
「もし良かったら君もやってみるかい?」
ボスは角度的に私にしか分からないように微笑んで私に提案した。
「よ、よろしいのですか?お父…せん、せい……」
緊張して危うくお父様と呼びそうになったが、何とかそれを堪えて私は先生と呼ぶ。
「聞けば君は転入生だというではないか。若い才能を伸ばすのも教員の役目。良い生徒を持ったな。齋藤」
ここに来たのはあなたの指示ですけどね。という言葉を私は飲み込む。
齋藤?と私は首を傾げる。がすぐに答えが返ってきた。
「あぁ、齋藤は私の名前です」
後ろに居るこうちょーが遠慮がちに声を上げた。
「ふーん」
私はそう言って前を向いた。
「そう言えば、ここに居る者達は弓や銃を持っていますが、なぜ弓を?銃だけで……」
隣に立っているボスに私は訊ねた。がボス……先生は的の所に戻っていた。
「ここに居る人達は皆子供ですからね。筋力などがまだ足りないケースが多いんです。だからそういう子のために弓が用意されているんですよ」
先生の代わりにこうちょーが教えてくれた。
私は皆と同じように列に並ぶと、ボスがこの「射撃」のシステムを教えてくれた。
どうやら、この「射撃」という種目は、的を挟んで置いてある二つの長い机の上に置いてある好きな銃や弓を自分で選んで的に撃ったり放ったりするらしい。
私は手頃な拳銃を手に取って列に並ぶ。
私が列の一つに並ぶと、あのような女子にできるのか、誤って人を殺さないか、などといった言葉が聞こえてきた。
本人達は小声で言っているつもりなのだろうが、私でなくてもここに居る者達には聞こえているだろう。
そんなにこの者達は私の実力を見たいらしい。ならば少し本気を出すか。
私は列の先を確認する。そこには銃を構えてボスに教えられている女子生徒が居た。
正直とても羨ましいが、私は我慢できる人間だ。この寛容な私に感謝してほしいものだ。我慢……我慢……我慢……。




